1 寝て起きたらゲームの世界?
「あ――、良く寝た……」
すっきり目覚めて体を起こすと、風景が俺の部屋じゃなかった。
「へ? ここ、どこ?」
キョロキョロと、首を動かして見ても俺の部屋の中じゃない。どう見ても森の中だった。
布団はどこにもなくて、パジャマを着て寝たはずなのにパーカー、ズボンに靴まで履いていた。
「意味がわからない」
立ち上がってみると、近くに水が流れていたのが見えた。
「泉かな?」
俺は泉の側へ近寄った。足元は青々とした雑草が生えていて、靴底から伝わる久しぶりの土の感触に驚いた。膝を地面につけて、きれいな水が湧き出ている泉に手を入れた。水をすくって飲んでみる。……おいしい。
透き通ったきれいな湧き水。顔を洗ってみると、冷たくて気持ちが良かった。
「あれ? 俺……、若くなっている?」
泉に、自分の顔が映った。覚えがある、自分の子供の頃の顔。
「え、俺……。まさか〇んだ?」
まさか、ここは異世界か? 最近突然人が、消える事件が増えている。俺もその一人になったのか?
「嘘だろ……」
立ち膝になったまま、固まっていた。
「あ、でも。大丈夫か」
俺を心配する人なんていなかった。むしろ違う場所へ行きたかった。好都合だ。それに子供の姿になっていて、やり直しができるかも? いいじゃん!
「異世界に転移? 転生……じゃないな。服がパーカー、だもんな」
じゃあ、ゲームや漫画や小説みたいに魔法が使えるとか? 憧れていたから、楽しくなってきた!
「こほん。では……」
俺は泉の前に立って手のひらを前に突き出した。
「ファイアー!」
立ちポーズと決め顔までしたけれど、煙さえ出なかった。
「へ? なんで!? そうだ! 女神様? 神様かわからないけど、会ってないじゃん! どこ!?」
異世界へ来たならば、美人な女神様や神様からスキルや何か特典をもらえるよね!?
「女神様! 神様! 俺は、ここですよ――!」
聞こえるように顔を上にあげて叫んでみた。この大声なら、女神様や神様に聞こえるだろう! 俺は緊張しながら待った。
「……?」
おかしいな? ……何も聞こえない。
「女神様――!」
森に響く、俺の声。鳥の声や草木の揺れた音は、聞こえた。――あれ? 女神様、来ない?
「どうしよう……」
夢ならば覚めてくれ。異世界転移が現実なら、どうにかするしかない。俺は森の中を出ることにした。
「お? 良さげな、木の枝だな。拾っておこう」
俺はちょうどいい感じの木の枝を拾った。手に持って歩いて行くことにした。途中で、持ちやすい大きさの石も拾った。
森の中はそんなに歩きにくいほどではなく、人の歩いた道があった。その道を歩いて行った。
森を抜けて歩いて行くと、町が見えてきた。入口に、アーチ形の看板が架かっていた。
「えっと……。『ようこそ ハジメノ町へ』か」
ハジメノ町……? あれ? 俺、日本語でもない、英語でもない見たことのない看板の字が読めている!
「なんでだろう?」
首をかしげたが、読めるのは良かった。
町の中へ入っていくと、帽子を被った男性が俺に気が付いた。
『ようこそ、ハジメノ町へ!』
「へ?」
なんだかテンプレみたいな会話だな……? 俺が返事をしないでいると、帽子を被った男性が再び声をかけてきた。
『ようこそ、ハジメノ町へ!』
これは! もしかしてこの人はゲームでいう、NPCではないか? 同じセリフを繰り返し言っている。初期のRPGゲームぽいけれど。
「こんにちは」
俺は挨拶してみた。
『こんにちは! 今日はいい天気ですね!』
帽子を被った男性は、俺が返事をすると役割を果たし終えたのか、どこかへ行ってしまった。
「もしかして、ここは……」
俺は町の中を歩いて調べた。もしここがゲームの世界だとしたら、俺は何のためにここへ来たのだろう? 女神様や神様に呼ばれたり、お城へ勇者として召喚されたりしたわけじゃない。
町は入り口から真っ直ぐな大きな道が続いていて、左右に白い壁で青い屋根の建物が並んでいた。所々花が飾られていて平和そうだ。
店先に雨よけのテントがあって、異国情緒満載だった。
『一つ、買っていかないかい?』
またテンプレのようなセリフが聞こえた。バナナのような黄色い果物だった。
「いくらですか?」
俺はためしに日本語で話しかけてみた。
『一本、100Gだよ!』
日本語が通じた! いや、どうやら同時通訳機能が俺に備わっているみたいだ。
『一つ、買っていかないかい?』
「いや、いらない」
俺が断ると、お店のおじさんは残念そうに言った。
『それは残念だ』
バナナみたいな果物一本が100G。三本で300Gとすると……。100Gは大雑把に日本円で言うと、100円くらいかな? まだ正確ではない。
物を買うにはお金がいる。帰れるか、どうかわからない。どちらにしてもお金を稼がなければならない。俺の持ち物で、なにか売れればいいけれど。ゲームの世界なら、道具屋とかないかな?
店先にある看板の字を読んでいく。
「お肉屋、八百屋……。花屋さんに……。あ、あった!」
店先に並んだものを見れば何屋さんかわかるけども、勉強のため看板の字を読んだ。
「【道具屋】」
俺は道具屋の扉を開けた。