43 お城の奥の部屋
「あら! ルビーさん、とても可愛らしいですわ!」
ルビーを見て可愛らしいと言ったのはレミさん。部屋に入ってきて、その姿に驚いた。
きゃ――! というメイドさんの黄色い悲鳴が聞こえた。
「レミナーシャ様! 素敵です――!」
髪の毛を片方に束ねて、白い騎士服を着た凛々しいレミさんに見惚れてしまった。男装の麗人みたいだ。冒険者風の服じゃ、レミさんの魅力は半減していた。騎士服姿が見られて良かった……!
「レン様に、御紹介したい方がいらっしゃいます。来ていただけますか?」
レミさんが微笑むと、メイドさんからまた黄色い声が聞こえた。厳しそうなメイド長さんは「もう少し、声を抑えなさい」と注意していた。
「ご紹介したい方……ですか? わかりました」
俺は立ち上がってルビーに「お菓子があるよ」と言って、部屋を出た。ルビーは喜んで、お菓子のあるテーブルへ向かっているのが見えた。
コツ、コツ、コツ、コツと靴音が響く。時々見張り中の騎士さんが、レミさんに挨拶をしていた。もしかしてレミさんって、騎士の中でも地位が高いのかな?
「少し、歩きます」
「はい」
やっぱりレミさんは、お城の中を歩きなれている。迷いなく進んで、お城の奥まで来たようだ。背の高く、鍛えている強そうな騎士さん達が警戒して立っていた。
歩いている床が、ふかふかの高級な絨毯になって俺は気が付いた。
「もしかして、高貴な方にお会いするとか……? まさか、急にお会いできないですよね――!」
「そのまさかです、レン様」
俺は絶句した。高貴な方に会える? そんな、心の準備がまだなのに!
厳重な警備の部屋の前に着いて、レミさんが豪華な扉をコンコン! とノックした。
「レミナーシャです。戻りました」
レミさんが伝えると、中から返事が聞こえた。
「どうぞ」
女性の声が聞こえた。
扉が開くと、中から女性の騎士さんがレミさんに話かけた。
「ご苦労様です。どうぞ中へ」
頷いてレミさんは部屋の中へ入っていった。
「レン様も、どうぞ中へ」
「はい」
緊張しながら部屋の中へ入っていった。どうやら家具や壁紙、明るい色合いの感じの部屋から見ると女性の部屋らしい。レミさんの後ろをついていくと、部屋の奥に天蓋付きのベッドがあった。レースがベッドの周りを覆っていて中が見えなかった。
部屋は薄暗く、窓のカーテンがしまっていてあまり日差しが入ってこない。病人がいるのだろうか?
「姫様。レミナーシャ、戻りました。お加減はいかがでしょうか?」
レミさんはレース越しに静かに声をかけた。……姫様? えっ、ここお姫様の部屋!? 俺なんかが入っていいのか?
レースの内側で人の動く音がする。きっと、お姫様だ。俺はレミさんの後ろで身動きせずに立っていた。
「レミナーシャ? 帰ってきたのね。ああ良かった」
澄んだ可愛らしい声だった。ルビーよりも年上の、十五、六歳位の女の子の声。
「はい。戻りました」
この様子からお姫様とレミさんは、親しい間柄なのかなと思った。
「姫様。ご紹介させていただきたい方が、いらっしゃっております。今、よろしいでしょうか?」
「ええ」
今? いいのか? 俺はさらに緊張をした。
レミさんが無言で頷いて合図すると、メイドさん達がすばやくベッドの周りを覆っていたレースを天蓋の柱に束ねた。メイドさん達はレースを束ね終わると、礼をして邪魔にならないように壁際へ並んだ。
レミさんも頭を下げたので、俺も頭を下げた。
「皆、顔を上げてちょうだい」
姫様の言葉で皆が一斉に顔を上げた。ベッドの中には少女が上半身を起こして座っていた。
「来てくださって、ありがとう」
花は飾っていないのに、お花の良い香りがする。部屋は暗いし、離れているのでお姫様の姿はあまり見られないけれど、きっと可愛らしいお姫様なのだろう。
「姫様。こちらが【薬草 配合師】と【魔道具士】両方の優れた腕を持つ、レン様です」
レミさんは、俺のことをお姫様に紹介してくれた。優れた腕を持つと言ってくれて照れた。
「ああ! あなたが優秀なレン様なのですね……! お会いしたかったですわ。もっと近くへ来て下さる?」
「はい」
お姫様はご病気だったよな? お医者さんではなくなぜ俺が呼ばれたのだろうか?
「レン様、どうぞこちらへ」
レミさんに促されてベッドに近づいた。
「……姫様は今、赤黒い石の呪い『魔石病』に侵されています」
お姫様の近くのランプの明かりが灯された。淡い光だったが、お姫様の姿が見えてきた。
「醜い姿で怖がらせたら、ごめんなさい……」
「!」
お姫様の頬と額、両手の甲。寝間着にカーディガンを肩にかけて、覆われてない外へ出たお姫様の肌に、赤黒い石の薄い結晶がまるで鱗のように張り付いていた。
「これは……」
俺は言葉を失った。レミさんが言っていた、姫様の病気というのはこれだったのか。見たことのない病気だ。……そもそもこれが病気なのかわからないけれども。
「お医者様に診ていただいたのですか?」
これはお医者様にみてもらって治るのか……。俺はお姫様の両手の甲の赤黒い石の鱗を観察した。
「はい。でもお医者様では治せないと言われました。……呪いの類だろうと」
赤黒い石の呪い『魔石病』。呪いをいつ受けたのか。
「呪いを受けたときの状況って、わかりますか?」
俺はお姫様の、呪いを治してあげたいと思った。




