4 美形に二度会う
音を頼りに近くまで行くと、犬のような鳴き声とガザガザと草の上を動く音が聞こえてきた。
グルルルル……。
唸っているのは犬のような形をした魔物たちがいた。その魔物たちは赤く目が光っていて、普通の犬と違って一目でわかるほど凶悪な姿だった。
そして見えてきたのは三匹の犬の魔物と戦う、さっき会ったばかりの冒険者だった。俺は木の影から見た。
冒険者は三匹の犬の魔物を、木でできた剣を使って倒していた。初心者と言っていたけれど、強い!
あっという間に魔物を倒してしまった。
倒された魔物は、シュウ……と黒い煙になって消えていった。
倒すと魔物は黒い煙になるのか……。なるほど。
美形がしゃがんで、魔物の消えた所から赤黒い石を拾っていた。あれは何だろう?
声を掛けようかと木の影から出ようと思っていた。
「ん?」
ガサガサと右方向から何かが走って来るのに気が付いた。あれは!?
「もう一匹、来るぞ!」
美形めがけて走ってきたのは、さっき倒した犬の魔物の仲間だった。美形に鋭い牙を向けてジャンプした! 注意したが間に合わないと思った俺は、とっさに持ち歩いて拾った太めの木の棒を、犬の魔物に向けて投げた!
ギャウン!
みごと犬の魔物に当たって、ジャンプ途中で地面へ落ちた。
「やった!」
俺は木の影から美形の近くへ出ていった。
「君はさっき会った人だよね? ありがとう、危ないとこだったよ」
美形は驚いていたが、俺の姿を見ると微笑んだ。俺が拾った太めの木の棒を投げて倒れた犬の魔物は、黒い煙になって消えた。もしかして俺は、犬の魔物を倒した?
「いや、とっさに投げたら当たっただけだよ。でも、あの魔物を倒したのかな?」
「そうだよ。君が最後の一匹を倒したよ」
はい、と言って俺に赤黒い石を渡してくれた。
「これ、なに?」
手のひらに乗った赤黒い石を見ながら、美形に聞いてみた。宝石ではないようだ。
「魔物を倒すと、赤黒い石を落とす。それはお店で売ると、お金になるんだよ」
「そうなんだ……」
お金を落とすわけじゃないのか。でもいいことを聞いた。
「経験値もカウントされるよ」
経験値……? それって……。
「もしかして、レベルとかあるの?」
俺は美形が親切だったから、また聞いてしまった。
「うん、あるよ。もっと詳しく聞きたいときは、町のギルドに聞くといいらしい。町の人が教えてくれたよ」
美形、良い人だ……!
「あっ、そうだ! 定食屋で、僕の分までお金を払ってくれてありがとう! 払います!」
パーカーのポケットからお金を出そうとしたら、美形が「ごちそうしたから、いらないよ」と言ってくれた。
「相席を嫌な顔をせずに快諾してくれたし、今は助けてくれた」
そう言って頷いた。
「ぼくの名前は、アッシュ。君は?」
「俺は、えっと……レン! よろしく」
俺達は握手をした。アッシュの手のひらには、剣の練習をしているのか硬いタコがあった。
「俺はこの森で薬草とか採ろうと思って来たけど、アッシュはレベルを上げるために来たの?」
「そうだよ。レンのアドバイスのおかげで、レベルが上がったよ」
ニコッと笑ってアッシュは言った。
『それはよかった!』
ん!? また俺の口からテンプレセリフが出た! どうして?
『倒している敵が弱く感じたら、次の町に行って魔物を倒すと良いよ!』
ぎゃ――! とまらない! お約束のセリフが勝手に出るよ!
「なるほど……。この辺の敵を弱いと感じないから、まだレベルが上がるってことか」
アッシュは「ありがとう」と俺に言って、考え込んだ。美形はどんな表情しても美形だな。うらやましい。
「あ! そろそろ日が暮れる。ぼくはもう町へ帰るけど、一緒に帰らないかい?」
魔物も出たことだし、一緒に帰ることにした。
「そうさせてもらう。さっき採っていた野イチゴや薬草を持って帰りたいから、置いてきた場所へ戻ってもいいかな?」
「いいよ」
野イチゴや採った薬草を置いた場所に戻って、入れ物がないのでどうするか悩んだ。
「どうしたの?」
アッシュは俺が悩んでいたのに気が付いて話しかけてきた。
「あ、採ったものを入れる袋が無くて……。ポケットに入れようかと……」
ポケットに入れられるかな? 野イチゴや薬草が、つぶれそうな気がするけど。
「じゃあ、これ使って」
アッシュは腰に着けていたポーチから、皮の袋を取り出した。丈夫そうな袋だった。
「え! アッシュの使うものが無くなるよ!」
俺の手に川の袋を渡してきた。
「ぼくはまだあるから大丈夫。使ってよ」
ね? と言ってくれた。
「ありがとう。助かる」
困っていたから助かる。アッシュから皮の袋をもらった。俺は野イチゴや薬草を、もらった皮の袋に入れた。ちょうどいい大きさの袋だった。採ったものが全部入った。
俺とアッシュは、途中で魔物に遭遇して倒しながら町へと向かった。アッシュは強かったけれど、まだ初心者。自分の前の敵を倒すのが精一杯らしかったので、俺も加勢して魔物と戦った。
背中を合わせて背後から魔物が来ないようにして、目の前に来た魔物だけをそれぞれ倒した。
拾った太めの木の棒で殴ったら、俺でも倒せたのでよかった。魔物を倒して、赤黒い石をたくさん拾えた。