表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/3

裏切りの音が、耳を撫でて

 皆様こんにちはこんばんは、遊月奈喩多と申すものでございます!

 さぁさぁ、ハロウィン短編も3話目でございます!


 え、ハロウィンは終わった?

 何を仰いますか、レニーにおやすみというまでハロウィンは終わらないんですよ(ジャポネスク'24を聴くことにしております)


 ということで、本編スタートです!!

「へぇ~、浩平(こうへい)いま付き合ってる子いるんだ! どうなの、ちゃんといい子なの? 仲良くやれてる?」

「あ、うん……まぁ、ね」


 5年ぶりに会った母は、なんだか俺の記憶と少し違っていた。両親と俺と未来(みく)の4人で暮らしていた頃は、常に家のなかを動き回って家事をしているような人で、こんな風にテーブルで向かい合って座ることなんてなかったように思う。


 母の声が、居間と兼用になっている台所に明るく響く。だから、気付くつもりなんてなくても気付いてしまう。


「ねぇ母さん、父さんは?」

 未来(みく)を閉め出すような行動もじゅうぶん不自然だったが、父の姿がまったく見えないのもおかしかった。父は数年前に身体を壊してからずっと在宅の仕事をしていて、少なくともこれくらいの時間にはほぼ必ず4人揃うのが当たり前になっていた。

 だから、その『当たり前』が崩れたこの家は、どうにも不自然で。

 口にしてしまったら、不安が喉からせり上がって止まらなくなっていた。


「なんか変だよ、さっきも未来(みく)のこと閉め出してたし、父さんもずっとこの部屋来ないし。なんかここ、俺が知ってる家じゃないみたい──」

「最初に出てった浩平が言うことじゃないよ」

「…………!」


 間髪入れずに返ってきた言葉に、頬が熱くなるような苛立ちが芽生える。

 もちろん、未来(みく)とのことを母に言おうとは思わない──覚悟を決めてはいたが、それは未来(みく)本人と話を付ける覚悟だ。まさか親に打ち明けようなんて思ってもいなかった。


 だから一瞬だけ脳を焼いた苛立ちは、その場で噛み潰す。そうでなければ、俺や未来(みく)はこの家に居場所をなくしてしまうかも知れない。いくら両親が俺たちを大事にしてくれているとはいえ、俺たちが兄妹同士で危うく一歩を踏み間違えるところだったなんて……言えるわけがなかった。

 だから、黙るしかなかった。そしてそんな俺を見て、母もばつの悪そうな顔で視線を泳がせた後。


「いろんなことがあったんだよ、うちも。浩平が大学でお勉強してた間に、未来(みく)もお父さんも……ひょっとしたらお母さんもね……おかしくなっちゃった」

 暗い声音で自嘲気味に、そして若干の棘を込めて呟く母の姿を見ているのは胸が痛くて、しかし何があったのかを訊くのはどうしても(はばか)られて。

 結局俺は、目的をまるで果たすことなく家を出ることになった。


「それじゃ。そろそろ帰るよ」

「もう行くの?」

 名残惜しそうに母は言う。独り暮らしだと聞いたからだろうか、その顔はたった5年前よりもずいぶん弱々しく、寂しそうに見えてならなかった。どうにか頷くと、普段食べるようなものではなさそうな菓子をいくつか袋に入れて「萌恵(もえ)ちゃんにね」と手渡してくれた。

 そんな母に何度も話しかけられながら別れを告げて、目的を果たせなくて落胆する気持ちと、それでもほんの少しの安堵とが混ざった気持ちのまま玄関ドアの取っ手に手を掛けると。


未来(みく)に会わないようにね。あの子、もうおかしいから」

「え、」

 俺の返事も待たずに母はさっさとガラス戸を占めて、床に擦るような足音とともに去っていく。未来(みく)はもうおかしいから会わない方がいいって何だよ……?

 さっき見かけた、ただの露出と思われても不思議ではない「コスプレ」姿が脳裏に浮かぶ。前はあんな格好をするイメージなんてなかったし、むしろテレビでそういう人たちを見ただけで顔を赤くしてチャンネルを変えたりするくらいだったってのに。


「5年経つんだもんな」

「そうだよ、お兄ちゃん」

「────!?」

 また、耳元で囁かれる。

 ギョッとして振り向いた先には、いつの間にかコートを着た未来(みく)が立っていた。やはり、目の前にいるのは間違いなく未来(みく)だ。少し大人っぽくなっているが、面影がそこかしこに残っている。


 だが、その笑顔には5年という歳月だけでは説明しきれそうにない影がへばりついていて、その影がそこはかとない艶っぽさを(かも)していた。

 その艶から目を逸らすように足下を見ると、え……コートの(すそ)からずっと素足が伸びている。さっきの格好に、そのまま着てるのか?

 どことなく卑猥な想像をしてしまい、思わず喉が鳴る。


 そんな俺を見て、未来(みく)が小さく笑った。

「お兄ちゃんも、こういうの好きなんだぁ♡」

 笑いながら未来(みく)がチラリと広げて見せたコートの内側には、どういう用途で着るのかわからなくなるような際どい露出度の衣装が見えた。更に、下腹部辺りに彫り込まれたらしいタトゥーらしきもの。


 なんだ……、いったい何が……。

「気になる? わたしのこと、気になる?」

「え、えっと……」

「いいよ、教えてあげる♪」


 もう日も落ちて肌寒いはずなのに、全身をじっとりとした汗が覆っていくのを感じる。心臓が喚き、血の流れさえも不規則に騒ぎ始める。

 先程投げ掛けられた母の言葉が脳裏を掠める。


 もうおかしい……って何だよ?

 確かにおかしいさ、この短い時間だけでも、未来(みく)の何かがおかしいことは既に窺えている。それでも……それでも、俺は。

「……あぁ」

 そもそも俺は、未来(みく)との間にあった事に決着をつけるために帰ってきたんだ。だったら、ここで逃げる(ヽヽヽ)ことはできない。だから、頷くしかできなかった。

「じゃあさ、場所変えよ?」

 誘う声が耳を撫でる。

 くすぐるような声音に、俺は頷くことしかできなかった。


  * * * * * * *


 駅から程近いマンションの一室から出てきたのは、赤黒く日焼けした肌をした大柄な男だった。照明を受けて輝くスキンヘッドに、はち切れんばかりの筋肉、もはや付いてない場所を探すのが難しいくらい全身のあちこちについたピアス……そのどれをとっても俺の身近にはいないタイプで、見た瞬間に緊張と警戒で身体が強張ってしまうような男。


「よぉ~、未来(みく)ちゃんじゃないの! なに、さっきの分もう切れちゃった?」

「違うよぉー、さすがにまだそんな耐性できてないもん! ほら、前に話してた……」


 未来(みく)はそんな大男相手に気安く……そして先程俺にも垣間見せた媚態を見せつけるような仕草と共に、何事かを囁いている。そのときの未来(みく)が見せた何とも形容しがたい艶は、明らかにふたりがただならぬ関係であることを示しているように見えて。

 そんな筋合いなんてないはずなのに、心臓に熱した鉄でも流し込まれたような重い痛みが走った。


「あ、そう~! よかったじゃん、じゃあ俺はお役御免?」

「んなわけないじゃんw いや、あー……じゃあ今日だけ? 今日はお兄ちゃんと過ごすから♪」

「うわー尻軽~」


 頭に血が昇りそうだったが、俺にはそんな資格がないという自覚がどうにか怒りを押し留めていた。たとえ、まるで無意識だという風に、ふたりの指が互いに絡み付くのを目の当たりにしようとも。いかにも親密であると言いたげな手付きが、ふたりの日常であることを見せられても。

 奥歯が軋むような、ずれるような、気分の悪い音を立てても。どうにか堪えきれた。


 やがて男が出ていって。

 ただ混乱して見ているしかできなかった俺が、口を開こうとしたタイミングで。


「どうだった、お兄ちゃん? 昔泣きながら自分を好きだって告白してきた女が、他の男と明らかに何かある(ヽヽヽヽ)雰囲気でお喋りしてるの。……あはは、すごい顔。たぶんお兄ちゃんが想像してるようなことは大体してるよ? さっきもここ来てるし」

 頭がふらつくほどに甘ったるい香水の匂いを、俺に擦り付けるように身体をつけて。

 上目遣いで俺を見つめる未来(みく)の目に、影や艶が濃くなっていく。霧のように立ち込めるそれらが、呼吸と共に俺の肺を埋め尽くしていくようで。


「あの日──お兄ちゃんに告白した日、全部見せたつもりだった。何もかも、全部あげるつもりで」

 小さく、未来(みく)が呟く。

 暗い洞穴から響くような声は、聞いているだけで不安に駆られる。そんな声で、未来(みく)は「そこ座って」と不潔そうなベッドを指差した。俺の躊躇を察したのか「シーツならさっき替えたから大丈夫だよ。びゃなきゃ人座らせたりとかできない感じだったし」と笑う未来(みく)。その言葉が意味するところなんて、考えたくもなかった。

 だから、嫌な予感はありながらも俺は言われるがままベッドに座った。持ち主だろう男の姿さえ思い浮かべなければ、座り心地もいいし、寝心地もよさそうなベッドだ──そんなことをぼんやりと思っていると、突然部屋の中が真っ暗になった。


「お、おい、未来(みく)!? 暗いぞ、なんで電気消して……!」

「その方が、楽しいかなって」

「はぁ!?」

「いいから。静かにしてて」


 どこか冷たさを感じさせる声に怯んでいると、「じゃあ、話すね?」と妙に甘ったるい声が耳元で囁きかけてきた。

「お兄ちゃんがここを離れてから、わたしいろんなことが曖昧でね? もう生きてる意味もわかんないくらいだった。わたしがここにいたら、あのときのお兄ちゃんみたく誰かの迷惑になっちゃうのかな……って。もういっそ消えた方がいいかな、って。そんなときにヤスくん……さっきの人と知り合ったの」


 それから未来(みく)は、男──『ヤスくん』との間に起きた出来事を話し始めた。どうやらあいつは、とてもそうは見えなかったが未来(みく)の同級生だったらしい。タチの悪いやつで、評判も最悪だったというやつは、誰とも関わろうとせずに過ごしていた未来(みく)に目を付けたらしいのだ。


「最初はね、もちろん嫌だって言ったよ。だってヤスくん怖いし、あの頃から変な噂ばっかりだったし。でもね、いつだったかな……お兄ちゃんの誕生日に、もうお祝いもできないんだなって思って、寂しくなっちゃって。そんなときにね、ヤスくん慰めてくれたんだよ。ヤスくんにも好きな人がいたけど遠くに行っちゃって、その寂しいのを紛らわすためにいろいろやっちゃってるんだって。

 そんなこと聞いちゃったらさ、もうほっとけなくてさ……。だって、同じだもん、わたしと。後から考えたらほんとか嘘かわからない感じだったけど、それでも、その日その瞬間わたしと同じ人がいてくれるんだって、そう思ったら振りほどけなかった。それからヤスくんおすすめの場所で星を見たり、デートっぽいことして、それからヤスくんの家行ってさ。その日のうちだったな……全部、あっという間だった」


 そこから未来(みく)は、わざと溜めるように言葉を切った。俺の反応を楽しむように吐息を漏らしながら。

 そして、俺の頭が嫌な想像でいっぱいになったのを見計らったように、未来(みく)は「初めてシたの、お兄ちゃんの誕生日だったんだ」と囁いた。


「すっごく怖くてね、痛くてね、何回もお兄ちゃんのこと呼んじゃった。でも、そんなのいないって、ここには俺しかいないんだって、何回も何回も叫ばれてさ。逃げ出そうとしてもガッシリ押さえつけられて逃げられないの、そのまま何回も何回も、あの場所にはわたしとヤスくんしかいないってたっぷり教えられてさ」

「やめてくれ……」

「それで逃げる気力もないくらいにされたら、今度は変な薬を渡されたの。痛くなくなるから、嫌なこと忘れられるからって言ってね? でも躊躇ってたら無理矢理口移しとかされてさ……もう怖かったし、ああいうのって1回使ったら戻れないって何回も聞いてたから、もういいやって何かが崩れちゃって。それからは、もうヤスくんに言われる通りのことしてたよ。このアパートの人とはみんな『知り合い』になったし、学校の先生もお金たっぷりくれたし」

「もういいよ未来(みく)、俺が悪かったから、もう、」

「公園でね、まだそういうこと全然知らないような男の子たち相手にしろ……なんて言われたこともあったんだよ? まだたまに連絡来るんだ、塾もサボっちゃってるみたいだから、それはダメだよって言っても聞いてくれなくて。前友達連れてきたこともあってさ、そういうの慣れてなかったんだけどね……」

「頼む、もう……」

「お父さんもね、そんな風に泣きながらわたしの話聞いてたよ。泣いてたけどね、すっごい興奮してた。そのくせにね、終わるまでずっとごめんごめんって言ってたの。すっごい本気っぽいのに、必死に自分は父親で、倫理観もまともなんだって言い訳してるみたいに謝るんだよ? 可愛かったな、お父さん♪」

「……は、」


 いま、なんて言った?

 思いがけず登場した父の名前に、息が止まる。

 まさか、今の話を聞かせたのか? しかも、それって……嘘だろ。

 記憶の中にある、厳格ではあったけど優しい父の顔が黒ずんでいく。さっきの『ヤスくん』の影が重なっていく。

 なんでだよ、なんで父さんまで……。


「ねぇ、お兄ちゃん?」

「…………」

「やっぱり、お兄ちゃんもスゴいね? いいんだよ、わたしなら何しても。それに、お兄ちゃんにならっていつも思ってたもん。だって、本当に大好きな人だったんだから」

 未来(みく)が、座ったまま動けない俺の太腿に跨がるように座ったのがわかった。


 耳たぶにキスをされて、息が漏れて鳥肌が立つ。

 面白がるような艶っぽい笑い声の後に、「いいよ?」と短い囁き。


 ………………。

 未来(みく)との過去を清算したいと打ち明けて、少しだけ不安そうな顔をしながらも『わかった。帰ってきてね』と見送ってくれた萌恵の顔が脳裏に(よぎ)る。


「ごめん」

 未来(みく)に向けたものか、萌恵に向けたものか。

 もう自分でもわからなかった。


 ハロウィンは、亡霊たちが彷徨う夜だという。

 なら、もう俺のことなんてどこかへ連れ去ってくれないか──そう願わずにいられなかった。


 夜はまだ、終わらない。

 前書きに引き続き、遊月です。いやぁ、終わらないハロウィン、終わりましたね!!(終わらなかったのは作者の遅筆のせいだろうという笑) 大切なのは書き上げる経験だとはよく言いますが、そうですね……書き上げたときの、『よし、書き上げたぞ!』という感覚を知っているかどうかは大切かも知れません。


 ということで、そんなごく稀に的を射た創作論?を見かけることもあるWeb字書き界隈に身を置いている作者ですが、界隈といえば、少し前に匿名企画を権威付けに使おうとした不届きものがいたそうです。まぁ、その方には私も直接「TPOを弁えて創作せよ」だの「感想は自分の気に入るものを書け」だのと言われたものでしたが、恐らくその方にそういう風に釘を刺すように進言した誰かがいたのかな……などと邪推したりしてしまいましたね……創作は(公開先のサイトのレーティング以外)何物にも囚われず、自由であってほしいなぁと思っていたものでしたが。世知辛いものですね。


 閑話休題。

 未来(みく)ちゃん……いったいどうしちゃったんだよ!?という部分を明かすパートを書きたいがために始めたお話でしたが、異様な熱が入りましたね。エピソード分けたらよかったかしら?

 いやね、もう少しボリューム少なめだと思っていたんですよね、文字数もお話もね。今年の夏ごろに「Webなんだからもっと性癖込めなよ」というアドバイスを頂戴したものでしたが、集大成になりそうな気がします。


 と、気付いたらもう12月になってしまいました。さすがにレニーもそろそろ休んでいてほしい時期ですし、もう時代はハロウィンと夜ではなくハロウィンと朝です。何のことかわかってしまった貴方、仲間ですね。

 もうあのグループ?も20周年か……そんなタイミングで他所への提供楽曲に「未来を目指すよ 共に往こう!」なんて言われたら、もうねぇ……付いていきたくなりますよね。


 ということで、また次のお話でお会いしましょう!

 ではではっ!!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ