9 【クエスト1】クリア! レアアイテムをもらった
「さてと。もう森から出たほうがいい」
アッシュは俺の頭から手を離して言った。何か感じているのだろうか? 俺はアッシュの言う通りに森から出ることにした。
帰る途中、薬草や木の実を採りながら帰った。魔物に遇わなくてよかった。
「魔物に遇わなかったね。良かった」
俺が話しかけるとアッシュは苦笑いをした。ん? 何か変なことを言ったか?
「どうやらレベルの高い魔物が、あの森にいたみたいだよ。だからレベルの低い魔物が出てこなかった」
「そうなんだ……」
アッシュの言ったことが本当なら、俺達は危険だったんじゃないか? 今になって、ゾッとした。
「だからあんなに、森の様子がおかしかったんだね……」
もし、俺が一人で森へ行っていたらレベルの高い魔物と遭遇していたかもしれない。
「そうだね」
アッシュは俺の肩をポンポンと軽く叩いた。まるで、なぐさめているようだった。
「一人で行動すると、危険に気づかないことがあるから気をつけるんだよ」
「うん。ありがとう」
俺の中身は大人だけれど、体は子供だ。まだ力は弱いし、魔物が襲ってきたら危ない。アッシュは俺のことを心配して教えてくれた。
「でもレンのラッキー値が高いから、ぼくもレベルの高い魔物に襲われなかったと思うよ」
「そうかな? なら良かった」
俺はたくさんの薬草と木の実をカバンに入れた。ついでにもらったツボも入れたけれど、まだカバンの中に入りそうだ。どうなっているんだ?
宿屋に着いてカバン職人のお兄さんに、さっそくカバンの丈夫さや使いやすさを伝えた。
『ありがとう! これで私のカバン職人としての自信がついた! お礼にそのカバンを差し上げよう!』
【クエスト1】クリア!
『おめでとうございます! クエストをクリアしました!』
「お、やった!」
クエストをクリアできた! それにカバンまで手に入れた!
『このカバンの中に無限にモノが入れられます! ただし生きたものは入れられません。どうぞ使ってください!』
「えっ!? ありがとう御座います!」
【クエスト1】から無限カバンをもらえるなんて嬉しい。
『では私はこれで失礼します。またどこかでお会いしましょう』
カバン職人のお兄さんは、また! と言って行ってしまった。
ん? これはこの世界の人、全員が受ける初めてのクエストなのかな?
「ねえ。アッシュはこの【クエスト1】は、いつクリアしたの?」
アッシュは俺より年上だからもう終わっているはず。何歳ごろクリアしたのか知りたかった。
「ん?【クエスト1】ってなに?」
アッシュは首をかしげた。
「え……?」
アッシュは俺に嘘をついているわけじゃないし、ふざけてもない。
「アッシュはマジックバッグとか、持ってないの?」
俺はまさか……と思いながらアッシュに聞いた。
「ないよ~! レアアイテムだからね、マジックバッグ」
「レア、アイテム……」
プルプルと手が震えた。
「他の人に、知られないようにしてね? レン」
「う、うん」
どうしてなんだろう? なんで俺だけが、こんなレアアイテムを手に入れたんだろう?
「……ま、いいか!」
ラッキーと思えばいいか!
「レン。隣の町にある【冒険者ギルド】へ行かないか? まだ登録してないだろう?」
冒険者ギルド! ゲームや小説の中で出てきて、憧れていたところだ!
「行く! 行きたい!」
俺は期待に胸を膨らませた。
「ふふっ! いいよ、行こう。準備してからね」
隣町まで少し遠いらしい。一人で行くより二人の方がいい。水と食料を買ったりして準備をした。
「あの、俺と一緒でいいの?」
俺みたいな子供と行くより、もっと強い人と行った方がいいんじゃないかな? アッシュは強いし……。
「あ、いたっ!」
コツンと軽く頭を叩かれた。
「遠慮するな、レン」
アッシュは、にっ! と笑った。
「……ありがとう、アッシュ」
ちょっと照れくさかったので、へへっ……と、笑ってごまかした。
「あっ! そうだ。俺、武器を買いたい!」
思い出した。町に着いたら武器を買おうと思っていた。
「じゃあ、見に行くかい?」
「うん!」
「ここが【武器屋】、か……」
【武器屋】と書いてある大きな看板が、入り口の上の方に見えた。
「入るよ」
アッシュが重くて分厚いドアを開けると、クマのような大きな鍛えた男性がギロリとこちらを睨んだ。
『いらっしゃい』
低い声で、俺達に挨拶をした。店内はたくさんの武器が並んで飾ってあった。
「この子が使える武器って、あるかな?」
アッシュは強面の店主に物おじせず、話しかけた。店主は隣にいた俺を、下から上まで観察した。……怖い。
「……弓、ナイフ、槍など、遠距離から攻撃できるものがいいだろう」
ナイフは投げる用になるかな? 確かに接近戦はまだ無理だ。
「そうだね。どれがいい? レン」
色々あって悩む。どれがいいかな? まだ子供だし、近寄って攻撃できないし軽い武器がいいかも。
「ん?」
視界の端に、何だか光るものが見えた。その方向へ向いてみると、白い弓が飾られてあった。やけに気になってその弓が飾られているところへふらりと近づいた。
『毎度、ありがとう御座いましたぁ――!』
俺は導かれるように、白い弓と弓矢を買った。俺の背丈にちょうど良かった。
「良い買い物したな、レン」
アッシュも何かを買い足していた。
「じゃ、次の町へ行こうか!」
「うん!」
俺とアッシュは、森の方とは反対側の町の出入り口から出発した。俺はこの世界へ来た時に着ていた服を売って、この世界の普段着に着替えた。パーカーは、かなりいい値段で売れた。
まさかあんなことになるとは思わなかったけれど。それは、あとのお話……。