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1 ネコを拾う

私の家にもネコが1匹います。窓から外を覗いては、尻尾を揺らしています。そんな彼女を見て書いてみました。

 年が明けて数日後、私は自衛隊を退職して故郷に帰ってきた。とりあえずは、父が残した古い家に住むつもりだ。

 高速道路から下りて国道に出たが、直ぐには家に帰らずに少し寄り道をする。

 この町には高校を卒業するまで住んでいた。まだ両親が生きていた時は盆と正月に帰郷していたが、ここ数年は帰っていない。

 しかし、思い出の深い町である。感傷に浸るつもりはないが、またお世話になるこの町の全体を見ておきたくなった。

 丘に登って、街を見下ろすと町全体の形は変わっていないようだが、小学校と中学校があった場所は、校舎は取り壊され広い空き地になっていた。

「ずいぶん変った」

 思った以上に変わりつつある街並みに少し驚いた。山や海は全く変わらないのに、街は歳をとり、衰えて行くような気がする。地方は、少子化が進みどこも同じようなものだと思う。


 車を降り、玄関の鍵を開け、荷物は居間下ろす。窓を開け、淀んだ空気を入れ替える。

「ここもずいぶん古びたな」

 テレビをつける。アメリカがイランを攻撃したニュースが流れている。先日まで国防に携わっていたが、退職した身にとって、そのニュースは特に興味を引くものではなくなっていた。

 テレビを消して、今度は歩いて散歩に出かける。

 昔電気屋さんだった場所はシャッターが降りたままになっている。周りを見渡すとシャッターが閉められてる店が結構あった。

 まあ、こんなものかと、散歩を続けると、 近くからネコの鳴き声が聞こえる。鳴き声を追って路地に入ると、段ボール箱の中に子ネコが1匹泣いていた。捨てネコだ。

 家に帰っても誰もいないので連れて帰ることにした。チャトラと言う種類のネコだろう。

 台所から牛乳を出して子猫にやる。子猫がぺちゃぺちゃ舐めてる間にネットで飼い方を調べる。

牛乳を飲ましてはいけないと書いてあった。慌てて子猫から牛乳を取り上げる。

「大丈夫か?無知な私に拾われたせいで死んだりするなよ」

 ネットには病気を持っているかもしれないので、獣医に見てもらうえとも書いていた。なるほどと思い、車を出して隣町の犬猫病院に連れて行った。

 病院の受付で色々と聞かれた。ありのままを答える。診断の結果、子ネコに異状はなかった。最後に名前を聞かれたので、まだ付けていないと答えた。

 カルテを作るのに必要だと言われ、思いつくまま答えた。チャトラのメスなので虎子。

 そして虎子は私の家族になった。


 夕方になると、ずいぶん冷えてきた。倉庫からコタツを引っ張り出して、居間に据える。この家には、掘りごたつが設置できる。

 コタツに入って、小説などを読んでいると、虎子がコタツ布団に潜り込んできた。

「ネコはコタツで丸くなる」

 私は雪やこんこんのフレーズを思い出す。


 まったりとした時間が流れ、私はいつの間にか居眠りをしていたようだ。

 コタツ布団をめくって中を覗くと虎子と目が合う。

「にゃー」

 また思い出したことがある。

 私は小さい頃、このコタツを秘密基地にして、おもちゃを持ち込み遊んでいた。

 体が大きくなり、入りきれなくなった私の代わりに、今は子猫の虎子が中にいる。

 先程の「ニャー」はこの基地の前任者である。私に対する異常なしの報告に聞こえた。

「基地警備、ご苦労」

 虎子に声を掛け、めくり上げていた布団を元に戻す。

 私は虎子に階級をつけることにした。新米なので二等兵だ。

 ちなみに、私は司令官と言うことになるだろう。

 アメリカがイランを攻撃したニュースには興味なかったが、我が家の秘密基地の防衛については、非常に興味を持った。


 虎子が我が家に二等兵として赴任してきてから2カ月が過ぎた。

 秘密基地は健在である。勿論、虎子もすくすくと成長し、最近では玄関から庭に出て、偵察任務をこなすようになってきた。

 どどどっ!虎子が玄関から勢いを付けて飛び込んできた。そして秘密基地であるコタツに潜り込む。何事かと思っていると、外からブルルーとバイクの音がする。窓から覗くと郵便屋さんが配達に来ていた。郵便屋さんはポストに手紙を入れると、バイクに跨り行ってしまった。

 虎子はのそりとコタツから這い出て、庭に出る。ポストの周辺を念入りに嗅ぎまわっている。しばらく庭をうろついていたが、また玄関から帰ってきた。

 私はコタツで小説を読んでいる。その私を見上げて虎子が鳴く。

「ニャー」

 異状ありませんと報告しているのだろう。

「ご苦労、引き続き警戒を厳とせよ」

 私は一声虎子に声を掛け、また小説に目をもどす。

 ページをめくるとき、まだ虎子が私を見ているのに気が付く。まだ何か言いたそうだ。

「褒美が欲しいのか?そうだな、この2カ月、秘密基地を守り抜いた。褒美に昇進させよう。今日から虎子は一等兵だ。おめでとう」

 私はそう言うとまた小説に目を向ける。

「ニャーニャー」

 少し怒ったような鳴き声だ。昇任では満足しなかったようだ。

「しかたがない。昇任祝におやつを上げよう。ついて来なさい」

 私は重い腰を上げて、台所に行く。寒い。

 この家は家の中でも上着が必要なくらい寒い。

 棚から買い置きしていたネコ専用のおやつ、にゃんチュールを取り出す。数少ない私の友人が教えてくれは物だ。これを嫌いなネコはいないと言う。虎子も例外ではなかった。

 虎子専用の皿に、にゃんチュールを入れてあげる。その間も虎子は私にスリスリ寄ってくる。可愛い奴だ。

 皿を虎子に差し出すと、一心不乱に食べる。

「ニャゴ、ニャゴ」

 食べながら、何か言っている。「美味しいであります。司令官に感謝します」とでも言っているのだろう。

「分かった、分かった。慌てずにゆっくりと食べなさい」

 私は虎子がおやつを食べ終わるまで見ていた。

 皿がピカピカになるまで舐め上げた虎子は口の周りを器用に前足で拭い、秘密基地であるコタツに帰って行った。私には一瞥もくれずに。

 速やかに任務に復帰した姿は評価できる。

 しかし、お礼の一言があってもいいのではないかと、司令官である私は、虎子が使った皿を洗いながら思っていた。手が冷たい。

 小説の続きを読むために、私もコタツに戻る。コタツ布団を少しめくると、中で虎子が居眠りをしていた。

「・・・」

 少し思うところはあるが、考えてみると当然である。働きづめの部下に休息を取らせるのも上官の仕事である。ましてや、この秘密基地は虎子の兵舎でもある。ここで睡眠を取るのは当たり前なのだ。

 私は気を取り直して、小説を読む。

 勿論、虎子を起こさないよう、足はそっとコタツに入れた。


 虎子の朝は早い。上官の私より遅く起きることは無い。

「ニャーニャー」

 ああ、餌の時間か。

 私は布団からのそりと体を起こす。まだ寝ていたいが、部下にだらしない姿を見せるわけにはいかない。

 カラカラ、まずは虎子の皿に餌を入れる。次に私の朝食を作る。私の朝食を先に作ろうとすると足に纏わりついて危ないからだ。

 虎子がガツガツと餌に夢中になっている隙に、自分の分を用意する。

 トーストを焼き、目玉焼きとサラダを作る。最後にコーヒーをいれる。所要時間3分。どこぞのテレビ局がやっている3分クッキングだ。私のは毎日同じメニューだが。


 虎子は朝食が終わると、パトロールに出る。これが最近の日課だ。

 この日も、虎子は玄関を少し開けると、首だけ外にだし、気配をさぐる。異状なければパトロールを開始するのだが、今日は様子が違うようだ。

「うー」

 虎子が唸っている。何かが庭にいるようだ。

「ニャゴー、ニャゴー」

 庭の奥からネコの鳴き声がする。野良猫が庭に来ている。

「オンドリャー」

 虎子はヤクザの様な声で威嚇する。尻尾も毛が逆立って3倍ほどの太さになっている。

 私は、どのようなネコが来ているのか見てみたくなって、玄関から外に出ると、虎子が勢いよく飛び出した。野良猫は慌てて逃走したが、虎子がそれを追撃する。

「まて!」

 私は慌てて虎子に声を掛けるが、虎子は止まらない。隣の家の庭に逃げ込む野良猫を追いかけて虎子もその後を追い見えなくなってしまった。

 かってに隣の庭に入る事はできない。まして今は早朝だ。ネコの事でことわりを入れる事も出来ない。

 私は家で待つことにした。

 半日ほどで虎子は帰ってきた。怪我をしていないか、体をくまなく調べたが大丈夫だった。ホッとした。私は虎子を命令違反の罪で3日間の謹慎処分にした。

 次の日も野良猫は我が家の庭に現れたが、司令官である私自らが追い払った。それから姿を見せる事はなかった。

 後で知った事だが、この時期は、ネコの盛りだそうだ。あの野良猫は求愛に来ていたらしい。危うく新兵が増えるところだった。


 もう直ぐ春が来る。虎子にとっては初めての春だ。

 メジロ、トカゲ、カエル、モグラ、ヤモリ、ムカデ、我が家には沢山の客が訪れる。

 虎子は秘密基地を守りきる事ができるか楽しみである。



ほのぼのとした生活から、次回はワイルド編に移ろうかと考えています。

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― 新着の感想 ―
面白いじゃないですか。 また呑んでお話ししましょう。
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