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メイド・ルーシェの新帝国勃興記 ~Neu Reich erheben aufzeichnen~  作者: 熊吉(モノカキグマ)
第五章:「英雄VS代皇帝」

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・5-11 第84話:「帝国元帥の憂鬱:4」

・5-11 第84話:「帝国元帥の憂鬱:4」


 共和国の国内で編成されつつある一軍が、どこに向かうのか。

 その指摘を聞いてもやはり、軍議に参加している人々の反応は鈍かった。


「プリンツ・ヨッヘム。確かに敵は増援を用意していると聞きましたが、それは、南へ、フルゴル王国へ派兵するためであるとも聞いております」


 帝国元帥が抱いている危惧になおも懐疑的な姿勢を崩さないデニスの言葉に、何人もの帝国貴族たちがうなずいている。

 諜報員は、敵が新たに部隊を準備していると報告していった。

 だがその行先は、帝国との戦線ではなく、共和国の実質的な支配下に置かれているフルゴル王国であろう、とも知らされているのだ。

 それは、戦争前に行った外交政策が効果をあらわしつつある成果だと見なされていた。

 共和国が正面、つまり帝国に対してだけ集中することができないようにするために。

 開戦に至る前、少しでも状況を有利にしようと取り組んだ結果、エドゥアルドはフルゴル王国から亡命して来た同国の王族、アルベルト王子と協力の約束を取り付けることに成功した。

 王子は祖国で樹立された共和国の傀儡かいらい政権を打倒し、自らを王として再独立を果たそうと目論んでおり、そのための支援を帝国に求め、代皇帝はムナール将軍の力を削ぐためにと同意し、武器、資金などの援助を行ったのだ。

 アルベルトはそうして密かに王国へと戻り、旧臣や現在の治世に不満を持つ民衆を集め、扇動し、少数規模の部隊によるゲリラ戦を展開している。

 敵の主力軍を正面から打ち破ることは容易なことではなかった。

 訓練を積んだ兵士たちが放つマスケット銃の一斉射撃は強烈であり、それが、騎兵や砲兵によって支援されている。

 にわか作りで民衆を武装させたところで、勝算は薄い。

 だから、———戦わなければいい。

 相手の強力な部隊が展開している場所は避け、守りの薄い脆弱な部分を狙う。

 そうして補給線を寸断し物資の供給を断てば、自然と、強かったはずの敵が衰弱していく。

 今、エドゥアルドたちは共和国軍に対してゲリラ戦を展開しているが、元々その戦法を提唱したのはアルベルト王子であり、彼もすでに行動を開始している。

 共和国で編成されつつある新たな軍は、フルゴル王国で活動する王子とその配下の部隊を制圧するために送られるのだと、そう分析されていた。

 ムナール将軍が後方の連絡線を守るために主力軍から兵力を割いたのと同様に、共和国から王国に駐留している占領軍に至るまでの道を確保する。

 つまりは、こちらの戦線には直接関係がないと思われていたのだ。


「あまり、気にする必要もないのではないでしょうか? 」

「しかしまだ本当にフルゴル王国に差し向けられたわけではございますまい」


 大半の人々はデニスと同意見であるらしかったが、ヨッヘム公はやはり、警戒するべきだという意見を変えなかった。


「プリンツ・ヨッヘム。敵の一軍が帝国との戦争に投入されるとして、どのように使われるとお考えでしょうか」


 そこで、これまでずっと話を聞くだけだったエドゥアルドが口を開く。

 実際のところ、彼も気分としてはこの場の大勢と同じで、深刻な脅威ではないと捉えていた。

 だが、考えてみると、あり得ない話でもない。

 敵が三十万しか投入しないというのはあくまでこちらの見立てであり、それが諜報によって得られた情報を分析し、思案した結果生まれた根拠のあるものなのだとしても、状況は常に変化しているのだから「あり得ない」と断じることはできない。

 言い切ってしまうのは、危険だ。

 直感的にそう理解したから、まずはもっと詳しく話を聞くべきだと考えたのだ。


「左様でございますな……」


 問われた帝国元帥は、三角形に近い鋭い形状の自身のあごを指で揉みながら少し考え込む。


「それがしであれば、主戦線から容易には転進できない距離にある場所に進出させますな。たとえば、そう。バ・メール王国の故地まで進んでから、グロースフルスを渡る」

「なるほど……。しかし、そうなったとしてもまた、ゲリラ戦で進軍を停止させられるのではないでしょうか? 」

「五万人が一塊となって動くのならば可能でしょう。しかしながら、いくつかに分散して別々の方向に進まれた場合には、少々厄介でございます」

「兵力を分散するのですか? 」

「そうです。そうすればより現地での補給を確保しやすくなりますから、ゲリラ戦の影響を受けにくくなります。

 進んで、進んで、たどり着いた土地をひたすら荒らしまわる。

 そういう運用を考えます。

 我が帝国の北西部は平原も多く、軍事行動は容易でもございますからな」


 それを聞いたエドゥアルドは、気難しい顔をして黙り込む。

 ここにいる帝国軍主力のいくらかでも割いて迎撃させれば、分散した敵を虱潰しらみつぶしにすることができるだろう。

 だが、そうすることはできない。

 正面には二十万を切るほどにまで減少し、士気も低下しているとはいえ、共和国軍の主力部隊が睨みを利かせているからだ。

 陣地から出たところを襲われたら乱戦となり、勝率はおそらく、五分と五分、その場の出たところ勝負になってしまう。

 兵力を抽出ちゅうしゅつして差し向けることは難しかった

 かといって、分散して帝国領を荒らしまわる敵を放置するわけにもいかない。

 各地には警備のための部隊が駐留しているがいずれも小規模なものであり、敵が旅団程度の規模で分散して進撃して来たとしても、それを阻止できる能力はない。

 そうして多くの地域が敵による略奪を受ければ、その被害は大きなものとなるし、エドゥアルドに対して人々は幻滅し、代皇帝としての地位が揺らぐことにもつながりかねない。

 虐げられた人々は共和国を恨むだろうが、同時に、エドゥアルドのことも頼りない君主と見なすようになるのだ。

 現に、帝国の北西部、旧バ・メール王国と接する地域に領地を持つ諸侯の顔色は変わっていた。

 ヨッヘム公が指摘した通りのことをされたら対処が難しく、自身の領民が危険にさらされる。

 そのことを考えると、これまでの様には安穏としていられない。

 軍議の席には、段々と切迫した雰囲気が広がりつつある。


「これは、真剣に検討するべき案件だと考える。ぜひ、皆の知恵をお借りしたい」


 その証拠に、エドゥアルドの決定に誰からも異論は出なかった。


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