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メイド・ルーシェの新帝国勃興記 ~Neu Reich erheben aufzeichnen~  作者: 熊吉(モノカキグマ)
第六章:「アイゼンブルグの戦い」

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・6-9 第94話:「防戦:1」

・6-9 第94話:「防戦:1」


 エドゥアルドたちは一日に三十キロメートル以上も進む強行軍を実施し、戦略的な奇襲を果たす条件を作り出した。

 その、はずであった。

 帝国軍が予想もしていない速度で出現したことは、共和国軍にとっては間違いなく想定外で、彼らは難しい対応を迫られている。

 だが、アイゼンブルグの戦いの主導権を握ったのは、奇襲されたはずの側だった。

 敵は帝国軍が展開を完了させる前に攻撃を開始し、エドゥアルドたちはそれに対し、次々と手を打たなければならなかったからだ。

 相手の動きに合わせて、こちらが動く。

 受け身な戦い方であり、どうにかして攻勢に転じようと試みようとしても、相手の方がさらに新たな行動を起こすために機先を制され、思ったようにならない。


「陛下。今は、耐える他はございません」


 後手に回っている状況にいら立ち、焦燥感を隠せないでいる代皇帝の様子に気づいたのか、ブレーンのヴィルヘルム・プロフェートが進言した。


「兵力は、我が方が四万。敵は五万。

 しかしながら、ヴェルナー殿下の下には、痛撃を被ったとはいえ未だに兵力が残っており、我が軍にも、落伍していた将兵が後から急行してきているはずでございます。

 全体的な形勢で見れば、挟撃する態勢なのです。

 敵もそのことをよく理解しているから、勝負を急いでいるのでしょう。

 陛下の軍とヴェストヘルゼン公国軍が協調できれば、共和国軍は窮地きゅうちに陥ります。ですからそうなる前に勝敗を決めようとしているのです。

 まずは、しっかりと防備を固め、敵の攻撃を撃退することです。

 そうすれば必ず、戦況は我が方の有利となりましょう」


 それから彼は、声を潜めて、エドゥアルドにだけ聞こえる声でひっそりと耳打ちをした。


「最悪、一時的に後退しても良いのです」

「後退? 貴殿は、本気でそう思っているのか? 」

「はい。

 ただ、それには我が方が総崩れなどを起こさず、軍としての体裁ていさいを保っている必要がございます。もし我が軍が本格的に敗北したと分かれば、アイゼンブルグは希望を失い、ヴェルナー殿下は望もうと望むまいと関わりなしに、降伏せざるを得なくなります。

 しかしながら、我が方が軍としての形を維持したまま、アイゼンブルグから離れ過ぎず決して見捨てないと示せる位置に踏みとどまれば、きっと、抵抗を続けてくれましょう。

 アイゼンブルグは要害です。

 時代は変わりましたが、あの天険の地形の効果は健在です。

 きっと、共和国軍は攻めあぐねるでしょう。

 そうして時間が経てば、彼らは補給不足に陥り、自然に瓦解するのです。

 この戦争は、我々にとっては防衛戦争。

 敵に占領されていようとも、その土地、そこに暮らす人々は、こちらに心を寄せているのです。

 彼らを失望させる大敗さえしなければ、立て直すことは必ずできます」

「……貴殿の考えは、よくわかった。

 もしもの時は、言われた通りにしよう」


 理屈としては、よく理解できる。

 共和国軍は敵地に侵略してきており、土地勘がないだけでなく、そこに暮らしている者たちから親しみを持たれてはいない。

 文化も、言語さえも違うし、なにより平穏な日常をかき乱しているのは攻め込んで来た彼ら、侵略者たち自身なのだ。

 仕方なく協力する者は多いだろうが、積極的に賛同する民衆は少ないだろう。

 タウゼント帝国やヴェストヘルゼン公国が長年悪政を敷いていて民から嫌われている、というのなら話は別だが、そういう気配はない。

 共和国軍は、烈火のごとく燃え盛る炎だ。

 ズィルバーン山脈を越え、勝利を重ねて、その火勢は絶頂に達している。

 だが、炎が燃え続けるためには燃料が必要だ。

 それは追加の兵力であり、食料を始めとする物資だ。

 それらが無ければ、炎自身がどれほど激しく燃えようと願っても、火は消えてしまう。

 本国からの補給線は細く、不十分。エドゥアルドたちの軍が健在である限り戦争の先行きに絶望したりしない民衆からは満足のいく現地調達もできないから、時間が経てば経つほど、その力は衰え、やがてはすっかり燃え尽きて灰になる。

 だからこの決戦に勝利せずとも、大負けをせずある程度の力を保って生き延びることができれば、それだけで逆転を狙うことができる。

 ヴィルヘルムの指摘は、まったくその通りであった。

 ———しかし、エドゥアルドはそれを、好ましくは思わない。

 勝ち、負け、にこだわっているわけではない。

 最終的に勝てればいいのだと、統治者としてすでに割り切っている。

 それまでの過程で敗者としての汚名を着せられようとも、名誉を挽回ばんかいできると分かっているのだから、耐えられる。

 ただ、持久戦をすれば、その分民が苦しむ。

 アイゼンブルグに籠城している者たちも、共和国軍の占領下に置かれている者たちも。

 戦争全体として持久戦の方針を取っているエドゥアルドだったが、その心中には常に、そのことがとげとして引っかかっていた。

 元来、素直過ぎるところのある少年なのだ。

 彼は自身が生まれてきた理由は国をより良くして民に幸福な暮らしを遅らせることであると信じていたし、そのために、できるだけ戦争はせず、行ったとしても短い方がいいと考えている。

 やらなければならない、となったら、断固として実行するつもりだ。

 しかし、戦争は民衆にとっては大きな負担に違いなく、それを少なくできるのならばできるだけ減らしたいと、そう心の底から思っている。

 今回の戦争の持久策だって、こちらが敵に対して明らかに劣勢な状況下で勝利を得るために、仕方なく選んでいるという面もあるのだ。


「できれば、勝ちたいものだな……」


 ヴィルヘルムがこういった進言をしてくれたのは、ここで勝てなくても次があるのだと示し、エドゥアルドを落ち着かせるためであったのだろう。

 彼とも、それなりにつき合いが長くなってきた。

 その程度のことは容易に理解できる。

 そしてその論が、相応に理屈が通っている、ということも。

 それでも少年は、この戦いに勝ちたいと望んでいた。


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