25 宿屋での出来事
「心配をおかけしました。もう大丈夫です」
宿屋の食堂で、向かい合わせに座ったレミさんが謝罪してきた。恥ずかしいのか下を向いて少し頬を赤くしていた。
「年上なのにお恥ずかしい姿を見せてしまって……」
いつもは背筋をピン! として凛々しい姿のレミさんは、お風呂に入ったのか上着を脱いでいてブラウス一枚にズボン姿だった。ラフな服装だったけれど、それが逆にスタイルの良さを見せていた。そして微かに良い香りがしていた。
「いえいえ! 年上とか関係ないです! 治って良かったです」
「レン様は優しいですね」
レミさんは厳しい環境にいたのだろうか? ちょっと心配になった。
周りには他の冒険者も食事に来ていて賑やかだった。夕食はメニューが決まっていて、宿屋の料理人が作っていた。
「お待たせしました~! 牛の骨付き肉とポテトサラダに、コンソメスープとパンのセットです!」
宿屋の店員さんが夕食を持ってきてくれた。ニコッと笑ってテーブルに置いていってくれた。
「美味しそうですね! お腹空いた!」
牛の骨付き肉は、こんがり焼いてあって肉汁がトロリとあふれていた。こちらの世界にもポテトサラダやコンソメスープがあって、馴染みの味なのでいい。ただこっちの世界の肉の方が、味の濃いような気がする。
「食べましょうか?」
「「いただきます!」」
レミさんはナイフとフォークで上品に食べていた。俺は牛の骨付き肉を手に持って、豪快にかぶりついていた。他の冒険者たちもかぶりついていたし。この食べ方は品がないけど、一番おいしい食べ方だと思う……ことにした。
炭火で焼いたのか、オーブン焼きなのか調理場は見えなかったけれど、美味しい。料理を作るのも好きだから作ってみたい。
「美味しかった――! ごちそうさま!」
パンがお代わり無料だったので、たくさん食べた。お腹いっぱいになった。満足して食後のお茶を飲んでいた。レミさんとこれからの予定を話そうと思っていた。
隣の席に座っている冒険者さん達が賑やかだったので、そちらへ目を向けたらパーティーの一人と目が合った。
「よお! あんた達も『情報新聞』を読んで、ここの地方へ来たのかい?」
ニカっと笑って声をかけてきたのは、リーダーらしい鍛えた筋肉がすごい男性だった。
「『情報新聞』……は、まだ読んでいませんでしたね。何が書いてありました?」
返事に困っていると、レミさんが答えてくれた。情報新聞というのは知らないけれど、転移前と同じ新聞なんだと思った。
「まだ読んでないのか! そこのマガジンラックにあるから、読んでみるといい」
そう言って男性は指をさした。俺は立ち上がって食堂の壁側にあるマガジンラックから『情報新聞』を取った。マガジンラックには色々な雑誌が置いてあった。あとで読んでみようかな?
テーブルの上に『情報新聞』を広げてみた。この世界も転移前と同じ、新聞紙だった。
事件や事故、地方の情報や色々なことが書いてあった。読んでいくと一面に大きく書いてある情報があった。
【勇者、赤の塔を攻略!】と、大きく新聞に見出しが書いてあった。俺は飲んでいた水を、吹き出しそうになった。
「……レミさん。情報が早くないですか?」
小さい声でレミさんに話しかけた。誰か見ていたのか? と、いうくらい情報が早い。
「ああ……。ここだけの話ですが、こういう情報はあえて早く載せるのですよ。明るい話題は、希望になりますから」
レミさんも小さな声で俺に教えてくれた。希望……か。何か引っかかるけど。
「俺達も勇者みたいな活躍がしたくて、近くの場所で魔物を倒そうとやってきたんだ」
リーダーの男はまた俺に話しかけてきた。子供だから大人がわりと話しかけてくれたりする。色々な情報を聞けて助かっている。
「この辺の魔物は強いですか?」
子供の姿だから気軽に話しかけるとリーダーの男は笑った。
「ああ! 強いぞ――! まだお前には早いかもな? ハハハハハ!」
パーティーのみんなで笑っていた。……まあ、お酒が入っていたし子供だからしかたがない。
「まったく。レン様の強さがわからないなんて、残念ですわ」
レミさんが俺をなぐさめてくれた。隣の冒険者のパーティーはお酒を飲んでいて、騒がしいくらい盛り上がっていた。
「では。明日は次の塔へ向かっていきましょう」
「わかりました」
夕食を食べ終わって、まだ隣の席のパーティーが騒いでいたので部屋に戻って休むことにした。俺達は別々の部屋へ戻った。
「あ、ルビーはまだ眠っている……。このまま朝まで眠っているかな?」
俺は明日の支度をして、そっとベッドの布団へ入った。
「おやすみ……」
静かにルビーにお休み、と言った。
疲れていたのか俺は、すぐに眠ったようだ。
夢を見ていたのか宿屋の薄い布団ではなく、ふわふわの布団に包まれている夢を見た。
「あたたかい……。むにゃ、むにゃ……」
次に布団が小さくなって、スベスベのものが俺に絡みついてきた。それが何なのか寝ていたので確かめられず、そのスベスベのものを触っていた。
ぷにぷにと柔らかく、温かかった。




