30 ようこそ! 滅ぼされそうになった町へ!
次の町に着くと、町の人が異常な盛り上がりをしていた。
お祭りではなく、お祝いのようなことをしていて美味しそうなごちそうを食べたり、子供達はお菓子をもらって食べていたりしていた。大人たちはお酒を飲んで乾杯をしていた。
『ようこそ! 滅ぼされそうになった町へ!』
お酒を片手に、上機嫌のおじさんが俺達を迎えてくれた。滅ぼされそうになった町!? それが、この町の名前なのだろうか?
「滅ぼされそうになった町、なのですか!?」
おかしな町の名前に俺はおじさんに聞いた。町全体が飾りつけをしていて、垂れ幕がかかっていた。
『そうだよ! あれを見てみな!』
ハハハハハハ――! と垂れ幕を見て、陽気に笑った。
『町を救ってくれた、勇者アッシュ ありがとう!』と垂れ幕に書いてあった。
「アッシュだ! いつ? いつ、町を救ったの!?」
おじさんの腕を持って、アッシュがいつ町を救ったか聞いた。
「今日だよ」
おじさんはお酒をぐいっと飲んで答えた。
「俺もアッシュが町を救うとき、見たかった――――!!」と叫んだ。
この町の盛り上がりからして、きっと勇者アッシュはかっこよく、町の人達を助けたのだろう……! 見たかった!
『ははははっ! そうだよな、ぼうず! だけどその場にいたら危なかったぞ?』
「え」
おじさんはそれだけ言うと、どこかへ行ってしまった。
町中はお祝いをして盛り上がっていたけれど、入り口近くの建物は壊れていたものもあった。もしかして大変な戦いだったのだろうか?
「勇者アッシュ様とすれ違いでしたわね。残念ですね」
レミさんが俺の肩を叩いた。今すぐこの町を出れば追いつけるかもしれない。でも、そうするとすぐに夜になってしまう。
【魔道具屋】にも行きたいし、あきらめるしかない。
「そうだね……」
アッシュに会いたかった。
「すぐに会えますよ。きっと」
「うん」
とりあえず俺達は宿屋を探した。賑わっていたけれど、宿屋は空いていそうだ。
宿屋でも勇者アッシュの話題で盛り上がっていた。
「それで勇者さまが!」
「私も見たわ! 素敵だった!」
「勇者様のおかげじゃ!」
「本当ね!」
老若男女、みんなアッシュの話をしている。俺も話に混ざりたい……!
「あの!」
俺は勇気を出してアッシュの話をしていた、女の子二人組に話しかけた。
『なにか御用でしょうか?』
あっ……。テンプレセリフになってしまった。
「あ、あの勇者アッシュの……」
アッシュの話を聞こうとしたら、急にテンプレセリフになって二人とも席から離れてしまった。
『ここは【宿屋】です。勇者アッシュも泊まられた、由緒ある【宿屋】です!』
女の子の一人が宿屋の紹介をした。え、アッシュはここに泊った?
『それは凄いですね! ぜひ泊まらせて、下さい!』
わあ! テンプレセリフだ。まあこの宿屋でいいかな?
『ではこちらにどうぞ』
案内されたのは豪華な部屋。
『こちらは勇者アッシュ様が泊まられた、お部屋になります!』
やたら豪華でキラキラしていた。俺も、レミさんも一泊するのにあまりの贅沢な部屋だったので、入らずに立ち尽くした。
「いや……。ここじゃない部屋がいいかな」
「ですね」
部屋にベッドが一つしかないから! あとキラキラして眠れないだろう。
『そうですか……。残念です』
部屋を変えてもらって一安心した。俺とレミさんは別々の部屋へ別れた。
「さてと……」
俺は【魔道具士《まどうぐし》】について調べることにした。レミさんに寝ている小鳥のルビーを預かってもらい、一人で【魔道具屋】へ行くと言って宿屋を出てきた。一応、どこに行くかくらいはお互いに知らせておかないと。
「えっと【魔道具屋】はどこかな……?」
俺は一人で、滅ぼされそうになった町を歩いた。町の名前が長くて言いにくい。まだ、町中でお祝いが開かれていた。これは朝まで終わらない、お酒飲み放題のお祝いになりそうだ。でも、町の人の表情は明るくて楽しそうだ。
途中で町の人にごちそうを勧められたけど、レミさんが食べずに待っているから断った。遅くなったら先に食べてと言ったけれど、目的はまだだし、ここでお腹いっぱいになるわけにはいけない。
『アッシュ様、素敵だったわね~!』
『本当ね~!』
町のあちこちで勇者アッシュの話題でにぎわっている。
どんな戦い方をしたのか聞きたいけれど、さっきの女の子たちはテンプレセリフに戻っていたし。見たかったな。
酒場の前を通りかかったときに、酔った男性二人がアッシュのことを話しているのが聞こえた。
『勇者様が大熊の魔物を倒してくれて、この町は助かったな!』
『そうだ! でなければ俺達は今ここで、酒なんて飲めなかったぞ!』
わははははははっ! と笑いあった。酔った男性二人の会話でアッシュが大熊の魔物と戦って、この町の人を救ったことが分かった。
「アッシュは、すごいなあ……」
俺はますますアッシュの戦いを影から応援したくなった。自然に笑みがこぼれた。
「あ、あった」
多少の違いはあるけれど町の作りは、ほぼ似たような感じだ。歩き回って、魔道具屋を見つけた。裏通りにある【魔道具屋】だ。どこの町も【魔道具屋】は暗い感じの場所にある。初めてここに一人で入るのは勇気がいる。
古そうな木で作られた、つぶれかけているような建物のお店。――俺は扉を開けた。




