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6 取 引

夏野菜の苗が届いたので、小さな畑に植えました。トマト、ナス、キュウリ、スイカ、カボチャ、ピーマン。欲張りました。その影響で書くのが遅れました。

 ここのところ、いよいよ暑くなってきた。本当に季節は初夏で、合っているのだろうか。

 私の服装は、4月の内に夏用に代えてある。虎子は毛代わりが追い付かず、今もその真っ最中である。ブラッシングを毎日してあげているが、終わりがない。

 しかし、虎子は寒いより暑い方が体に合っているのだろう。3月の頃と比べると行動範囲が広がっている。また家の中でも活発だ。

 その分、被害が広がっている。障子や、襖の事だ。

 父母が生きていた頃から、それを一度も張り替えた事がない。黄色く変色しているが、機能的には特に支障がないので、今まで張り替える事もなく使っていた。それを虎子が爪で破いてしまった。

 ちょうどいい機会なので、張り替える事にした。

 しかし、新しく張り替えても虎子がまた爪で破るかもしれない。ここは一つ叱っておかねばならない。何が悪い事なのかを教えるためだ。

 叱るタイミングは現行犯に限る。


 明け方、ガリガリと隣の部屋からの音で目が覚めた。

 直ぐに何の音か察しが付く。虎子が襖を爪で破いている音だ。起き上がって覗くとその通り。

「こらー」

 私は大声を上げる。虎子は驚き、慌てて逃げだす。廊下の急カーブを曲がり切れず、こけそうになる。後ろ足が滑っているのだ。まるでドリフトする車のようだ。

「ぷっ」

私は虎子の慌て様が面白くて思わず吹き出す。これから叱らなければならないのに、顔がしまらない。

虎子は秘密基地である掘りコタツの堀の中に逃げ込んでいた。私はその傍らに座りお説教を始める。勿論、真面目な顔を作って。

「襖で爪を研ぐのはだめだ。爪を研ぐのは専用の物を使いなさい。障子を破るのもだめだ。分るか」

「ニャー」

 返事はした。本当に解っているのかは解らない。

 取敢えず虎子を叱った。効果は解らないが、襖の張替えをすることにした。


 襖の張替えは初めてだ。やり方はYou Tubeで勉強した。最近は、動画が数種類配信されていて誰でもできるようになっている。

 しかし、それで簡単にできるのなら襖屋さんはいらない。「作業は難航した」プロジェクトXのナレーションが聞こえてくるようだ。

 私が慣れない作業に四苦八苦している傍らで、虎子は見知らぬ道具類に鼻を近づけ、匂いを嗅いでいる。虎子の識別判断の最優先は匂いなのだろう。

 特には邪魔にならないので、好きにさせておく。

 襖を2枚ほど張り替えると、この作業にも慣れて来た。3枚目の襖に取り掛かる頃には、私は鼻歌を歌っていた。中島みゆきの地上の星を。

 虎子はいつも間にか、いなくなっていた。私が歌い出すと、いつもどこかへ行ってしまう。聞くに堪えないと思っているのだろう。私の歌が下手なのは事実だ。

 しかし、ネコが嫌がるほど下手だという事実を知らされ少し凹む。

 作業はなんとか1日で終了し、8枚の障子と3枚の襖を張り替えた。我ながら良い出来だと思う。障子も襖も隅の方に皺が残ったが、気にならない事にする。

 世間では、「無かった事にする」「聞かなかったことにする」と言う言葉があり、よく使われている。私の「気にならない事にする」など、道徳的には初歩の初歩、誤魔化してはいない。

私は何かと屁理屈を付けないと自分を納得させることができない。生真面目である。

 私と比べて虎子は、良い言い方をすれば大らかな性格であるようだ。悪い言い方をすれば、いい加減。

一見まじめそうなところを持っているが、「悪い事をして、何が悪い」と思っているところがある。

それがネコの(さが)なのなら、良いも悪いもない。


 障子と襖を元の位置に取り付け、虎子と一緒に暫し眺める。

「綺麗だろ虎子軍曹、だからこの障子と襖は破らないでくれよ」

「・・・・」

 返事がない。それは承諾できないと言う事か。

「・・・・」

 私は虎子を従わせる言葉が思い浮かばない。そもそも言葉で意思の疎通が可能なのか。


 そしてあくる朝、昨日の慣れない作業の影響か、体のあちこちが痛い。目が覚めても直ぐに起き上がる気にならない。

「ニャーニャー」

 起きて朝ご飯を出せと言っている。

「もう少し寝かせてくれ」

「・・・・」

 ガリガリ。聞き覚えのある音がする。

 私は首だけ起こして、音のする方向を見る。

 虎子が、顔はこちらに向けて、右前足は襖を爪でなでている。

「この襖が、どうなってもいいのか」と虎子の目がそう言っている。

 なるほど、そう来たか。

 取引のつもりか。

 しかし、私は、テロリストと取引は行わない。

 ガリ。また虎子が爪で襖をなでる。

「こらー!」

 私は勢いよく体を起こす。

「痛たた」筋肉痛だ。

 虎子はダッシュで逃げて行った。

 私は起き上がり、いつも通り、朝食を作る事にした。

 結果的には虎子の勝ちだ。

 私が台所に立つと、虎子は私の足元にすり寄ってくる。私は虎子のエサを皿に入れてあげる。

是非もなし。

なんとか6話書きました。親戚で田植えが始まります。手伝いに行きます。

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