11 アッシュの正体
「やっと着いた――!」
俺たちは途中、何回か魔物に襲われて戦ってなんとか町まで着いた。ボロボロになったけれど。
『ようこそ! ツギノ町へ!』
人の良さそうなおじいさんが、町の入り口で俺達に挨拶をしてくれた。NPCだな。
「こんにちは」
「こんにちは!」
俺は子供らしく元気よく挨拶をした。
『この町の周辺の魔物は、強いから気をつけるんじゃよ』
おじいさんはそれだけ言うと、どこかへ行ってしまった。
「じゃあ、ギルドへ行って登録しようか?」
おじいさんの背中を見ながらアッシュは、俺に言った。
「そうだね」
また【クエスト】があるのかな? カバンのクエストは、急に始まったから驚いた。今度は驚かないぞ。
『いらっしゃいませ! ここはツギノ町、ギルド出張所です!』
わあ……。美人なお姉さんだ。二つの町を歩いてみて気が付いたけれど、この世界の人の風貌は外国の人みたいに、目鼻立ちがハッキリしている。髪色も色々。がっちりとした体形の人が多い感じだ。
アッシュはまだ十代だと思うけど、細くてスラっとしている。
「冒険者の登録に来ました」
アッシュがお姉さんに話しかけてくれた。俺の背中を軽く押してカウンター前へ進めてくれた。
「まあ! 新人さんは大歓迎よ! 手続きしましようね」
お姉さんは俺がまだ装備や年齢から初心者だと判断すると、喜んで登録の手続きを始めた。……そういえば俺は、この世界の住民票みたいのをもってない。どうするのだろう?
『ここに名前を書いてください!』
あ、これに名前を書くんだ。転移前の世界にあったビニールテープみたいな素材でできた帯状のものに、『レン』と名前を書いた。
「あっ!?」
書き終わったとたん、手首に巻き付いた。不思議な素材の肌触りだった。
『はい! 登録は終わりです!』
「これで終わり?」
名前を書いただけ、だけど?
『その手首にある【冒険者の証】はその人しか使えません。それでギルドにお金を預けたり引き出したりと、鍵になります』
ぴったりと手首に張り付いた【冒険者の証】を触ったり爪で引っかいたりしたけど、傷の一つもつかなかった。なんの素材で、できているのだろう。着けている違和感が全くない。
『魔法でできていて、水に丈夫で汗も通して、通気性も抜群です!』
何か品物の宣伝みたいだった。そうか魔法でできているのか。……魔法でできていたら何でもアリだな。
『ギルド依頼の達成記録なども、これ一つで完結します! 冒険者ライフを楽しんでくださいね!』
便利なものだと理解した。ぴったりと手首についていて、失くさないと思う。
お姉さんは説明が終わったのか、ギルド受付書の椅子に座った。
もっと水晶玉に手をかざすとか、血を垂らして契約するとかだと思っていたけど簡単で良かった!
「ギルドで依頼を受けたりするんだよ。依頼を達成したらここに戻ってきて、その手首にある【冒険者の証】をカウンターにある記録玉へ触れると記録してくれる。忘れないように」
アッシュが補足してくれた。なるほど。
『お姉さん、ありがとう!』
またテンプレセリフが出た! なんでこんな所で?
「あ――! 可愛い――! 頑張ってね!」
美人なお姉さんに、抱きしめられたをされた。ラッキー!
そうか……。俺は今、子供だからこうやってお姉さんに抱きしめてもらえているんだ。子供も悪くないかも。
「レン、行くよ」
「え?」
アッシュは俺の手を引っ張って、ギルドから出た。
『またね~!』
手を振られたので、俺もお姉さんに手を振り返した。ううふ……と笑ってくれた。
それから俺達は今日泊まる【宿屋】を決めて、さっそくツギノ町の近くでレベル上げ&薬草採取のため、魔物を倒しに出かけた。
「うわ――!」
犬くらいの巨大ネズミや、大きな芋虫に似た魔物が立て続けに襲って来た! アッシュが前に出て魔物と戦い、俺が後方で弓矢を魔物に射って倒した。
集団で襲ってきたので、俺は木の上に登って弓矢で敵を倒したらうまくいった。
「接近戦も慣れないといけないな……」
木を降りると倒した魔物は、赤黒い石を残して消えた。
「レン! さっきの戦い方、良かった!」
アッシュが赤黒い石を拾いながら話しかけてきた。俺を褒めてくれた。
「そうかな? へへっ……」
あまり褒められたことがないので、照れる。
アッシュは赤黒い石を俺に渡してくれたけど、俺の方が多かった。言うと「いいから」といって受け取ってくれなかったので、ありがたくもらった。
戦闘の合間に薬草や木の実、などを拾えた。
赤黒い石を【魔道具屋】で売ると、たくさんのお金(G)を手に入れた。
「このツギノ町は、黄金豚の丸焼きが美味しい」
丸ごと焼いてみんなで分け合って食べるらしい。お皿に大盛りのお肉は脂がジューシーで、お肉の下にあるキャベツみたいな細切りの野菜にタレと脂が絡んで、美味しかった!
宿屋に戻って俺は薬草を選別したり、植物図鑑を見て薬を作る練習をしたりしていた。液体の薬【ポーション】も作ってみたいな。
アッシュと俺は別々の部屋だったけれど、俺の部屋にアッシュは遊びに来ていた。
「レン、あのね……」
アッシュが宿屋で話しかけてきた。
「なに?」
言いにくそうだったけれど、アッシュは顔を上げて俺を見て言った。
「レンはしばらくこの町で薬草を採取したり、薬を作ったりしているでしょう?」
「そのつもり……だけど」
今日この町に着いたばかりだから、しばらく薬草を採取して薬を作ったり敵を倒したりして赤黒い石を手に入れたい。そしてお金を貯めて、旅の軍資金にするつもりだ。
「ぼくは次の町に、行かなきゃならなくなった。寂しいけれど、ここでお別れになった」
アッシュが寂しそうに僕に伝えてくれた。
今まで俺はアッシュに頼ってばかりだった。
「そうなの? ……寂しいけれど、今まで本当にありがとう」
何も知らない俺に色々教えてくれた。寂しいけれど、これ以上足を引っ張ってはいけない。笑顔で別れなければ……。
そして次の朝。アッシュは次の町へ旅立つというので、見送りするために町の入り口まで一緒に行った。
「じゃあ、レン! また会おう!」
『気をつけて! 頑張ってください!』
あ、テンプレセリフが出た。なんでこんな時に? 俺はアッシュが手を振って町を出るのを見送った。
「えっ!?」
『気をつけて! 勇者様!』
『この世界を平和にしてください!』 『魔物を倒してください!』
大勢のツギノ町の人が、いつの間にかアッシュを見送りに来ていて手を振っていた。
アッシュって、勇者様だったの――!?
『アッシュは、ツギノ町から旅立った!』
俺がテンプレセリフを言うと、ゲームのオープニングみたいな音楽が流れた!
「ええっ!?」
『町の人々の歓声に応援されながら勇者 アッシュは旅立った!』
オープニングのナレーションのように俺は、テンプレセリフを言っている。もう俺には、とめられない。
『わ――! わ――!』
町の人の歓声は続いている。俺はそれを横で見ていた。
俺はアッシュが勇者様だと知らずに、お世話になっていた。このままではいられない! すぐに薬やポーション作りを覚えて勇者様を追いかけよう!
勇者様の活躍も見たいし、恩返しもしたい!
急いで俺は、勇者様を追いかける準備をした。




