37 今回は無事? アッシュ再び
「精霊の仲間は上に行ったし、この橙の精霊のお腹の毛の中にルビーが入っているし。このまま抱いて上に行くか……」
「そうですね……」
大量のモフモフの中に橙の精霊が混ざったら見つけるのに苦労する。このまま捕まえておくのがいい。モフモフだし。
俺とレミさんは二階を目指した。
「魔物が出てこないと、楽だね」
いきなり襲って来ることもないし、良かった。俺は橙の精霊のリーダーをモフモフしながらゆっくりと階段を上がった。
「助けてくれ――」
「あら?」
「ん? この声は……、アッシュ!?」
急いで二階の階段を上がった。アッシュの声が聞こえた! またアッシュが命の危機でないといいけど!
「アッシュ!?」
俺とレミさんは二階まで階段を駆け上がった。
「ええええ――!?」
二階のフロアは、橙の精霊で超大量に埋め尽くされていた。そこの中にアッシュは埋もれている!?
「リーダー、あの子達を壁際に並べて! 早く! アッシュが……、アッシュが、モフモフ廃人になってしまう!」
「はい? なんでしようか、それ……」
レミさんは一瞬考えてから、首をかしげた。
『キュウ~?』
「あ、ああ。今の、聞かなかったことにしてくれ!」
あまりの多くのモフモフに囲まれて、そこから抜け出せなくてずっとモフモフの虜になる……それがモフモフ廃人。モフモフを触っていると、何もしたくなる恐ろしい罠。猫カフェや、最近人気だった犬のサモエドのお店、ウサギカフェなどがあげられる。
「リーダー、精霊たちを一か所に集めてくれ! お願いだ!」
『キュキュキュ!』
橙の精霊のリーダーは俺の腕から抜け出して、床へ降りた。ふわふわと前へ移動すると、とまった。
『キュ――――――!』
「わ!」
「大きな鳴き声!」
二階のフロアにリーダーの鳴き声が響いた。するとまた精霊たちはリーダーの声に従って移動した。
「すごい……」
『キュ!』
超大量の丸い精霊たちは、端っこへ移動して一か所へまとまった。高い天井まで積みあがったモフモフの精霊たちは、何だか楽しそうだった。
「アッシュ!」
フロアの真ん中へうつぶせで倒れていた。アッシュはぐったりとしていたが、ケガはしてないようだった。
「モフモフ……。モフモフ……」
アッシュはモフモフとブツブツ言っている!
「アッシュ! これ飲んで!」
こういうときがあるかもしれないと、俺はアッシュに苦いお茶を飲ませた!
「……もふ」
こくこくこくこく……。アッシュは超苦いお茶を飲んだ。
「ああああ――! 苦い――――!」
ゴホゴホゴホゴホ……! アッシュはむせてせき込んだ。俺は次にお水を飲ませた。
「今度はお水だよ。飲んで」
「ありがとう!」
アッシュは俺から水の入ったコップを奪うように持って、水を飲んだ。
「ああああ……、苦かった……」
「もう少し、苦みを抑えたほうがいいかな……」と呟くとアッシュに涙目で見られた。
アッシュの全体に、橙の精霊の毛がいっぱいついて毛だらけだ。俺はそれを払ってやった。
「ありがとう……」
ちょっとぐったりしていた。
「まさかまた、会えると思わなかった! ケガはしてない?」
「うん」
よく見ると防具が鉄の鎧になっていた。
「防具が変わっているね。レベルが上がったんだ」
アッシュの防具を見て言った。でもアッシュは不思議な顔をしていた。
「どうしてレベルが上がったと、わかったの?」
俺はしまった! と思った。ゲームではレベルが上がれば、防具の性能が良いのへ身につけられる。でもここは俺だけがゲームの世界へ来たモブだ。あまり余計な事を言ってはダメな気がする。
「な、なんとなく?」
あはははは……と笑ってごまかした。
「お怪我がなくて、よかったですわ」
レミさんがアッシュに声をかけた。アッシュは立ち上がって礼をした。
「レンとあなたのおかげで、また助かりました。ありがとう御座います」
その礼は、気品を感じた。勇者として成長したのだろうか。何となくオーラが違ってきているような気がする。
「三階へ上る階段を探していたら、急に上からこの子達が現れてきて」
アッシュは三階へ続く階段に視線を向けた。
「それから一階に下りていって、今度はこのフロアをいっぱいにして巻き込まれました」
それは俺達のせいで移動したかも……。
「この上にボスがいる」
「!」
「ボス……」
俺とレミさんはアッシュの一言で一気に緊張した。
「そこで提案なのだけど……」
アッシュは俺の両肩に手を置いた。真剣な顔をして俺に何かを言おうとしていた。
「な、何?」
美形の顔は近くで見ると迫力ある。まつげ長い。
「レミさん……だったかな。君にもお願いがある」
今度はレミさんの方へ顔だけ向けて言った。
「はい。できることなら」
「一緒に、戦ってくれないか?」
真っ直ぐに俺の目を見て言った。初めてであった頃と変わらない真剣な目。そして優しい性格のアッシュ。勇者だったけれど変わらず子供の俺と接してくれる。アッシュの瞳に、吸い込まれそうになりながら俺は頷いた。
『よろこんで!』
俺はここでも、テンプレセリフを言ってしまった。アッシュは嬉しかったのか、瞳が潤んでいた。




