突然の失踪
シリーズとしてはホラー(と言うか恐怖モノ)なんですが、今回はかなりSFに近いかなと。宇宙論がメインだし。んなワケで今回はジャンルを「その他」にしてみました。
「予約掲載」にしたら尻切れトンボになってましたので、消えた部分を書き足して再投稿です。
頼むよ運営さん・・。
僕の親友が失踪してから1カ月が経とうとしている。彼とは小学校以来の付き合いで、僕が4年生の時に転校してきてからずっと共に過ごして来た。中学・高校と同じ学校に進学し、大学受験を控えた高校3年生の夏休みに突然姿を消してしまった。原因は不明。書置きも何も無く、これまでそんな事をしでかすような様子は全く見られなかった。特に何のトラブルも無く、成績も順調。受験に対しての心配も無かった。家族や僕を含めた友人達、それに彼女――付き合い初めて半年程だが――も突然の出来事に驚き、また悲しむ事しか出来なかった。
ここで彼の人物像について記しておこう。失踪したのは大田一樹で18歳。中肉中背で少し乾燥気味の黒髪をやや短めぐらいにしてある。目がパッチリとしていて、イケメンとまではいかないが愛嬌のある顔立ちをしている。正義感の強い性格で曲がった事は大嫌いな、いわゆる男くさいタイプだ。スポーツに関しては極普通の身体能力だが、学業については「好きな分野に関しては勉強しなくても学年トップクラス。だが嫌いな分野はいつも赤点スレスレ」という絶妙なバランスを保っていた。よく言う天才タイプなんだろう。
その得意な分野は現代国語と理系全般。彼が言うには「得意なのは現国で好きなのは理系」だそうだ。つまり物理や化学は好きではあるが、現国ほど「得意」なワケでは無いのだろう。現国は授業を聞きもしない状態でも常に学年順位が一ケタというムカつく成績をキープしていたが、物理・化学は授業を聞かないといけないとか言っていやがったのも、今となっては胸が痛む思い出だ。
一方の苦手分野である数学・英語は最初から授業さえ聞く気が無かったと言っていた。ソレで赤点を取らなかっただけ大したモノなのかも知れない。
彼女は清楚な感じで大人しめのタイプだ。性格のイイ娘で、間近で二人を見ていた僕も嬉しかった。彼はイイ奴だがどうも不器用で、上手い事が言えないタイプだった事が響いてか今の彼女が初めて出来た恋人だったのだ。僕も親友には早くイイ彼女を見つけて欲しいと思っていたし、彼ならもっと早く見つけられるハズだと思っていたのだ。
だが現実がそうならなかったのは、やはり不器用な性格のせいだったのだろうか。それに惑わされず、本質を理解してくれる彼女――新谷香――と出会えたのは神に感謝すべきだったのかも知れない。
また、彼が幼少の頃から大好きだったモノに天文学――と言うより星そのもの――が挙げられる。星空を眺めていれば、何時間でもそのまま過ごせると言うのだから筋金入りだ。去年にひと夏のアルバイトで念願の天体望遠鏡を手に入れた時には、まるで子供の様に喜んでいたのを覚えている。大型の望遠鏡だったので、よく観望に付き合わされたものだ。どちらかと言うと運ぶための手伝いだったのだが、縁の無い人には一生見る事の出来ない遥か彼方の光景を見る事が出来たのだからその点は感謝している。
そんな彼だから、失踪した時も一人で天体観測に出かけて事故に遭ったのではないのかと疑われたが、大事な天体望遠鏡がそのまま残されていた事と、いつも観望に出かける自宅近くのT川――O県3大河川の一つだ――を捜索しても遺体が見つからなかった事からその線は無いモノとされた。
営利誘拐にしては犯人から何の要求も来ない事から、コレも無いと判断された。と言うよりも、無くなっていたモノはパジャマだけだったのだ。つまり、下手をすると「部屋の中から忽然と姿を消した」可能性すらあるのだった。
しかし、そんな「現代版神隠し」など誰も信じはしない。当たり前だ、この21世紀の日本でそんな迷信を口にするなどオカルト信者だけだ。
そう思っていたのだ。今日の今日まで。
僕が信じていた世界は今日、ガラガラと音を立てて崩れ去った。有り得ない事が起こったのだ、大田の身に。
そう考えるのが最も合理的であろう事が今日、僕の身に起きてしまった。
失踪した大田からの手紙と思しきモノが届いたのだ。突然、それも僕の部屋に直接。手紙と思しきものと言うのは、ソレの材質がどう見ても「紙」では無いからだ。と言ってプラスチックでもないし金属でもない。僅かに曇りがあるが透明度の高いプラスチックの様に見えて、やけに重みがある。プラスチックでこの重みはおかしいし、金属ならこの透明感は無いだろう。文字はこの「紙」――表現のしようが無いのでこう呼んでおく――に彫り込まれるかたちになっている。透明なプラスチック板に文字などを刻みこむと光が内部に反射して光って見えるが、あんなカンジだ。そして書かれていた内容は僕の精神を蝕む類のものだった。
その内容が本当なのかどうかは、既に確かめる手段が無い。何故ならこの「手紙」は読み終えた瞬間にボロボロに崩れ落ち、真っ白な灰になってしまったのだから。
だからコレはもしかすると僕の妄想、或いは白昼夢だったのかも知れない。いや、むしろそうであって欲しいと切に願う。仮にこの内容が全て真実だったとしても、近いうちにどうこうと言う事は無い。その通りになるのは数十万年以上先の話だ。それでもこの宇宙の未来に関するあまりにも意外で絶望を伴う事を知れば、例えソレが遥か未来の事ではあっても心穏やかではいられないだろう。
この恐ろしい話を出来るだけ忠実に再現してみる事にする。僕の親友の身に起きた人外の恐怖も含めて。
コレが真実かどうかは、遥か遠い未来に分かるだろう。
続く
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肝心の手紙の内容は次回からになりますが、前書きにもあるように宇宙論がメインになります。
平易な言葉で分かりやすく書くつもりですんで、どうかお付き合いの程を。