プロローグ
”その聖なる光が及ぶところでは、よこしまな者たちは目を開けることすらできない。――ヘンリー・マーカス著、『聖なる夜』 ”
―光の魂―
そこはただただ闇と静寂に包まれた空間だった。暗黒、そして音の無い世界が限りなく続く。いつからこの空間は存在するのだろうか。そもそも空間と呼べるような証拠さえ何もない、果てしない無の世界だった。
しかし、ある時ただ一点の光がそこに迷い込んできた。その光は果てしない闇の空間のごくわずかな部分を明るく照らしながら、流木のように暗黒の波を漂った。光はそこが空間であるという確かな証拠を示した。
一点の光は時々、感情を表すかのように大きな輝きを放った。そのたびに暗黒に満ちた世界が少しだけ明るくなった。
光が迷い込んで、どれだけの時が経ったのだろう。いや、時間という概念がここにはあるのだろうか。闇と静寂に包まれた何もない世界。時間の流れを感じさせるものは何も無い。果てしない無の空間。それでも光は誰かに呼びかけるように輝きを放ち続けた。
そして、それまで音が無かった空間に声が響いた。
「君が呼んでたんだね」
少年の声だった。光もその声に呼応するように大きく輝きを放ち、声の主は輝きに包まれて姿を現した。金色の髪をした少年だった。少年は波を漂うかのように、何もない空間に浮かんでいた。
「ずっと一人で寂しかったんだね。ぼくもずっと一人だったんだ。けど、君とこうして出会ったんだ」
少年が話しかけると、光は語りかけるようにまたたいた。そのたびに少年の金色の髪が美しく輝いた。
「君は大切なものを置き忘れてきたんだね。」
少年は光が伝えたいことを理解しているようだった。
「教えてよ。君が忘れ物をした場所を。ぼくが連れてってあげるよ。」
すると、光はそれまでにない輝きを見せた。喜びを表すかのように。
「友達になってくれたお礼だよ」
そう言うと、少年は両の手のひらを広げて、光に向かって差し出した。やがて、光はゆっくりと移動し、少年の手の中におさまった。
「行くよ。君の忘れ物を取りに」
まもなく、それまで深い闇の中に輝いていた一点の光は消え、後には、再び何も無い静寂と闇に満ちた世界が残されていた。




