7 俺はラッキー値が高いらしい
トントントン……。
「レン、起きている?」
「起きているよ。どうぞ」
目が覚めてみても、今いる場所は異世界だった。もう覚悟を決めて、この世界で生きていくことにした。
カチャ。ドアを開けて入って来たのは、昨日会った親切な冒険者だった。
「おはよう」
『お早う御座います。よく眠れましたか?』
あっ!? またテンプレのセリフだ!
「うん。よく眠れたよ。レンはよく眠れたかい?」
今日もアッシュは、眩しいくらいの美形だった。朝から拝みたくなるくらい輝いている。俺はもうとっくに起きて、着替えも済んでいた。もう少し寝ていたかったけれど、毎日の習慣はすぐに変えられない。
「良く寝たよ。朝ご飯を食べに行く?」
「行こう」
階段を降りていくと、美味しそうな匂いがした。パンの焼けた香りに、何かのお肉が焼けた匂い。香りを嗅いだだけでお腹が空いてきた。
『朝ご飯が出来ていますよ。召し上がってください』
俺とアッシュは、宿屋の朝ご飯を食べた。アッシュは上品にスープを口に運んで、飲んでいた。パンを食べても所作がきれいだった。
朝からしっかりとお肉などたくさん食べた。
「今日は何をするの?」
食べ終えてお茶を飲んでいたら、アッシュが話しかけてきた。
「また森へ行って、薬草をみつける」
なにかレアものをみつけられたらいいな。
「じゃあ、また森の入り口まで一緒に行こうよ」
「うん」
なんだか友達ができたみたいだ。アッシュの方が年上みたいだけど、嬉しい。
「ぼくは、魔物を倒してレベルを上げる。レンは薬草採取、だね」
「準備をして行こう!」
「君! 冒険者なの?」
椅子から立ち上がったときに、朝ご飯を食べていた宿屋の宿泊客のお兄さんが俺に話しかけてきた。
「はい、そうですが……」
何だろうとお兄さんの方へ近づいたら、テーブルの上に斜め掛けカバンを置いた。
『私はカバン職人です。冒険者に私のじょうぶなカバンを使ってもらいたくて、日々腕を磨いています』
テンプレセリフだと思った。セリフの続きを聞いてみると、どうやら訳ありみたいだった。
『私のカバンが、じょうぶなのか試してきて欲しいのです』
カバン職人のお兄さんが、カバンをポン! と叩いた。
もしかして、これは【クエスト】かもしれない! でもクエストなら、冒険者のアッシュが受ける【クエスト】なのか?
『君に頼んでいいかな?』
カバン職人のお兄さんが指をさしたのは、俺だった。
「え、俺?」
「そうだよ。君たちの話が聞こえて、君は "薬草採取" をするって言っていた。カバンにたくさん入れてきて欲しい」
「なるほど。レン、カバン職人のお兄さんの【クエスト】を聞いてあげたら?」
『わかりました! 引き受けます!』
げっ! 勝手にクエストを、俺の意思と関係なしに引き受けた! まあ、引き受けてもいいかなと思ったけれど!
『それは嬉しいです! ではこのカバンをお渡しします。帰ってきたらカバンの傷み具合を見たいので、ここでお待ちしています!』
カバン職人のお兄さんは、ニコニコと笑って俺にカバンを手渡してきた。
レンは【クエスト】を受けた!
俺達は準備をして、宿屋から出発した。
歩きながらアッシュとたわいない話をしていた。今日の朝ご飯は美味しかったとか、あそこの宿屋はご飯が美味しいから泊っているとかアッシュから聞いた。
「そういえばレンって、ラッキー値が高いね」
「へ?」
ラッキー値? なにそれ。俺は、そんなのは見えないけど。
「ラッキー値なんて、わかるの?」
「あっ! ごめん! 覗き見たわけじゃなかったんだけど、人より多かったから見えてしまったんだ。気を悪くしたらごめん……」
覗き見る? みんなは、見えるものなのか?
「みんな、見えるの?」
「いや、ぼくだけみたい」
アッシュだけ? ……そうなんだ。
「じゃあ、他は!? レベルや特殊なスキルとか、ある!?」
期待してアッシュに詰め寄った。
「まだぼくのレベルが低いから、他は見えない。ごめん……」
アッシュは落ち込んだようにみえたので、手を取って走り出した。
「いいよ! 俺のラッキーで、お互いにレベルアップしよう!」
そう言うとアッシュは笑った。
「ああ! レンに負けないよ!」
いつの間にか、どっちが森まで早く着くのか競争をした。同時に森へ着いたので勝敗は、なし! なんだか子供の頃に、こうやって友達と遊んだことを思い出した。
「あれ? 今日の森……。なんだか、雰囲気がおかしいな?」
アッシュが森に着いたとたん呟いた。俺は全速力で走って、ゼイゼイと息切れをしている。アッシュは全然、息切れをしてなかった。
「え?」
下を向いて呼吸を整えていた俺は顔を上げた。
なんだか森の雰囲気が、ドヨ――ンと暗く見えた。
「本当だ。どうしたんだろ?」
森の中へ入るのをためらうような、空気の重たさを感じた。
「どうする? やめるか?」
俺はアッシュに聞いた。この重苦しい雰囲気の感じならやめた方がいい。
「行く」
即答だった。俺はためらったけれど、アッシュが行くならついていこうと思った。
どんよりした森の中に入ると、昨日は聞こえていた鳥の声や生き物の鳴き声が聞こえてこない。
「ぼくから離れないで」
アッシュに言われた通り、離れないようについて行った。