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第4話 雷鳴の使者

“天空を司る神エメリアは、それまで闇に包まれていた世界に光が満ち溢れ、そこに暮らす住人が風景の美しさを感じ取れるよう、白金に輝く太陽を創造した。――七耀神話、第7節”




―雷鳴の使者―




「コートさん!」


 アンセル・トリヴァ―は安堵の表情でコートを見やった。伐採者コートはすでに全身のありとあらゆる場所にベイロスによる切り傷を負っていた。


「アンセル、下がってな!お前はよくやった」


 コートが勇ましく言った。コートの隆々とした腕がベイロスに追い打ちをかけようと鋼の斧を握りしめる。


「コートさんも傷だらけじゃないか!俺はまだやれるよ!最後まで戦いたい」


 アンセルは腕に走る痛烈な痛みを堪えながら、必死に大剣クレイモアを構えようとする。


「こんなものはかすり傷さ……。俺はいつくたばってもいい。だが、お前には未来がある!月十字軍の守護騎士になって、ノーザレアを守るんだろ?」


 コートはそう言うと、ベイロスとの激しい戦闘を再開した。コートの鋼の斧とベイロスの金属のように堅い爪がぶつかり合う音が甲高い金切り声を上げる。

 アンセルは再び戦場を見渡した。伐採者達は皆、ベイロスの刃で切り裂かれながらも、決死の覚悟で戦っていた。しかし、この現状も長くは持たないだろう、とアンセルは思わざるを得なかった。ベイロス達の勢いはいっそう増すばかりだ。


「コートさん、俺は戦う。みんな命がけで戦ってるのに、ただ見ているだけなのは嫌なんだ!」


 アンセルは大きく声を張り上げた。彼のやや青みがかった銀髪が松明の灯に照らされ耀きを放っている。彼は覚悟を決め、最後の力を振り絞ってクレイモアを握りしめた。そして、暗黒の中で赤い目をぎらつかせ、飛びまわるベイロスに大剣の一撃を加えるべく彼が走りだそうとしたその瞬間、雷鳴に似たような轟音が仄暗いイースリッドの闇の中に響き渡った。アンセルはそのとどろきが耳をつんざく中で、まるで稲妻が地面を沿うように、高速でジグザグに移動するまばゆい閃光を目撃した。その閃光は素早く飛びまわるベイロスを正確に捉え、雷鳴の如き轟音と共に致命傷を与えていった。ベイロス達の悲痛なうめき声が辺りにこだますると、今度は雷に打たれて肉が焦げたような臭いが立ち込めてきた。その閃光は十頭ほどのベイロスを一度になぎ倒すと、松明の灯に当てられゆっくりと正体を現した。紫の電流が刀身の表面を駈け巡りまばゆい光を放つ魔法剣を携え、年の頃は、四十半ばに見える壮年の剣士だった。彼の髪と蓄えられたあご髭は白銀に輝き、真に漆黒な瞳からは正義の灯がほとばしっている。そして、多くの旅人が着るようなフードが付いた土色の外套に身を包んでいた。

 その剣士は『稲妻の剣』で疾風迅雷に敵兵を撃破するその姿から『雷鳴の使者』と呼称され、8年前の『ニルアナ防衛戦』ではノーザレアの英雄と謳われた『オーランド・ヴォルト』の右腕としてガリア帝国軍の撃退に貢献した『クロイス・トリヴァ―』、まさにその人だった。


「クロイスさん!!」


 一斉にクロイスの方を見やった伐採者達が口々に嬉々とした声色で叫んだ。


「クロイスさんが帰ってきたぞ!もう大丈夫だ!戦況は変わった!このまま一気に片を付けるぞ!」


 雷鳴の使者、クロイス・トリヴァ―の参戦を受けて、伐採者たちの士気がまたたく間に上昇した。一方、ベイロス達はクロイスに仲間が次々と倒されていく状況を見て、それまで憤怒に燃えていた恐ろしい表情が怯える子犬のような表情に変わっていった。少数ながらもベイロスによる負傷を免れた伐採者達は、今が好機と言わんばかりに怯んだベイロスを各個撃破していった。さらに、クロイスが稲妻の剣によって5頭のベイロスを引き裂くと、残った少数のベイロスは勝ち目が無いと悟ったのか、蜘蛛の子を散らすように森の闇の中へ消えていった。

 

 彼らは凶暴な魔獣の集団との戦いに勝利したのだ。伐採者達の大半はベイロスによる鋭い刃物で切り裂かれたようなひどい傷を負っていたが、幸いにも死亡者はいなかった。

 彼らは勝どきを上げた。それは巨大な雄たけびとなり、イースリッドの森全域に響き渡った。


 伐採者達は窮地を救ったクロイスに駆け寄り、声をかけた。


「クロイスさんが来てくれなかったら俺たちはどうなってたことか……。でも、あんた、明日まで『法都ノーダム』に滞在するはずだったんじゃ?」

「ああ、私が出席していた議会は明日まで行われるが、今日で抜けてきたんだ。嫌な胸騒ぎがしてな……。先のベイロスのことであればいいんだが……」


 クロイスは顔をしかめた。


「やっぱりクロイスさんだぜ!俺たちのことを心配してくれたんだな!」


 一人の村人が嬉しそうに言った。


「クロイスさん、あんたのアンセルもよくやったよ。ベイロスを一刀両断したんだぜ」


 コートはアンセルの方を指差した。


「父さん……、俺は……」


 アンセルは、自分が最後まで戦えなかったことを心の中で悔やんでいた。彼がその旨を伝えようとしたその瞬間、クロイスは自身の言葉でそれを遮った。


「アンセル、何も言わなくていい。その腕を見ればお前が頑張ったことくらいすぐ分かるさ。よくやったな」


 そう言って父は我が子の頭を優しく撫でた。アンセルは目頭が熱くなり、今にも涙が溢れそうになるのをぐっとこらえた。


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