51 緑の四の塔 三階
『そんな! ……ひどい』
三階のフロアにたどり着いた途端、ルビーが悲痛な声を出した。壁一面に覆われた赤黒い枝やツルがフロアの奥に、この緑の四の塔の主と思われる精霊を縛り付けていた。
『キュキュ――!』
サンも心配そうに鳴いた。ルビーはサンを強く抱いた。黄の塔の精霊アンバーは警戒した。
赤黒い枝やツルに捕らわれている精霊は、うなだれて緑色の髪の毛が顔にかかっていた。ルビーより大きい女の子の精霊は、大の字に手足を縛られて苦しそうにしていた。
『お友達なの! 今すぐ助けるピ!』
ルビーは泣きそうな顔で、お友達の精霊に駆け寄って行こうとした。
走り出したルビーの姿を見て緑の精霊が、邪悪な笑みを浮かべたのが見えた。
「待って! ルビー!」
制止の声をかけたけれど、ルビーはとまらない。そのとき、壁に張り付いていた赤黒い枝やツルが一斉にルビーめがけて動いた。
『え?』
「ルビー!」
赤黒い枝やツルはルビーを狙って左右から襲ってきた。
バシッ――!
右から伸びてきたツルが、ルビーの小柄な体を叩き飛ばした。
「ルビー――!」
俺はルビーが叩き飛ばされて、床に倒れた所へ走った。
「ルビーさん!!」
レミさんとアンバーも俺の後から走ってついてきた。
アッシュが攻撃してきた赤黒い枝やツルに向かって走っていき、次に攻撃してくる左から狙ってきた鋭い枝を剣で切り倒した!
「今のうちに、ルビーさんを助けてあげて!」
俺達の方へアッシュは叫んだ。
「ありがとう!」
『キュウ……、キュ! キュ!』
サンは心配そうにルビーの傍らで鳴いていた。俺は駆け寄って、ルビーを抱き起してフロアの入り口まで走った。サンは無事だったので自力で俺の後についてきた。アンバーは俺の側について、赤黒い枝やツルから守ってくれていた。
入り口まで来るとルビーをそっと床へ下ろした。ここまでは赤黒い枝やツルの攻撃は届かない。
「ルビー……。大丈夫か? このポーションを飲んで」
あちこちに傷ができていた。俺はポーションをルビーの口につけて飲ませた。
コクコクコクコク……。
「ルビー?」
ポワッ……とルビーの体が淡い光に包まれて、小鳥の姿へ変わった。
『キュ……』
す――、す――と寝息が聞こえた。ルビーは目をつむって眠っている。どうやら小鳥に戻って回復しようとしているようだ。
「サン、ルビーのこと頼むね」
『キュキュキュ!』
小鳥の姿のルビーをサンのお腹の中に入れた。
『了解しました』
「きっとお友達を助けるからね。サンは、ルビーを守ってくれるかい?」
『キュッ!』
サンは、コクリ! と頷いた。頼もしい。
「お願い!」
俺はサンにルビーを守ってくれるように頼んだ。
「アンバーは戦えるかい?」
俺が聞くとアンバーは頷いた。
『はい』
入り口からフロアを見るとアッシュとレミさんは、赤黒い枝やツルの攻撃と戦っていた。強い魔のモノの力を感じる……。さっき飲んだお茶の効果がないようだ。
「くっ!」
俺はルビーやサンのお友達を助けたい。アッシュとレミさんは、赤黒い枝やツルの攻撃を受けているだけで精一杯のようだ。フロアの奥に縛られた、緑の精霊をどうやって助けようか考えていた。
「とにかく緑の精霊へ行って、拘束されている赤黒い枝やツルを切り離すしかない!」
俺はアッシュとレミさんの動きを見て、赤黒い枝やツルの攻撃の隙ができた所を見極めて走った。
「レン! 気をつけて!」
アッシュは俺が何をしたいのか察したようだ。巧みに剣を使って俺から赤黒い枝やツルの攻撃から遠ざけてくれた。アンバーも戦い始めてくれた。
「ありがとう!」
俺は皆にお礼を言って、拘束されている緑の精霊に近づいた。
「今、赤黒い枝やツルを切ってあげるから!」
緑の精霊の手足や胴体を、赤黒い枝やツルがぎっちりと絡まっていた。俺はナイフを取り出してそれらを切っていった。細長いツルや太い枝を根気よく切っていった。
『だめ……。離れて……』
うつむいていた緑の精霊の唇が動いて、話す声が聞こえた。弱々しい声だった。
「今、助けるから! 赤と橙と黄の、塔の精霊が待っているよ!」
俺は励ますように緑の精霊の女の子に伝えた。
『だめよ……、今すぐ離れ、て……』
緑の精霊の女の子は、ブルブルと震え出した。俺は心配になって顔をのぞいた。
「大丈、夫……? えっ?」
赤黒い枝やツルが、女の子の細い首から顔の輪郭辺りまで這うように絡みついていた。これは……。
『もう私は、だめです……。早く離れないと私は……』
俺は女の子の言葉を聞いて、赤黒い枝やツルをナイフで一生懸命に切った。
「危ない! レン様!」
ガキン! ザシュ!
レミさんが俺にめがけて襲ってきた尖った枝を、払って切ってくれた。
『私はもうすぐ、自我を失ってしまいます……。今も、もう……。私の草木たちは、赤黒い枝やツルに変わって、しまって……』
徐々に緑の精霊の女の子が、赤黒い枝やツルに侵略されてしまいそうだった。
「アッシュ、レミさん! アンバー! この子を助けたい! 赤黒い枝やツルからこの子を切り離したいからその間、お願い!」
時間がかかるかもしれない。だけどルビーやサンのお友達を見捨てるわけにはいかない!
「わかった!」
「任せてください!」
『了解です!』
三人は力強く答えてくれた。気を抜けない赤黒い枝やツルの攻撃に、手を抜くことなく赤黒い枝やツルを切り刻んでいた。
ガツ! ガツ! ガツ! ガツ!
ナイフ一本で女の子に絡みついている硬い木の枝やツルを引き剥がしていた。首から背中に張り付いた赤黒い枝やツルを切って、次は手足に張り付いた赤黒い枝やツルを剥がそうとした。左肩から腕、手首の赤黒い枝やツルを剥がした。
「次は右手を剥がしてあげるね」
ベリベリと枝やツルを剥がした。
「やった! 手は自由になったよ!」
緑の精霊の女の子の手を自由にしてあげた。
「ぐっ!?」
すると女の子の両手が俺に伸びて、首を絞めてきた。
「レン!?」
「レン様!?」
『!?』
女の子の首を絞める力は強く、引きはがそうとしたが無理だった。
「ど、うして……?」
俺は顔をあげて女の子を見ると、きれいな緑の瞳から涙が流れていた。




