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第8話 理由②

 ジュノーンとリーシャの乗った馬はローランドの街を走り抜け、街道に入った。

 あたりは民家もなく、真っ暗だ。道を照らす月明かりだけが道しるべの様だった。


「……さっきの話の続きをしようか」


 ジュノーンは馬上でまるで独り言のように話し始めた。


「このままリーシャ王女がローランドの手の内にあれば、確実にハイランドを陥落できる。それは間違いない。俺も祖国の為を思うならば、それを喜ぶべきなのかもしれない」


 でも、とジュノーンは続けた。


「それではいけないんだ。この戦争に、ローランドは勝ってはいけない」

「どうしてですか……? この何十年にも及ぶ戦争を終わらせられれば、それはローランドにとって喜ばしいはずです。食糧不足が懸念されるハイランドにとっても、良い方向に働くかもしれません」


 リーシャが納得できない、という様子でジュノーンに訊いた。

 戦争は長引けば互いに命を削り合い、終わった頃には何も残らない。それであれば、さっさと終戦して互いが生き残る道を探した方が良いのではないか──おそらくリーシャはこういった思想の持主なのだろう。

 彼女の意見もジュノーンにはよくわかる。彼にとっても、互いが幸せならばどこかで折れて互いが共存すれば良いと考えている。だが、それは──ローランド帝国が()()()()()であったなら、の話だ。


「リーシャ王女も王都の様子を見たはずだ。町には浮浪者が溢れ、国は私腹を肥やす為だけに民から税を搾取する。ウォルケンス王も民の事を自分の駒か道具にしか思っていない。王の為ならば民は苦しんで当然、民は死んでも構わないと思っている様な王だ。ここはな、リーシャ王女……そういう()()()()()国なんだよ」


 税を納められなかった者は土地や家を追われ、山賊に成り下がるか、国の強制収容所に送られるか戦争に行くかの三択を迫られる。駒以外の何者でもなかった。

 ハイランドとローランドでは、国の姿勢が全くといってよい程異なるのである。


「そんな! 王は民あってのもののはずです。王はあくまでも民のまとめ役で、民を幸福に導く為の存在じゃないんですか?」


 リーシャは信じられない、という表情で銀髪の青年に抗議した。


「それはリーシャ王女の父君が優れた為政者だからそう考えられるんだ。でも、ローランド帝国はそうじゃない」


 そう、ハイランドとローランドでは、為政者の器に差がありすぎるのだ。

 そもそも、ハイランドはこれまで何度も和平の使者を送っている。しかし、ローランドは頑としてそれに応えなかった。


「同じ発想のもとで物を考えられたなら、もう和平は成立してるはずだろ?」

「それは……そうですけど」


 リーシャは納得できなさそうではあるが、頷いていた。

 ハイランド王国は、それほど裕福な国ではない。幾度の戦を経て、国は既に疲弊している。当面は内政に集中して国力を回復させたいのが本音だろう。

 そのハイランドが何故これほど持ちこたえているのか……それはリーシャの父王こと〝賢王〟が優れた為政者であるからだ。ジュノーンは彼こそハイランドとローランドの統一王国の君主にふさわしいと考えていた。


(半年前の戦で、俺が負けていた方がよかったんだろうな)


 ジュノーンはふと半年前の大規模な戦を思い返した。

 リーシャ王女には言えないが、半年前に国境で生じたハイランド軍とローランド軍の戦い──後に第一次ディアナ平原の戦いと呼ばれる事になる──で、彼は〝賢王〟フリードリヒと一度剣を交えており、その際にハイランド軍の侵攻を食い止めたのである。

 剣を交えたからこそわかるのだが、〝賢王〟の膂力と胆力は並大抵ではなく、またその剣には国を背負う者としての魂と決意が篭もっていた。ジュノーンも殺されない為に本気にならざるを得なかったのだ。

 結果としてあの戦いはジュノーンが〝賢王〟を撃退した事でローランド軍の勝利となったのだが、そこからハイランド軍は一気に力を落とした。ハイランド王国にとっては、総力戦だったのである。


「ジュノーン様がお父様を評価して下さっている事は嬉しく思います……本気で国を憂いている事も解りました」


 ですが、とリーシャは続けた。


「あなたが祖国を裏切る理由は、それだけですか……?」


 リーシャは後ろを振り向き、ジュノーンの顔を見上げた。ジュノーンは敢えてリーシャと視線は合わせず、前方の暗闇を見つめた。

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