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メイド・ルーシェの新帝国勃興記 ~Neu Reich erheben aufzeichnen~  作者: 熊吉(モノカキグマ)
第六章:「アイゼンブルグの戦い」

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・6-4 第89話:「緊急出撃:3」

・6-4 第89話:「緊急出撃:3」


「代皇帝陛下。でしたら、わたくしめにお命じ下さい」


 エドゥアルド自身が救援に出撃する。

 少年がその意志を変えないらしい、ということを察して立ち上がったのは、オストヴィーゼ公爵・ユリウスだった。

 彼は帝国の五本指に入る大貴族の一人であるだけではなく、父親であるクラウス・フォン・オストヴィーゼの画策により、代皇帝とは義兄弟ということになっている。

 代理としては、これ以上の人選はないはずであった。


「ユリウス殿、感謝申し上げます。……しかしながら、ここはやはり、自分が行かなければならないと思うのです」


 エドゥアルドは深々と頭を下げ、申し出に謝意を示したが、顔をあげるとそう言ってはっきりと断った。


「そもそも、昨年の帝国内乱の折り、ヴェストヘルゼン公国軍に痛撃を加えたのは誰あろう、このわたくしなのです。故あってのこととはいえ、その点で、わたくしには今回のヴェルナー殿が置かれている窮状きゅうじょうについて、責任があります」


 ユリウスは困ったような顔をしている。

 確かに、少年には責任があるのかもしれない。

 内乱を鎮めるためにベネディクト公爵に率いられたヴェストヘルゼン公国軍を撃破したのは、間違いなく彼であるのだから。

 しかしそのことについては、オストヴィーゼ公爵もまた、深く関与している。

 エドゥアルドの義兄弟として、そしてその理想を支持すると決めたこともあり、彼は強力な支援を提供し、自らが負傷してまでも共に戦った、という経緯を持っている。

 責任、というのならば、ユリウスもまた同様のものを持っているはずであった。


「それに、もし余に何かあれば、その時には誰かに帝国の舵取りを担っていただかなければなりませんから」


 だがその言葉で、それ以上なにかを言える雰囲気ではなくなってしまった。

 少年は「誰か」と言って直接的な言及を避けたが、それは明らかにユリウスのことを指していたからであり、二人の会話の中では「わたくし」という一人称を使っていたのにここではあらためて「余」としているその意図は、代皇帝に何事かがあった場合にはユリウスに立ってもらいたいという意図が含まれていたからだ。

 オストヴィーゼ公爵は若い。

 エドゥアルドよりもほんの数年だけ年上だがまだ二十代に入ったばかりという年齢だ。

 それにも関わらず、公爵としての手腕はすでに高く評価されている。

 父であるクラウスがその治世の最後の仕事として様々な問題を抱えていた隣国、ノルトハーフェン公国と話をつけ、親密な協力関係を構築してくれていた、というのもあるが、ユリウスは国政を改善し、自国を着実に発展させつつある。

 それは決して急激な改革などではなかったが、緩やかな改善は人々から自然な形で受け入れられ、広く支持されてもいる。

 おそらく、皇帝としても十分な器量を持っているだろうと、そういう声も聞こえて来る。

 エドゥアルドが行おうとしているような大規模な改革は、彼の治世ではなされないだろう。

 だが現状ですでに帝国は新しい国家に生まれ変わるその端緒についており、ユリウスの器量ならばその方向に沿って十分にこの国を立て直して行けるのに違いない。

 世間の人々の評判だけではなく、エドゥアルド自身もそんな風に思っている。

 それだけ信頼しているのだ。

 だから、彼には残ってもらう。

 代皇帝が失われた場合に備えての措置だ。


「ですが、ユリウス殿にはぜひ、騎兵部隊をお貸し願いたい。野戦ともなれば、騎兵の打撃力が頼もしく思えるでしょうから」

「承知いたしました」


 しばし正面から視線を交わしていた後、二人は互いにうなずき合っていた。


────────────────────────────────────────


 軍議を切り上げたエドゥアルドは、すぐに出撃の準備を整えさせた。

 物事の判断については、焦らず、しっかりと考えて決めなければならない。

 しかし、こうする、と決めた後は、できる限り迅速に動いた方がいい。

 引き連れていく兵力は、ノルトハーフェン公国軍の第一師団と第二師団(補給部隊を除く)、それと帝国陸軍の騎兵師団、各部隊から引き抜いて臨時編成した騎馬砲兵や歩兵連隊、騎兵集団で、その合計は五万程度となった。

 残る十万程度の帝国軍はプリンツ・ヨッヘムの指揮の下、共和国軍の主力の行動を牽制けんせいし、対峙し続けることとなる。

 なぜ、皇帝の直属たる近衛師団を引き連れて行ってくれないのか。

 このことを恥とした近衛師団長からの抗議などがあって、敵に帝国軍の主力が動いていないとあざむくためには皇帝の旗を動かすわけにはいかない(実際のところはノルトハーフェン公国軍の方が少年にとってより使いやすいから、という理由だったが、口が裂けてもそんなことは言えなかった)、というエドゥアルドの説明を受けて渋々引き下がるというひと悶着があったが、とにかく、ヴェストヘルゼン公国からの救援要請があった六月七日の内には出発することができた。

 できるだけ多くの補給線を確保する、という目的で陣地の南側に架橋しておいた舟橋が、その意図したところとは違う形で大きく役に立った。

 もしこれがなかったら、数日もかけて渡河地点まで迂回しなければならなかったが、事前に架橋が済んでいたために直行することができる。

 準備の整った部隊から順次舟橋を渡り、続々と南へ向かって進んでいく。

 踏破するべき道のりは、およそ二百五十キロメートル。

 一日に二十キロメートルというハイペースで行軍を実施しても、二週間近くもかかってしまう道のりであった。

 だが、———それでは間に合わない可能性がある。

 ヴェストヘルゼン公国の防備は史上かつてなかったほど弱体化しているからだ。

 かの地を失うということは奪還が困難な橋頭保を共和国側に与える、というだけではなく、由緒ある帝国の大貴族のひとつが、それも被選帝侯とされる公爵家が失われる、ということを意味している。

 代皇帝としては、絶対にそんな事態は容認できなかった。

 始まったばかりのエドゥアルドの治世に水が差され人々はその先行きに不安を抱くことになるし、帝国諸侯たちからの信望も傷つくだろう。

 だから少年は、敵将のやり方に習うことにした。

 一日に二十キロメートルではなく、三十キロメートルも軍を進めることとしたのだ。


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