手紙―③
ほぼ一カ月ぶりの更新になってしまいました。
居るかどうかは分かりませんが、待っていて下さった方にお詫びとお礼を捧げます。
ビショップ氏の邸宅はT川に架かるK橋を渡ったK町にあった。君も知っての通りK橋はJRのH線K駅の正面にある。
「フケだらけの野暮ったい名探偵」が初登場した推理小説はココから始まっているのは地元じゃ有名だが、まぁソレはイイ。自転車でK橋を渡り暫く進むとO川が見えて来るが、その手前の交差点で左に折れた先の途端にうら寂しくなると言うか、のどかな田園風景になるその中にビショップ氏の邸宅があった。
真新しい白を基調とした石造りの屋敷。何と言う石かは分からないが重厚で深みのある色合いだった。敷地も150坪ぐらいだろうか、十分な広さがあり植木も手入れが行き届いているように見えた。だが何故だろう。周りは田園で開けていて日当たりも良く、白く真新しい屋敷なら有り得ない程に陰鬱な雰囲気が漂っていた。
何か――どこかは判然としないが――僕が生きて来た世界とは違うモノを感じながらも不思議と躊躇無くインターホンを押していた。
すると若くどこか抑揚の無い女性の声が聞こえて、来意を告げると門扉が自動で開き――今思うとこの時モーターの音はしなかったな――ドアが開きメイド姿をしたいやに肌の白い、しかし白人とも東洋人ともつかない不思議な顔立ちをした情勢が現れて僕を招き入れた。
きっと僕と同年代なんだろうな―そんな事を考えながら付いて行くと書斎らしい部屋へ通され、正面にある安楽椅子にビショップ氏が座っていた。一通り挨拶を済ませると立ち上がって僕を歓迎した彼は僕に椅子を勧めながら自分も安楽椅子に戻ったんだが驚いた事にその間、彼は全く足音をさせなかったんだ。この屋敷は外国人のビショップ氏らしく土足だと言うのに。座って足を組んだ彼の靴はどう見ても極普通の――いや高級品にしか見えないが――革靴だったんだが。
そんな僕の驚きに気付いた風も無くメイドに飲み物を持って来るよう指示したビショップ氏は今まで通りに語り始めた
。
「この屋敷に招待したのは君が初めてだよ。永住の地では無いとは言え愛する我が家だ、招く開いては選びたいからね」
「光栄です。しかし…凄い書斎ですね」
部屋の中の壁と言う壁を埋め尽くした年代物としか見えない本棚を見回しながら僕は答えた。ある本棚には、これまた年代物にしか見えない様々な言語で背表紙にタイトルを書かれた分厚い本がぎっしりと詰め込まれ、隣の本棚には日本語の学術書・新書――タイトルからすると科学関係と歴史モノが大半だ――が並ぶと言った様子だったんだ。きっと君も僕同様の言葉しか出なかっただろうと断言出来る。だが帰って来た答えは――そう、ある意味で予想通りのモノだった。むしろこういう場合にはお約束と言ってイイのかも知れない。
「何を言っているんだね。地下室にはこの10倍はあるのだよ」
「え…本当ですか!?」
「本当だとも。君さえよければ後で案内しよう」
「是非ともお願いします!!」
その時だったと思うが、ノックの音がしてビショップ氏が入るよう答えると先刻のメイドがコーヒーを持って入って来た。遠慮なく頂くと今まで口にした事が無い程の美味さだったのを覚えている。(さすが海外の上流階級は違うな…)なんて思いながら宇宙談議に花を咲かせていた。
様々な宇宙開発の裏話や天体発見の歴史、その為の技術開発、ソレに伴う人間ドラマ。宇宙と人類の信仰と神話。
どれ一つ取っても自分の知識がいかに浅薄なモノだったのかを思い知らされた。そんな僕にビショップ氏はこう語ったんだ。
「日本は技術大国だと言うのにこの本の少なさ、内容の浅さはどうした事だ。例えばアメリカには『サターンV型ロケットの第一ブースターだけの研究書』が有ると言うのに」
「いやソレは…と言うかアメリカ人はそこまで突き詰めるものなんですか?」
「と言うより知識を求める人の層と質の違いなのかも知れないね。まぁその反面、宗教の所為か客観的・科学的な事実を受け入れない人が多いのも事実だ」
「未だに進化論を受け入れない人が多いと聞いた事はあります」
「ああ、全く嘆かわしい事だ。だが逆に君の様に知識を求める者には実に良い所でもある。一個人もだが、国にも世界にも、そして宇宙にも数えきれない程の多様な側面があるのだよ、中々実感出来ないがね」
「頭では分かっているつもりです」
「十分だ。君ならいずれ実感する日が来るだろう」
そしてそのまま話は哲学的な性格を帯びていった。
宇宙の果てはどうなっているのか? 何故ビッグバンは起こったのか? 時間の果ては? 宇宙はどこまで膨張するのか?
確かにある程度は科学的に考えられている部分もある。しかしまだまだ研究の途上でしかないし、むしろ僕の知識欲を刺激するだけでしか無かった。
続く
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当初は4000文字ぐらいで予定していた話なんですが・・・・順調に長くなってますw
執筆ペースト同じくダラダラと延びまくりですね。
挙句の果てに全く別のシリーズまで思いついている始末。
バカですねぇ・・・・私。
まぁどんな話も発表するまでは大傑作ですから、頭の中にあるうちが幸せなのかもW