双子のピーターパン【2000文字】
「「さあ、ネバーランドへようこそ!」」
『双子』のピーターパンは、ウェンディたちに向かって高らかに言うのだった。
双子は、母親にもらった名前がどちらのものかを忘れて、互いを『ピーター』だと思い込んでいた。
ウェンディも、ネバーランドの迷子の男の子たちも、服装で分けて『白のピーター』と『黒のピーター』と呼ぶことにしていた。
2人は、何をするにもいつも一緒だ。
冒険する時も、人魚たちにちょっかいをかける時も、ティンカーベルと喧嘩をする時も、2人が離れていることなんてなかった。
フック船長の右手をワニにくれてやった時も、そう。
あの時だって、2人で朝が来るまで笑ってやったものだ。
だけど、ウェンディたちが来てからは、それが見えないほどゆっくりと変わっていった。
黒のピーターは、他の男の子たちと一緒に、ウェンディが聞かせてくれる物語が好きだった。
白のピーターは、それが大嫌いだった。
ウェンディの話には、いつも『お母さん』や『大人たち』が出てくるからだ。
「ねえ、ウェンディ母さん。お母さんって、みんな子どもの帰りを待っているの?」
「ええ、そうよ。私もピーターたちが冒険から帰ってくるのを、いつも待っているもの」
「大人になるって、退屈なことじゃないの?」
「お母さんはいつも言うわ。『大人には自由があって楽しいのよ』って」
「ボクたちだって、自由で楽しいよ」
「そうね、ここは自由でハラハラドキドキだものね」
ウェンディは嬉しそうに笑って、黒のピーターの頭を撫でた。
黒のピーターは、すっかりそれが好きになっていた。
そして、白のピーターはそれを見る前に、プイッと外に出ていってしまう。
そんな風に、2人は時々一緒にいることが減っていった。
「危険なことはダメよ。穏便にしてちょうだい」
ウェンディはすっかりここのお母さんなので、そうやって嗜めることが増えた。
最初はみんな怠そうだったが、いつからか黒のピーターは言うことを聞くようになった。
「ええ〜、仕方ないなあ」
「ありがとう、黒のピーター」
「なんだい、君にはプライドというものはないのかい、『ピーター』!」
「なんだい、そんなに怒って。言うことを聞いた方が、母さんも助かるってものだよ」
「そんなのは、ネバーランドでするものじゃない!ここは大人のいない国なんだから!」
白のピーターは、ますます怒るばかりだ。
それもそうだ、2人は大人になんかなりたくなくて、ここにいるのだから。
ウェンディのことが気に食わないティンカーベルも、ここぞとばかりに白のピーターに加勢する。
「そうよっ、余所者がでしゃばらないでよ!」
「少しは大人になったらどうだい、『ピーター』。ウェンディ母さんを連れてきたのはボクたちなんだよ?」
「ボクたちはずっと子どもだ!ふざけたことを抜かすな!」
ビリビリと怒る白のピーターに、ウェンディも、他の男の子たちも怯えて固まった。
黒のピーターも、困ったように手を差し伸べた。
白のピーターは、はじめてそれに後ずさった。
「…ボクの大事な兄弟、どうか怒りを鎮めてくれよ」
「お前は今、このボクに『大人になれ』と言ったんだ!侮辱以外の何物でもないじゃないかっ!」
「そんなつもりはないよ、君はただ1人のボクの『ピーター』じゃないか」
「だったら、ボクの味方でいろよ!」
白のピーターは今までにないくらいに声を荒げ、これにはティンカーベルでさえ、ウェンディの後ろに隠れてしまうほどだった。
「ボクたちは、ずっと一緒にいたよね」
黒のピーターが、悲しげにそう言った。
「…そうさ」
白のピーターも、苦しそうにそう言った。
「2人でいれば楽しさは倍増だし、そうでないことはなんでもないことに出来た」
「…ああ」
「君とボクは、2人で1人だと思っていたさ」
黒のピーターは、泣きそうな声で続けた。
「でも、本当は気づいてしまったよね。ボクたちは2人で1人じゃなくて、それぞれ1人ずつだったってことに」
「…言うな」
「ウェンディが来てから、ボクたちは違う感情を持つようになったよね」
「言うなっ!」
白のピーターが頭を振って、悲鳴に近い甲高い声で叫んだ。
「ボク、大人になってみたくなっちゃったよ、『ピーター』」
白のピーターは耳を塞いでいたが、黒のピーターの言いたいことはわかっていた。
ずっと2人で生きてきたのだ。
大人にならない分、永遠に近い時間を、2人で。
互いのことは、痛いくらいにわかる。
「ボクは、大人になんかならない」
「ああ、それがいい。君にはそれがよく似合うよ、兄弟」
「…後悔しても、ネバーランドには二度と入れてやらないからな」
「わかっている、君と会えないことが何よりも寂しいけどね」
2人は互いの手を取って、それだけで十分だった。
「さあ、ウェンディ『君の家』に帰るだろう。ボクも連れていっておくれよ」
その言葉に、白のピーターは短剣を手に取った。
全員が息を呑んだが、黒のピーターだけは微笑んでいた。
「ボクの『ピーター』、大好きだよ」
了
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