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5 唐突に転移まえの自分を思い出す 


 

 二人で魔物を倒して町に着いた時には、アッシュと仲良くなっていた。

 「これ、あげるよ」

 アッシュが一緒に戦って拾った赤黒い石を、ポケットから出して俺に渡してきた。

 「いや。それはもらえないよ。アッシュが戦って拾ったものだ」

 俺が断ると、アッシュがカバンから袋いっぱいに入った赤黒い石を見せた。


 「すごい! そんなにたくさん魔物を倒したんだ!」

 袋にいっぱいの赤黒い石。こんなにたくさんあるというのは、それだけ魔物を倒したということだ。

 「うん。見ての通り、もう袋に入らないからもらってくれると嬉しいな」


 なんていいやつだ。

 「赤黒い石は【魔道具屋】に持っていくと良いよ。買い取ってくれる。ぼくも行くから一緒にいこう」

 「ありがとう!」

 俺はアッシュと一緒に町の【魔道具屋】へ向かった。


 町の中を歩いているとき、アッシュに聞いてみた。

 「【魔道具屋】ってなにを売っているの?」

 「魔道具を使うときに、赤黒い石が必要なのだけれど……。レンは遠い国から来たって聞いてけど、赤黒い石は使わないの?」

 アッシュは俺が赤黒い石のことを知らなかったため、疑問に思ったのだろう。


 まさか違う世界から来ましたなんて言えないし、自分の()()()()()()()なんだよな……。

 「あ! あそこにあるのが【魔道具屋】? 行こう!」

 俺はアッシュに返事をせずに、駆け出した。

 

 建物の囲まれた日陰にひっそりと、その【魔道具屋】はあった。古い木のドアを開けるとギギギギ……と軋む音がなった。店主は、魔女みたいな黒い大きなフード付きのローブを着ていた。

 『いらっしゃい』

 フードで顔がほとんど見えないけれど、声を聞いて意外と若いひとなのかと思った。


 「赤黒い石を売りにきたよ。近くの森に魔物が増えたね」

 アッシュは、店主と世間話をしながら取引をしていた。

 「そう、みたいだね。他の冒険者も増えたと言っていた。隣の町でも増えてきたと聞いた」


 なるほど。こうやって世間話をしながら情報交換するのか。

『毎度ありがとうございます』

 店主からお金を受け取ったアッシュは俺の方に振り向いた。


 「レン。赤黒い石をカウンターへ置いて」

 「ああ」

 ゴロッと赤黒い石を、大きなお盆(トレー)のようなものの上に乗せた。さっきはアッシュの体で見えなかったけれど、このトレーには魔法陣らしきものが書いてあった。


 ピカッ! と魔法陣が光った。

 「まぶしい!」

 俺はまぶしかったので手で目を隠したが、店主とアッシュは平然としていた。

 「間違いなく、赤黒い石だね。レベルが少し高いから、1個が500Gで10個あるから5000Gになる」


 「はい」

 思ったより高く売れた。ちょっと驚いた。

『5000Gになります。ありがとう御座いました』

 ジャラ……と店主が、革袋へお金を入れて渡してきた。

 「ありがとう!」

 やった! 5000Gも稼げた! アッシュのおかげだったりするけど!


 「次は【薬屋】へ行こうか。レンが採った木の実や植物を売ろう」

 「うん」

 アッシュの案内で【薬屋】へ向かう。


 『いらっしゃいませ――!』

 元気がいい店員さんに挨拶されて驚いた。声が大きい。

 「あら? アッシュ! 今日はどこをケガしたの?」

 薬屋に入ったとたん、明るい口調のお姉さんがアッシュに話しかけてきた。薬屋さんの店員らしく白衣みたいなローブを着ていた。

 「今日はケガをしてないですよ! もう!」

 今日は? ということは、いつもケガをしてここに来ているのか。


 「ごめん、ごめん! 心配しているのよ。で、今日は何の用事かしら?」

 ハキハキと話すお姉さんに圧倒されながら、俺は皮の袋から薬草や木の実を取り出してテーブルの上に出して見せた。

 「俺が採ってきたものです」

 「あら、たくさんあるわね! えっと……見せてもらってもいいかしら?」

 お姉さんはカウンターからテーブルの所まで来て、俺の持ってきたものを調べ始めた。


 「うん! 新鮮なものばかりね! それに()()なものも混じっていたわ」

 お姉さんは手を胸の前で組みながら、キラキラした目で採ってきた草を見ていた。

 「なかなか手に入らない材料がそろったから、これであの薬と作れなかったあの薬を……」

 お姉さんは、ふっふっふっ……と不気味な声を出して笑い、ぶつぶつと何かを言っていた。


 「あの、買い取りをお願いします!」

 このままでは、いつまで経っても買取してくれないと思って声をかけた。

 「ああ! ごめんなさい! 私はレアものを見ると興奮しちゃうの!」

 そう言ってお姉さんは、空中に人差し指で押していた。何をしているか俺にはわからなかった。


 「お待たせ~! 全部で5500Gになります!」

 「お、やった――!」

 5500Gか! 高値で売れた!

 「よかったな、レン!」

 「ああ!」

 

 

 そのとき、俺の頭がズキン! と痛くなった。

 「痛い……」

 額に手で触れてみる。熱はないようだけれど、頭が割れるように痛い。

 「どうしたんだ、レン?」

 

 唐突に頭の中で俺の転移する前の映像が流れた。

 「……っ!」



 それは休みも返上して働く、顔色の悪い自分の姿だった。早朝から出社して終電ぎりぎりまで働く、俺。

 家に帰ると簡単な食事をして、風呂へ入って寝るだけの生活。

 

 会社に行けば上司がちょっとした俺のミスを、ストレスのはけ口にしてぐちぐちと文句を言われる。

 精神的にも、肉体的にも限界が来ていた……。


 食事も摂らずに疲れて眠った。……やっぱりあのまま起きることなく、異世界(こっちの世界)へ来たのか。

 「くやしい……」

 自然に声に出していた。


 俺は別に悪いことなんてしていない。

 会社のお金を横領していたことの発覚した同僚がこの間捕まったけれど、俺よりいい生活をしていた。車、家、交友関係。

 どうして倒れるまで働いていた俺と、あいつとの違いがあったのだろう?


 俺は会社に入る前、何を考えていた?

 

 そうだ、お金を貯めて……。どこか旅行に行きたかった。何かのお店をやりたかった。動物に囲まれてモフモフしたかった。


 ――今。唐突に転移まえの自分を、思い出した。

 


 


 

 

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