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「太巻」と「マシュマロデー」

そういえば今年は恵方巻を食べ損ねてしまった。

別に食べねばならないものでもないのだが、夜になって売れ残っている恵方巻を見ると何となくもったいなく感じてしまい、つい買って食べていたのである。

日本の年間商戦には、恵方巻、バレンタインデー、ホワイトデー、ハロウィン、ブラックフライデー、クリスマスがある。しかし少なくとも、恵方巻、ハロウィン、ブラックフライデーは昭和の時代には無かった。そんな昭和の時代を少し振り返ってみたい。


まず、この中で一番古いのはクリスマスだろう。少なくとも物心がついた頃には、家にクリスマスツリーを飾っていたし、幼稚園や子ども会などでもクリスマスイベントは行われていた。ただ、うちの母はプレゼントを買いたくなかったのか、いつからか「うちはキリスト教じゃないからサンタさんは来ないの!!」と言い出し、クリスマスツリーも飾らなくなった。もともと宗教的なものが嫌いな人だったので、クリスマスケーキなどというものを食べた記憶もまったく無い。

なお、クリスマスに恋人と過ごすという文化は昭和末期までは存在しなかった。そもそもクリスマスは家族と過ごす日だったのである。調べてみると、クリスマスが恋人と過ごす日になったきっかけは、「恋人はサンタクロース」という曲と、「an an」という雑誌の特集らしい。前者が昭和55年、後者が昭和58年なので、昭和も終わりに近い頃の話である。そんな流行歌にも雑誌にも疎かった私は、大学時代、12月24日に普通に家庭教師のアルバイトを入れ、家庭教師先の母親に「クリスマスなんですけど、先生はいいんですか?」と言われて初めて、そんな風習が出来ていたことを知ったのである。


次に古いのは、バレンタインデーとホワイトデーだろう。バレンタインデーが一般に広まったのは諸説あるが、昭和35年の森永製菓の新聞広告がきっかけという説が有力である。こうして「バレンタイン=チョコ」「女性から男性に贈る」という日本独自の文化が定着した。私が小学校高学年だった昭和60年代には、すでにこの図式は完成していた。

ちなみにホワイトデーは、日本を中心とした東アジアのみの文化らしい。これも起源についてはいくつか説があるが、昭和53年に石村萬盛堂が「マシュマロデー」としてキャンペーンを始めたという説が有力である。確かに小学校の頃は、「ホワイトデー」ではなく「マシュマロデー」と呼ばれていた記憶がある。バレンタインデーといいホワイトデーといい、日本の菓子業界の商魂には感心する。


次は恵方巻である。節分自体は大昔からあったが、節分とは「鬼は外、福は内」と言って豆をまき、歳の数だけ豆を食べる日だった。ところが昭和末期、近所の友人のお母さんが太巻を持って家を訪ねてきた。「え? 何で節分にお寿司?」とうちの家族は驚いたが、逆に「え? 太巻、食べへんの?」と驚かれた。当時は大阪に住んでいたが、うちは静岡の家系だったので、大阪の風習を知らなかったのである。すでに当時、大阪では存在していた風習だった。

我々は変な風習だなと思いながらも、せっかく貰ったのだからと食べた。調べてみると、戦前に大阪のごく一部で行われていた風習が戦後に一度廃れ、昭和末期に大阪で再び復活したものらしい。これに目を付けたのがセブンイレブンで、平成元年に広島市で「恵方巻」として販売を開始し、平成10年に全国展開した。大学進学で大阪を離れ、「変な風習」などすっかり忘れていたが、気がつくとコンビニエンスストアで普通に売られていた。つまり「恵方巻」は平成になってからセブンイレブンが意図的に仕掛けたことで全国的に定着した行事で、昭和の時代には、かろうじて昭和末期の大阪に存在した風習に過ぎない。また呼び名も「恵方巻」ではなく「太巻」だった。


ハロウィンも昭和の時代にはほとんど無名だった。私がハロウィンを知ったのは昭和62年、ラジオ基礎英語である。当時は完全に「アメリカのお祭り」だった。平成4年、アメリカで仮装してハロウィンパーティに向かっていた日本人留学生が、訪問先の家を間違えて射殺されるという事件が起こったが、それによってハロウィンが日本で有名になることはなかった。むしろ「Freeze(動くな)」を「Please(こっちへ来い)」と聞き間違えたのでないかという話があり、「Freeze(動くな)」や「Duck(伏せろ)」といった言葉を覚えていないと危険だ、と話題になったことの方が印象に残っている。

ただ、個人的にはバレンタインの次に流行るのはハロウィンだろうと思っていたのでそう言い続けていたら案の定、21世紀になって日本でも当たり前の行事になった。ただし、日本では仮装して騒ぐだけのイベントになってしまっているのが残念である。


個人的には、クリスマス、バレンタイン、ハロウィンと来たら、次はイースターだろうと思っている。どこの企業が、どうカスタマイズして売り出すのか興味深い。実際、何年か前にスーパーマーケットで「イースター」というPOPを見たことがあるので、売りだそうと狙っている人がいるのは間違いない。と思っていたら、イースターより先にブラックフライデーの方が定着してしまった。そうか、サンクスギビング(ブラックフライデーとはサンクスギビングの翌日のこと)を忘れていたと、少し負けた気分になっている。今度はどこの経営者が、どの国のイベントに目をつけるのだろうか。


気がつけば、もうすぐマシュマロデー——いや、ホワイトデーである。

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