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メイド・ルーシェの新帝国勃興記 ~Neu Reich erheben aufzeichnen~  作者: 熊吉(モノカキグマ)
第六章:「アイゼンブルグの戦い」

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・6-8 第93話:「アイゼンブルグの戦い」

・6-8 第93話:「アイゼンブルグの戦い」


 エドゥアルドたち帝国軍の増援の接近を知った共和国軍は、受け身に回るのではなく、積極的に迎撃することを選んだ。

 その理由としてはやはり、これまでの戦況が彼らにとって非常に有利に進んで来た、ということがあるだろう。

 ハイリガー・ユーピタル・パスを踏破し、奇襲的な侵攻を成功させたこと。

 加えて緒戦に勝利してヴェストヘルゼン公国軍に打撃を与え、公国の広範な地域を占領下に置き、首府の城下町に至っては無欠で占領している。

 勝利に次ぐ、勝利。

 ここにきてさらに、帝国軍の増援を撃破することができればどうなるのか。

 籠城しているヴェルナー公爵は継戦の望みを失って降伏を選ぶのに違いなかったし、そうなれば、タウゼント帝国の様々な地域に対して進出する絶好の足掛かりをこの地に得ることができる。

 一千年以上の歴史を誇りヘルデン大陸に長く大国として君臨して来た国家を、ここまで明確に打ち破ることができた勢力は、かつて存在し無い。

 もしそんなものがあれば、今日までこの国は存続することができなかっただろう。

 歴史的な偉業。

 それを成すために得なければならない勝利は、あと、たったのひとつだけだ。

 共和国軍の将兵の戦意は最高潮に達していた。

 そのことは、彼らの動きを見ればわかる。

 足取りは溌溂はつらつとしていてイキが良く、隊列は整然と一切の乱れもなく、誰もがまっすぐ前を向いている。

 一人もうなだれている者はいない。

 加えて、共和国側には決着を早くつけなければならない理由もあった。

 補給線が貧弱であるからだ。

 侵攻を開始してから順調に作戦は推移し、多くの地域を占領して、これまではそこから現地調達をすることで食いつないできた。

 標高二千五百メートルの峠を越えて潤沢に物資を本国から運び込む術はなかったし、そもそも、そうやって自弁することが前提での作戦となっている。

 ここで長くエドゥアルドたちと対峙していては、その前提が崩壊する。

 一か所に数万の人員が長くとどまり続けることができるほどの物資の備蓄などどこにもなかったし、時間が経過すれば、帝国側にさらなる援軍があってもおかしくないと、彼らの立場からはそう見えるからだ。

 勝利すれば、すべてが手に入る。

 歴史に刻まれるようなことを成したという栄光、そしてアイゼンブルグに保管されている潤沢じゅんたくな物資。

 共和国軍にとってはこれほど早くエドゥアルドが援軍にあらわれたことは想定外のことであったかもしれなかったが、関係ない。

 彼らはあとひとつだけ勝てば良く、そして、これまでは勝ち続けてきたからだ。

 二度あることは三度ある、とも言う。

 そんなことわざが意識の中にあるのかどうかは分からなかったが、共和国軍は戦闘態勢を整え、そして、帝国側の展開が完了するのを待つことなく攻撃を開始した。

 建国歴千百三十六年、六月十九日の午前十一時。

 アイゼンブルグの戦いの、最初の銃声がとどろいた。

 発砲は、帝国軍側からであった。

 友軍部隊の展開を支援するために先んじて進出していた、前装式ライフル銃を装備した軽歩兵部隊の散兵線に共和国軍の一軍が接近し、それに対して射撃を浴びせたのだ。

 こういった戦いではまず、大砲による射撃戦が行われる場合が多かった。

 命中精度としては大差がないが、火砲の方が一般的にマスケット銃よりも遥かに有効射程が長かったからだ。

 しかし、今回に限ってはそうではなかった。

 帝国側が持ち込んで来た騎馬砲兵は未だ射撃位置につくべく運搬中であり、共和国側も、過酷な峠越えのために満足のいく数の大砲を持ち込めておらず、保有しているもにもアイゼンブルグの方向に指向されており、エドゥアルドたちをすぐに砲撃できる状態ではなかったからだ。

 だから接近した歩兵同士の射撃戦から戦いが始まった。

 共和国側は鉛玉に射抜かれてもひるむことなく前進を続ける。

 軽歩兵がそこに展開していることは予想済みであり、撃たれることは覚悟の上であったからだ。

 その戦意は旺盛おうせいで、行動は積極的だった。

 散兵線を構築し、茂みに身を隠していた軽歩兵が発砲によってその位置を露見すると、再装填の間に接近戦を挑もうと走って突進してくるほどだ。

 前装式ライフル銃は、マスケット銃よりもさらに装填に時間がかかる。

 ライフリングによる効果を得るためには弾丸が銃身に刻まれた溝にうまくかみ合う必要があったが、そのことは必然的に、銃口の大きさと弾丸の直径が緊密になるということであり、それは、銃口から弾を押し込む際の抵抗となる。

 軽歩兵たちは槊杖さくじょうを使って器用に、力を込めて、鉛の球体をライフリングにかみ合わせながら銃身の奥へと押し込まなければならないのだ。

 そうして再装填に手間取る間に肉薄し、白兵戦に持ち込む。

 それが共和国軍の歩兵部隊の指揮官の狙いであった。

 前装式ライフル銃を装備した軽歩兵たちは、銃剣を通常は装着していない。

 ただでさえ再装填が困難であるのに、銃剣までつけていてはさらに手間がかかってしまうからだ。

 それに対して、マスケット銃を装備した歩兵の戦列は、敵に対して攻撃前進を開始した時点で銃剣を装着していることが多い。

 これは、一回斉射を行った後にすぐ、突撃を敢行する場合があるし、相手が同じことをして来る可能性もあるからだ。

 お互いにすぐに白兵戦に突入できる距離で戦うため、即座に銃剣を使用できるようにしている。

 軽歩兵も白兵戦の訓練は積んでいるが、銃剣を装着していない状態では打撃武器としてしか銃を活用できず、また、兵士たちの距離が開いている散兵線を形成していては、密集横隊の戦列歩兵の突撃に対してはもろいと言わざるを得ない。

 一気に大損害を受ける危険な状態に動いたのは、帝国軍の騎兵部隊であった。

 彼らは共和国側の騎兵がその速度に任せて軽歩兵に突進してくることに備え、共同するために展開していたのだ。

 駆け出した騎乗した兵士たちの一団と、その馬蹄ばていの音に気づいて突撃の足を止め、身構えた共和国軍の戦列歩兵との間でサーベルと銃剣が打ち合わされ、激しい接近戦となる。

 アイゼンブルグの戦いは、その当初から乱戦の様相を見せ始めていた。


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