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双子のピーターパン【2000文字】

作者: 有梨束
掲載日:2026/02/02

「「さあ、ネバーランドへようこそ!」」

『双子』のピーターパンは、ウェンディたちに向かって高らかに言うのだった。


双子は、母親にもらった名前がどちらのものかを忘れて、互いを『ピーター』だと思い込んでいた。

ウェンディも、ネバーランドの迷子の男の子たちも、服装で分けて『白のピーター』と『黒のピーター』と呼ぶことにしていた。


2人は、何をするにもいつも一緒だ。

冒険する時も、人魚たちにちょっかいをかける時も、ティンカーベルと喧嘩をする時も、2人が離れていることなんてなかった。

フック船長の右手をワニにくれてやった時も、そう。

あの時だって、2人で朝が来るまで笑ってやったものだ。

だけど、ウェンディたちが来てからは、それが見えないほどゆっくりと変わっていった。


黒のピーターは、他の男の子たちと一緒に、ウェンディが聞かせてくれる物語が好きだった。

白のピーターは、それが大嫌いだった。

ウェンディの話には、いつも『お母さん』や『大人たち』が出てくるからだ。

「ねえ、ウェンディ母さん。お母さんって、みんな子どもの帰りを待っているの?」

「ええ、そうよ。私もピーターたちが冒険から帰ってくるのを、いつも待っているもの」

「大人になるって、退屈なことじゃないの?」

「お母さんはいつも言うわ。『大人には自由があって楽しいのよ』って」

「ボクたちだって、自由で楽しいよ」

「そうね、ここは自由でハラハラドキドキだものね」

ウェンディは嬉しそうに笑って、黒のピーターの頭を撫でた。

黒のピーターは、すっかりそれが好きになっていた。

そして、白のピーターはそれを見る前に、プイッと外に出ていってしまう。

そんな風に、2人は時々一緒にいることが減っていった。


「危険なことはダメよ。穏便にしてちょうだい」

ウェンディはすっかりここのお母さんなので、そうやって嗜めることが増えた。

最初はみんな怠そうだったが、いつからか黒のピーターは言うことを聞くようになった。

「ええ〜、仕方ないなあ」

「ありがとう、黒のピーター」

「なんだい、君にはプライドというものはないのかい、『ピーター』!」

「なんだい、そんなに怒って。言うことを聞いた方が、母さんも助かるってものだよ」

「そんなのは、ネバーランドでするものじゃない!ここは大人のいない国なんだから!」

白のピーターは、ますます怒るばかりだ。

それもそうだ、2人は大人になんかなりたくなくて、ここにいるのだから。

ウェンディのことが気に食わないティンカーベルも、ここぞとばかりに白のピーターに加勢する。

「そうよっ、余所者がでしゃばらないでよ!」

「少しは大人になったらどうだい、『ピーター』。ウェンディ母さんを連れてきたのはボクたちなんだよ?」

「ボクたちはずっと子どもだ!ふざけたことを抜かすな!」

ビリビリと怒る白のピーターに、ウェンディも、他の男の子たちも怯えて固まった。

黒のピーターも、困ったように手を差し伸べた。

白のピーターは、はじめてそれに後ずさった。

「…ボクの大事な兄弟、どうか怒りを鎮めてくれよ」

「お前は今、このボクに『大人になれ』と言ったんだ!侮辱以外の何物でもないじゃないかっ!」

「そんなつもりはないよ、君はただ1人のボクの『ピーター』じゃないか」

「だったら、ボクの味方でいろよ!」

白のピーターは今までにないくらいに声を荒げ、これにはティンカーベルでさえ、ウェンディの後ろに隠れてしまうほどだった。

「ボクたちは、ずっと一緒にいたよね」

黒のピーターが、悲しげにそう言った。

「…そうさ」

白のピーターも、苦しそうにそう言った。

「2人でいれば楽しさは倍増だし、そうでないことはなんでもないことに出来た」

「…ああ」

「君とボクは、2人で1人だと思っていたさ」

黒のピーターは、泣きそうな声で続けた。

「でも、本当は気づいてしまったよね。ボクたちは2人で1人じゃなくて、それぞれ1人ずつだったってことに」

「…言うな」

「ウェンディが来てから、ボクたちは違う感情を持つようになったよね」

「言うなっ!」

白のピーターが頭を振って、悲鳴に近い甲高い声で叫んだ。


「ボク、大人になってみたくなっちゃったよ、『ピーター』」


白のピーターは耳を塞いでいたが、黒のピーターの言いたいことはわかっていた。

ずっと2人で生きてきたのだ。

大人にならない分、永遠に近い時間を、2人で。

互いのことは、痛いくらいにわかる。

「ボクは、大人になんかならない」

「ああ、それがいい。君にはそれがよく似合うよ、兄弟」

「…後悔しても、ネバーランドには二度と入れてやらないからな」

「わかっている、君と会えないことが何よりも寂しいけどね」

2人は互いの手を取って、それだけで十分だった。


「さあ、ウェンディ『君の家』に帰るだろう。ボクも連れていっておくれよ」

その言葉に、白のピーターは短剣を手に取った。

全員が息を呑んだが、黒のピーターだけは微笑んでいた。

「ボクの『ピーター』、大好きだよ」




毎日投稿33日目。お読みくださりありがとうございます!

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