36 二の塔 モフモフまみれ?
カツン……!
つま先が二の塔内部の床に着くと、足音が響いた。硬い床の感触が足の裏から伝わった。
「この二の塔も、一階は広いフロアになっているね」
「そのようですね……」
一の塔と同じく、一階は広いフロアになっていて何もなかった。壁際に階段が二階へと続いていて俺達は上って行こうとした。
『ムキュ――!』
「へ?」
奇妙な鳴き声が聞こえてきて、階段の上の方から橙色の何かが転がってきた。
ポヨン! ポヨン! ビタン!
それは床に落ちて動かなくなった。
「え、大丈夫?」
橙色の丸い正体不明のものは、モソモソと動いた。
『キュ……?』
「可愛い!」
近くにいってみると、橙色の丸いものは顔を上げてこちらを見た。小さな丸い目はウルウルと涙をためていた。
「痛かったか――? よしよし」
ぶつけて痛そうにしていたので、頭だと思う場所をそっと撫でてあげた。
『キュ……ン』
触ってみると毛がフワフワしていて気持が良かった。目の他は隠れていて見えなかったけれど、ウサギのようなしっぽはあった。
「これは……。滅多に会えない、この塔にいる『橙の精霊』だと思われます! 会えたら幸せになるという、塔にまつわる伝説です!」
レミさんは指を胸の前で組んで感激していた。前の世界で「見たら幸福をもたらす」と言われているケサランパサラン的なものか?
それにしても良い手触りだ! もふもふだ!
『ピピッ!』
急にバタバタと羽を動かして、ポケットの中からルビーが飛び出してきた。
「ルビー!?」
橙色の精霊に、食べられるかも!? と思って俺は、撫でるのをやめて身構えた。ルビーは橙の精霊に向かっていった。
『キュ――――!』
『ピッ! ピッ――!』
ぼふっ! とルビーは橙の精霊の体の中に入っていった! もしかして口の中に……!?
「わ――! ルビーが橙の精霊に食べられた!」
俺は橙の精霊のモフモフの毛をかき分けて、ルビーを探した。
「ルビー様!」
レミさんも駆け寄って、一緒にルビーを探した。
「いた――!」
「ルビー様!?」
サッカーボールくらいの大きさの橙の精霊の毛の中で、スヤスヤと寝ていた……。
『キュ?』
首がどこだか見分けがつかないが、橙の精霊は首をかしげた。ルビーを食べたわけじゃなかったようだ。
「もしかして、お互いお知り合いだったのではないでしょうか……?」
レミさんは頬に手をあてて、考えてから俺に言った。
「そうみたいだな」
ルビーは警戒を全くせずに、橙の精霊のフワフワの毛の中で眠っていた。
「そのままで眠っていて、ルビー」
俺はめくっていたフワフワな毛を、苦しくないようにかぶせた。
「あら? この橙の精霊。頭の一部に橙色の毛があるわ」
レミさんに言われて橙の精霊の頭を見てみると、つかめるくらいの毛の束がピョン! と立っていてそれが橙色になっていた。
「本当だ」
レミさんと橙の精霊を見ていたら、階段からざわざわと気配を感じた。
「敵でしょうか?」
俺達は目を合わせて警戒した。
『キュ!』
『キュ、キュ!』
『キュ! キュ、キュ!』
「キュって……、他に仲間がいるのか?」
階段の上から、橙の精霊らしい鳴き声が聞こえてきた。それはだんだんと近づいてきて階段から姿が見えた。
『キュ!』
『キュ、キュ!』『キュ! キュ、キュ!』
『キュ!』
『キュ、キュ!』
『キュ! キュ、キュ!』
「え……たくさん、いる?」
「一体、二体だけじゃないですね!?」
『キュ!』
『キュ、キュ!』『キュ! キュ、キュ!』
『キュ!』
『キュ、キュ!』
『キュ! キュ、キュ!』
『キュ!』
『キュ、キュ!』『キュ! キュ、キュ!』
『キュ!』
『キュ、キュ!』
『キュ! キュ、キュ!』
「うわ――――!」
「キャ――!」
階段から大量に、橙の精霊が下りてきた! 俺達は大量の橙の精霊に埋もれた。
『キュ!』
『キュ、キュ!』『キュ! キュ、キュ!』
『キュ!』
『キュ、キュ!』
『キュ! キュ、キュ!』
『キュ!』
『キュ、キュ!』『キュ! キュ、キュ!』
『キュ!』
『キュ、キュ!』
『キュ! キュ、キュ――――!』
一体の橙の精霊が大きく鳴くと、大量の橙の精霊たちは動きをとめた。俺とレミさんは顔だけ出して、あとは体が全部橙の精霊に埋もれた。ふわふわの橙の精霊に囲まれて、極上のお布団のようだった。
「顔まで埋もれたら、息ができなくて危なかったですね……」
レミさんは顔を必死に上げて俺に言った。
「だね……」
圧迫感はないけど、顔の下あたりまで橙の精霊に埋もれた。これでは下が見えないので橙の精霊を踏んでしまいそうだった。
『キュ――!』
大量の橙の精霊のうちの一体、頭に橙色の毛の子が大きく鳴いた。
すると大量の橙の精霊が俺達からサ――ッ、と引いて、もと来た階段を上っていなくなってしまった。残ったのはルビーが体の中にいる橙の精霊、頭に橙色の毛がある子だけだった。潰されないように俺が抱きあげていた。
「お前、橙の精霊のリーダーなのか?」
俺の腕の中にいる『頭に橙色の毛がある子』が鳴いたら、大量の橙の精霊がいなくなった。
『キュッ!』
何だか腕の中にいる『頭に橙色の毛がある子』が凛々しく見えた。




