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ヤミ米の時代

令和6年はコメ不足が話題となった。首都圏ではスーパーのコメ売り場にコメが無い……どころか、コメ売り場自体が消えてしまった。


私はパンが嫌いで、三食コメを食べないと気が済まない人間だ。そのため、コメの確保には大いに困った。麦を混ぜて一食あたりのコメの消費量を減らしたり、旅先の静岡県のスーパーでようやく見つけたコメ2kgを背負って帰ってきたりもした。買い出し列車かよ、と自分に突っ込みたくなったほどである。


コメ不足と聞いて思い出すのは、「平成のコメ騒動」と呼ばれる平成5年のコメ不足である。当時、私は高校2年生だった。フィリピンのピナトゥボ火山の噴火をきっかけとした冷夏により、深刻なコメ不足が発生した。政府はコメの緊急輸入を決定し、真っ先にタイ米が輸入された。


しかしタイ米はインディカ種で、日本のジャポニカ種とは異なり粘りが少ないため、日本人の口には合わなかった。不人気なタイ米を売るため、日本米との抱き合わせ販売も行われ、その結果、タイ米だけを廃棄する人まで現れた。自国の備蓄を一掃してまで日本に輸出してくれたタイ政府に対し、極めて失礼な話である。


この抱き合わせ販売は不当とされ、政府は日本米とタイ米のブレンドを推奨した。抱き合わせはダメで、ブレンドはOKというのも、今となっては意味不明である。ちなみにタイ米は炊きたてならそれほど気にならないが、冷めるとポロポロして非常に食べにくかった。


そんな騒動の中、城南電気がヤミ米を大々的に売り出したことも話題となった。当時はまだ食糧管理法があり、コメは一部の良質なものに限って「自主流通米」として直接販売が許されていたが、基本的には政府が全量を買い上げていた。コメは戦後、生産量が増えたにもかかわらず、食生活の欧米化により需要は伸びず、コメ余りが続いた結果、減反政策が取られていた。その減反に反対して流通していたのがヤミ米である。


つまり、私が高校に入った頃には、まだ「ヤミ米」という言葉が生きていた。社会科の授業では、コメには「政府管理米」「自主流通米」「自由米(ヤミ米)」の3種類があると習ったものである。実際、当時はヤミ米が堂々と売られており、しかも政府管理米よりおいしい、というのが一般的な評価だった。


食料自給率の低下が問題となっている島国で減反政策を続けるというのは、今考えると非常に滑稽である。減反を進める一方で十分な備蓄を行わなかったことこそが、この平成のコメ騒動を招いた原因なのだからまったく話にならない。


ちなみに昭和56年までは「米穀配給通帳」という制度が存在し、コメを買う際にハンコを押してもらっていたという。つまり、私の生まれた後もしばらくは制度自体は残っていたはずだが、母に聞いても「そんなものは持っていなかった」と言うので、すでに形骸化していたのだろう。平成のコメ騒動の時点では廃止されていたが、もしこの制度が残っていたらどうなっていたのか、想像すると興味深い。


平成5年は、とにかくタイ米の話題で持ちきりだった。そんな年の文化祭で、隣のクラスは「タイ米食わんと」という企画名で、タイ米料理の模擬店を出した。当時のタイ米の評判を考えると、かなり挑戦的な企画である。


ところが、どこでどう話が伝わったのか、文化祭2日目になんとタイの副領事が来校することになった。評判の悪かったタイ米を高校生が扱ってくれるというのが嬉しかったのだろう。私が所属していた生物部では、日本米とタイ米のデンプンの違いを扱った展示をしていたのだが、それも見に来るという。当日は顧問をはじめ、部員一同大騒ぎである。


予定ではまず「タイ米食わんと」で食事をし、その後に生物部の展示を見学するはずだった。私たちは展示教室で副領事の到着を待っていたが、待てど暮らせど現れない。確かに来校しているはずなのに。「タイ米食わんと」も見に行ったがいない。


実は、副領事は模擬店で出されたピラフがお気に召さなかったらしく、「オレが作る」と言って家庭科室に移動し、自ら調理を始めてしまったのだという。隣のクラスの生徒たちも唖然としていた。家庭科室を覗くと、調理をする副領事の後ろ姿が見えた。


副領事が生物部にやって来たのは、だいぶ時間が経ってからだった。後で隣のクラスの生徒に、副領事が作ったピラフの味を聞いてみたところ、「不味かった」とのこと。結局、それは来客には出さず、クラスの生徒たちで食べたらしい。


美味しい、不味いという感覚は絶対的なものではなく、人それぞれである。タイ米はタイ料理に使うものであり、無理に日本風に調理してもタイ人の口には合わないし、かといってタイ風にしても日本人の口に合うとは限らないのである。

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