2 春の訪れ
本当は、短編で終わるつもりでしたが、虎子との日々をもう少し続けてみたくなり、連載に切り替えました。今回はワイルド編です。
今日は、ほんのりと温かい。春日和と言われる日である。
虎子も陽気に誘われたのか、秘密基地から出てきて窓の外を見ている。
何を見ているのだろうと、私も窓に目を向ける。
庭では、メジロのつがいが椿の蜜を吸いに訪れていた。
「チュル、チュル」
メジロがさえずる。
「ニャ、ニャ」
すると虎子はメジロのさえずりを真似て鳴く。
「メジロに話しかけているのかい。友達になれるといいな」
「・・・・」
虎子は私をチラリと見たが、何も言わない。
今のは軽蔑の眼差しだった。私は何か軽蔑されるような事を言っただろうか?
そうだった。今虎子は基地警備の任務に就いている。となると基地近くに無断で訪れたメジロのつがいに警告を発していたのか。
なのに、私が呑気な事を言ったので「この司令官、大丈夫か」と思ったのかもしれない。
「あの鳥は大丈夫だ。警戒しなくてもいい」
「ニャー」
今度は返事した。多分「了解しました」と答えたのだろう。
虎子は返事をした後、ゆっくりと玄関から出て行った。
私は台所に移動し、鶏肉とキャベツを冷蔵庫から取り出す。昼食は若鳥の胸肉を使った照り焼きにするつもりだ。
鶏肉をグリルに入れ火を付ける。鶏肉を焼いている間にキャベツの千切りを作る。
私がキャベツを切っていると、虎子が帰ってきた。私の足元にお座りをして、こちらを見ている。餌のおねだりかな。
しかし、次の瞬間、私は息を飲んだ。虎子の足元には動かなくなったメジロが置かれていたのだ。
直ぐに私は理解した。虎子が庭にいたメジロを捕まえてきたのだ。ピクリとも動かない。既に死んでいる。たしか庭に飛んできたメジロはつがいだった。その片割れだろう。これから愛を育み、子育てを夢見ていただろう。可哀そうに。
しかし、虎子を叱るべきか。私は少し悩んだ。
何をもって叱る?人間の倫理観など虎子には関係ない。叱る理由がない。私にメジロを持って来たのだから褒めてもらうつもりだろう。
やはり、褒めるべきだ。そして注文を付けよう。
「虎子、良くやった。大したものだ。まさにハンターだな」
私は虎子の頭をなでながら褒めちぎった。
「だが、生きて捕まえたらもっと良かった。少しだけ残念だ」
私の言葉を理解しているのか、していないのか分からない。
虎子はゴロゴロと喉を鳴らしながら、機嫌がいい。多分理解していないな。いや聞いていないかもしれない。
私は料理を中断して、死んだメジロをハンカチで包み、庭に埋葬した。その様子を虎子はじっと見ていたが何をするでもなかった。私が後で食べるために獲物を土の中に隠しているとでも思っているのかもしれない。虎子一等兵よ、それは無いからな。
私は台所に戻り、料理を再開した。メインディッシュが鶏肉なのが、少しだけ食欲を下げたが、結局、美味しく頂いた。食材になった若鳥と、虎子にやられたメジロの冥福を祈る。普段はこんな事思わないのに、今回については考えさせられた。
次の日、虎子はまたメジロを咥えて帰ってきた。ああ、またやってしまったか。
しかし、今度は生きていた。私の言いつけを守ったのだ。凄い。
私は生きたメジロを虎子から受け取り、そして庭に出て放してあげた。メジロは勢いよい良く羽ばたいて山に帰って行った。怪我はしていなかったようだ。
虎子はそれを見ていた。目を見ると少し不満げな雰囲気を出している。私が生で食べるとでも思っていたのか?
「良くやった虎子、凄い技術だ。生きたままメジロを捕まえるなんて凄腕のハンターだ。よし、今日から虎子は兵長だ。勿論褒美も取らすぞ」
虎子の大好きなおやつ、にゃんチュールをあげた。
そして次の日、今度はネズミを咥えて帰ってきた。既に死んでいた。私はこれを受け取りメジロと同様に庭に埋葬した。勿論、褒めた上で生きて捕えろと注文も忘れずに付けた。
それから毎日のようにネズミを捕えて来る。
しかし、生きたまま捕えるのは難しいようだ。
庭にお墓が五つほど並んだ。もはや、我が家の庭は霊園もしくはお寺である。
私が司令官から住職に転職しようかと考えていたころ、虎子はやっと元気なままのネズミを捕えてきた。
「ネズミまで生きて捕らえるようになったか。虎子は優秀な兵士として成長した。現時刻をもって、軍曹に昇任させる。おめでとう。褒美を取らそうと思うが、にゃんチュールは今切らせている。暫く待っていろ」
「ニャー」
今のニャーは「了解」と受け取っておく。
私は、虎子軍曹の捕虜になったネズミを裏山に逃がしてやった。
その日から虎子はネズミを捕まえてこなくなった。多分、逃がしたネズミが仲間のネズミたちに危険なネコがいる事を話し、引っ越したのだろう。
秘密基地に平穏な日常が戻ってきた。
現実の季節も春です。各地で桜の開花宣言がでています。春の訪れを喜んでいます。
でも春眠暁を覚えずです。眠たいです。頑張ります。




