5 雨の日
朝まで降っていた雨な、昼には上がっていた。雨が降っていいたので雨の雰囲気で書こうとしたのに、できなくなってしまった。仕方がありません。心の中に雨を降らせて書いてみます。
5月に入って気温は一気に上がった。25℃を超えている。夏日の到来だ。
でもお天気は冴えない。外は雨、虎子も窓から外を眺めるだけで、出て行こうとはしない。
私は反対に外に出ていきたい。こんな日はジョギングを楽しみたい。
自衛隊現役の頃なら、25℃程度で雨が降っていれば、ランニングのベスト コンディションだ。何も気にせずランニングを楽しんだだろう。
だが、今は環境が違う。周りの人たちの価値観も少し異なる。その上、世間体と言うものがある。
年寄りが雨の中をジョギングしている。そんな姿を見られたら、ここでは変人のレッテルを張られる事、間違いない。
それだけなら気にしないが、何か事が起これば一番に疑われる対象となる。
この様な田舎は特に気を配らなくてはならない。この土地で生まれ育ったとはいえ、30年以上も離れている。ご近所さんからしたら、得体のしれない者が引っ越してきたと思っているはずだ。
目立つ事は避けるべきだ。信用を築く必要がある。
とはいえ、焦る必要はないと思う。適度に明るく接していれば、時間が信用を育てる。
そういう訳で、仕方がないから、私も虎子と並んで大人しく窓の外を見る。
窓の外は相変わらずの雨が降り続いている。
「虎子軍曹、外に何か見えるかい」
「ニャー」
異状ありませんと返事があった。本当かな?
雨で視界が悪く、音も聞こえにくい。索敵には困難な状態だ。
そろそろ郵便配達さんが来る頃だ。勿論、来ない日もある。
突然、虎子の耳が立った。目も大きく開かれている。
私には何も見えないし、何も聞こえない。雨の音がするだけだ。
ブルルル。雨のカーテンをそこだけ開いたように郵便屋さんのバイクが現れた。
虎子は窓から離れず、郵便屋さんを見ている。少しは郵便屋さんに慣れたようだ。
そして、私に振り返りかえる。
「ニャー」
司令官、郵便屋さんが来ました。そう言っている。
「分かった。ご苦労」
私は傘を片手に外に出て、ポストからハガキを取り出す。電気料金のお知らせだった。
2万円ほどだ。これまで寒かったので、コタツはほぼ、つけっぱなし。少し高いと思うが、秘密基地の必要維持経費だ。やむを得ない。これからの季節は安くなるだろう。
そんなことを思いながら、ポストから家の窓を見ると、虎子の可愛い顔がこちらを見ている。先ほどまでは、その虎子の横に爺の私の顔が並んで見えていたのだな。郵便屋さんの目にはどのように映ったのだろう。
想像すると少し恥ずかしい。
まあいいさ、間の抜けた顔を見られようと今後に支障が出るわけでもない。
それよりも、お昼は何にしようか。
台所に入り、冷蔵庫の中を覘く。ロクな物がない。気が付くと虎子も隣に来て、冷蔵庫を覗いている。
「・・・」
虎子は何も言わない。多分私と同じで「ロクな物がない」と思っているのだろう。
「仕方がない。買い出しに行くとしよう。虎子も来るかい?」
私は虎子に話しかけながら、ネコ用キャリーケースに目を向ける。
虎子の反応は早かった。早足に秘密基地である掘りごたつの掘りの中に隠れた。
「では虎子は留守番だな。お土産はにゃんチュールでいいな」
「ニャー」
良い返事が返ってきた。どこまで人間の言葉が解るのだろう。都合のいい時ばかり返事をしているようにも思える。
年寄りは都合が悪くなると、耳が遠いような振りをする。あれと同じような気もする。
そう思いながら虎子の顔を見ると、狡猾な年寄りの顔に見えてくる。
「まさかね」
私は車を出して買い出しに出かけた。雨がいつやむか解らないので洗濯物もコインランドリーでやってしまう事にした。
小一時間ほどで用事を済ませ帰宅した。車を降りて玄関を開けると虎子がお出迎えしてくれた。いつにない事だ。
「ただいま。待たせたようだね」
虎子は私の足にすり寄ってくる。早くお土産を寄越せと催促しているのだ。
私は虎子専用の皿ににゃんチュールを載せて差し出すと、虎子は勢い良く食べだした。
そして食べ終わると、私を無視して居間へと立ち去る。私は既にこのパターンにはもう慣れた。
ネコを指してツンデレとよく耳にするが、それは間違いである。表向きは冷たくて素っ気ないが、本当は相手の事が好きなのがツンデレであるが、ネコの場合、表向きは相手の事が好きなように見せるが、本当の所は冷たいのである。デレツンである。
しかし、その様な事はどうでもいい。虎子は可愛いから、ツンデレでもデレツンでもどちらでも良いと思う。
甘々の上官です。猫かわいがりの言葉は正解です。困ったものです。
我が家のネコも可愛いです。困ったものです。




