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6.あたしの考えた最強の


 有那の話を聞きながら、渋い顔でユンカースが手帳に鉛筆を走らせていく。さらさらと字を書きつける意外に男らしい手を眺めながら、有那は髪をかき上げた。


「ユンユン、制服脱がないの? ずっと着てて疲れない?」


「部屋に戻ったら脱ぎますよ。ずっと着ていますから、疲れはしませんが」


 ユンカースは仕事着である制服のままだ。青を基調とした丈の長いそれはスタイルの良さを強調し、上着のスリットから組み替えた脚がのぞくと有那はその長さに感嘆した。


「そろそろ本題に入ります。仕事のことですが……何か、あてはあるんですか? どうにもならなければしばらくは国で世話することもできると、城からは通達がありましたが」


「あー。それなー」


 ふいに真面目な顔に戻ったユンカースに、有那もまた向き直ると彼の顔を見つめた。


「今日一日、仕事を探しがてら外を歩いてみたんだけどさー。あたし、やっぱり配達の仕事やりたいと思って」


「配達?」


 怪訝にユンカースが目を見開く。有那はうなずくと身振りを交えながら元の仕事内容を今一度説明する。


「今までは個人宛の荷物の配達やってたけど、さすがにそれいきなりはムズいじゃん? 荷馬車ってゆーの? あれ運転するのはコツいるだろうし、『恵みの者』だっけ? 一応そんな肩書きの、国から補助も受けてるヤツが事故とかマジ笑えないし」


「……はあ」


「だからまずは身一つで運べるリヤカーとか、ワンチャンお馬さんで何か配達できればって思うんだけどー……」


「わんちゃん……とは」


 ユンカースが難しい顔をしながら有那の言葉を書きつけていく。有那はわずかに喧騒の聞こえる厨房の方に視線を向けると、ゆっくりと目を見開いた。


「ご飯……馬……。そうだ――」


「……?」


 有那は立ち上がると厨房に駆け込んだ。ちょうど一服していたミネルヴァを見つけると勢い込んで問いかける。


「ミネルヴァさん! この辺でランチ出す店ある!?」


「らんち? アタシに分かる言葉でお言いよ」


「あーごめん。えーと、昼食! できればお弁当!」


「だからベントーって何さ」


「それも通じないの!? なんだ、持ち運びできるご飯っていうかー、携行食? 仕出し?」


 通じる言葉とそうでないものの区別がつかない。有那が身振りを交えて説明するとミネルヴァはグラスを置いて立ち上がる。


「仕出しね。それならあるよ。ウチも頼まれたらたまに作る」


「そっか。それって配達する?」


「そんな人手がどこにあるのさ。客に取りに来てもらうんだよ。どこの店だってそうさ」


「なるほどー。分かった、ありがと! カイトごめん、も少し待ってて!」


「うん」


 厨房の隅で皿を拭いていた海渡にひと声かけて有那はユンカースのもとへと戻る。困惑するユンカースに有那はピッと人差し指を立てた。


「決まった! ウーマーイーツ!」


「……は?」


「あ、これはね。馬と美味いを掛けてるんだけど――」


「いやそこはどうでもいいです。うーまーいーつ、とは……」


 訳が分からないという顔のユンカースに有那は弁当デリバリーについて説明した。ユンカースが慌ただしく脳内で翻訳しながらメモを取る。

 有那は「あたしの考えた最強のウーマーイーツ(仮)」について熱く語った。


「ミネルヴァさんのご飯めっちゃ美味しいじゃん? 他にも近くで仕出しやってるとこあるっていうし。それをさ、お客さんが取りに来るんじゃなくてこっちが配達に行くの」


「それは……助かりますけど、個人相手にやるんですか? 届け先もバラバラの?」


「うん、さすがにそれは初っ端からムズいから、人が集まってるとことか……。ユンユンはお城でお昼どうしてるん?」


「食堂があります」


「そうだった大企業…つかお役所だから社食あるんか……。そういう食堂を持ってない小さめの職場とか、しばらく決まったとこにいる建築現場とかに届けるのが一番現実的かなー。リピも望めるし」


 有那の話を紙に書き留め、ユンカースが眉を寄せる。現実と照らし合わせているのだろう。有那は指を折りながらカウントする。


「生活費があと3か月分、厳しめに見積もったら2か月分でしょ? そしたらそれまでに協力してくれるお店探して、馬の手配して、張り紙とかで広告してー」


「ちょ、ちょっと待ってください。本気でやるつもりなんですか? ここで誰もやったことのない仕事を?」


 具体的な構想を練り始めた有那にユンカースが慌てて待ったをかける。心配する彼に有那はドンと胸を叩いた。


「この国ではなくても、あたしの世界にはあったしやり方もだいたい分かる。大丈夫、あると絶対便利だから!」


「楽観的すぎますよ……。どこからその自信が来るんですか」


 ユンカースが呆れながら有那を見下ろす。有那が果実水を飲み干すと彼は探るように問いかけた。


「……あの。念のため聞きますが……あなたまさか、馬には乗れるんですよね?」


 その質問に有那は手を振ると、朗らかな笑顔で答えた。


「まっさかー。乗れるワケないよ! てーわけで、ユンユン。馬の乗り方教えてくれるところ知らない?」


「は……?」


「馬の教習所! 最初は徒歩でもいいけど、できれば早く乗り方マスターしないとね!」




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