6 お金を貯めて好きなことをしたい
「レン! 大丈夫か?」
アッシュは俺を心配そうにしている。薬屋のお姉さんと、お医者さんを呼ぼうかと話している二人の声が聞こえた。
「あ……、もう大丈夫です」
頭痛が治まって、俺は顔を上げた。いつの間にか涙を流していたようなので、手の甲で涙をぬぐった。
「本当? お医者さんを呼びましょうか?」
お姉さんも優しい人だ。俺は無理やり笑ってみせた。
「ありがとう御座います。またひどく痛くなったら、お医者さんに診てもらいます」
「そう? 無理しないでね」
赤の他人の、初めて会った人たちに心配された。なんだか胸が温かくなった。
「もう宿屋に行こうか? ぼくが泊っている宿は安くていいよ」
転移前のことを一気に思い出して頭が混乱している。これから宿屋を探す気になれないので、アッシュについていくことにした。
「お願いしてもいいかな?」
俺がアッシュに伝えると「まかせて!」と言ってくれた。
アッシュの後ろをついていくと、薬屋さんからすぐの宿屋だった。
『いらっしゃいませ』
年老いたおじいさんがやっている宿屋に着いた。
「ああ。アッシュさん、お帰りなさいませ」
「戻りました。一人、泊まりたいのだけど部屋は空いていますか?」
心配してくれたアッシュは代わりに部屋が空いているか聞いてくれた。
「空いていますよ。そちらの方ですね」
俺に聞いてきたので返事をした。
「はい」
宿屋の店主は、おお! と言って微笑んだ。
「まだ若いのにすごいな! 宿代をおまけしてあげよう」
そう言って鍵を渡してくれた。宿代のおまけなんて初めて聞いた。
「ありがとう御座います」
俺は鍵を受け取ってお礼を言った。そういえばまだ十代くらいの姿だった。中身はもっと年が上なので気をつけなくてはいけないな。
「部屋は、ぼくの隣みたいだよ。何かあったら、隣にいるから呼んでね」
アッシュは優しい……。――もしかして俺が子供だからか? ありえる……。
階段を上って隣同士の部屋。
「明日の予定は、何かある?」
部屋へ入ろうかと思ったら、アッシュが話しかけてきた。
「そうだな……。また薬草など、拾いに行くと思う」
「そうか。良かったら途中まで一緒に行こうか」
どこまでもアッシュは良いやつだ。
「ありがとう! 色々教えてくれると嬉しいな!」
俺は早くこの世界の基本的なものを知りたかったので、子供の姿を借りて色々聞いてしまおうと思った。アッシュには騙しているようで悪いけど、俺には事情がある。
「じゃあ、お休み。レン」
「お休みなさい」
ドアを閉めて俺はベッドへポスン! とダイブした。
「あ――、疲れたぁ……」
今日一日でこんな目まぐるしく環境が変わった。まさかゲームの世界だなんて信じられない。
俺がこの世界に来た意味は、あるのかな……。
でもせっかくゲームの世界に来て、子供の姿になったなら楽しんでもいいかな? 神様や女神様みたいな案内人が、いないのが不安だけど……。
転移する前。頑張ったから、いいかな……。たぶんもう戻れないだろう。それだったら全力で楽しんでみたい。
どこか旅行に行きたかった。
何かのお店をやりたかった。
動物に囲まれてモフモフしたかった。……お金を貯めて、この世界でやってみよう。
モフモフ……。いいな。ペット禁止のアパートに住んでいたから、動物を飼えなかった。家を買えば、動物と一緒に暮らせるよな? うん。楽しくなってきた。
旅も自由に行ける。動物を連れて旅行も憧れていた。広い場所でペットと思いっきり全速力で走ったり、遊んだりしてみたい。何かのお店を開店してやってみたい。何のお店か決めてないけれど、何がいいかな?
子供だからか天井を見ていたら、目に膜が張って視界が見えにくくなった。俺は涙をこらえて、楽しいことを考えて眠りについた。