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メイド・ルーシェの新帝国勃興記 ~Neu Reich erheben aufzeichnen~  作者: 熊吉(モノカキグマ)
第五章:「英雄VS代皇帝」

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・5-7 第80話:「停滞」

・5-7 第80話:「停滞」


 タウゼント帝国とアルエット共和国との間で始まった戦争は、停滞期に入り込んでいた。

 下流軍を帝国奥地へと進撃すると見せかけ、エドゥアルドたちを堅陣からおびき出して決戦に持ち込むというムナール将軍の構想は、帝国軍が待ちに徹したために破綻し、劇的な変化が起きないまま双方が睨み合いを続ける、という状態になっている。

 主力軍は西方十五キロメートルに、下流軍は北方の二十キロメートルに展開し、こちら側を半包囲する形を作っている。

 しかし、代皇帝たちにとってこれは、狙い通りであった。

 自国領に引き込んだ敵を消耗させ、焦らせ、自軍にとって有利な地形に進退窮しんたいきわまった彼ら自身が押し出してくるようにする、という作戦を採用していたからだ。

 十万の下流軍の進撃を阻止するために開始したゲリラ戦は、引き続き行われていた。

 それもいよいよ熱心に、共和国軍の補給線への攻撃を強化している。

 共和国とムナール将軍との間には、天然の障壁である大河、グロースフルスが流れている。

 そのために補給に用いることができる経路は限られており、しかも、その量は常に不足気味であった。

 侵攻開始当初の目論見としては、短期決戦を想定していたのに違いない。

 グロースフルスを渡河する際を狙って決戦を挑んで来る帝国軍を捕捉して殲滅せんめつし、主力のいなくなった帝国を蹂躙じゅうりんする。

 そういう青写真を描いていたかどうか、エドゥアルドたちの側から確信をもって断言することなど不可能であったが、これまでの戦争の推移から類推するにおそらくはその通りであるはずだった。

 まるでこちらの攻撃を誘うように、三か所に軍を分散して渡河を開始したことと、その一軍を攻撃していた帝国軍の前に一日に三十キロメートルにも及ぶ迅速な機動によって十万規模の増援を送り込んできたこと。

 そしてその後に、堅陣にこもったエドゥアルドたちをなんとか誘い出そうと、下流軍をこれ見よがしに動かしたこと。

 ムナール将軍は、自身の戦術能力に絶対の自信を持っている。

 帝国元帥・ヨッヘム公はそのように見なしていたが、それは代皇帝たちにとってはもっともらしく、説得力のある評価に思えた。

 敵将は常に、なんとか直接対決する機会を得ようと策を巡らせてきていたからだ。

 決戦に持ち込めば、自身の指揮能力があればどんな形であれ必ず勝てる。

 そう考えているからこそ、ムナール将軍は大胆な用兵をくり返し、常識はずれな行動に出ることができるのだろう。

 多少の[不利]は、くつがえせるという自信を持っているのだ。

 だが、エドゥアルドたちが自分たちの側からは戦わない、という方針を徹底したために、さすがに行き詰ってしまっている。

 時間は、帝国の味方であった。

 戦争にいかにして勝利するのか、その道筋を描く中で短期決戦だけを想定していたためか、共和国軍の側の補給能力はどうやら、非常に貧弱な様子なのだ。

 帝国領深くに侵攻するにしても、開戦からすぐに発生するだろう決戦に勝利して早々に帝国軍の主力を撃滅している、という予定であったから、補給は現地調達だけで十分にまかなえると判断していたのかもしれない。

 ひとたび主力軍を撃破してしまえば、帝国にはもはや、共和国軍を阻止できる軍事力は存在し無い。

 だから簡単に多くの支配領域を得ることができる。

 そして戦争に必要な物資は、占領下に置いたそれらの場所から物資を買いつけるなり、徴発するなりすればいい。

 決定的な勝利を得た側が、利益を総取りにできる。

 いわゆる決戦主義であった。

 だが、ムナール将軍は決戦を起こすことができなかった。

 エドゥアルドたちがそれを回避し、自軍の後方支援体制を万全に整えたうえで持久戦のかまえを崩さなかったからだ。

 十分な優勢を確保して開戦に踏み切ったはずであったが、共和国側はどんどん、選択肢を失いつつあった。

 帝国軍は陣地を守ったまま動かない。

 では、共和国軍から動こうとしても、補給線への激しい攻撃のためにまともに身動きが取れない。

 かといって、エドゥアルドたちがいる防御陣地に攻撃を仕掛ければ、大損害を受けることが確実であり、しかも勝算は低いと見なさざるを得ないのだ。

 ゲリラ戦の強化によって、ムナール将軍は深刻な物資不足に直面し始めていた。

 下流軍との共同に成功し、彼の手元にある兵力は実質的に二十数万を数えることとなったが、一か所にそれだけの軍勢がとどまり続けることは、後方からの潤沢な補給が無ければ絶対に不可能なことであった。

 現地調達しようにもこれだけの大人数を長期間まかない続けるだけの物量を貯蓄している地域などあるはずがなく、最初はある程度補助させることができても、対陣が長引けば本国からの補給にすべてを頼らなければならなくなる。

 そして短期決戦を考えていた共和国軍には、そうする用意がなかった。

 しかも、なんとか送り込まれて来た物資は、帝国側の襲撃によって妨害され、実際に到着する量は大きく目減りする。

 止むを得ず、共和国軍は主力軍を割き、補給線を防衛するために多くの兵力を差し向けなければならなかった。

 これは、実に消極的な目的での兵力の分散であった。

 これまでもムナール将軍は自身の兵力をわざと分割して見せていたが、それらはエドゥアルドを決戦に引きずり込むための、積極的な作戦であった。

 だが今回の分散は、後方の連絡線を防御するためであり、主戦線の戦局には直接関与できない部分に兵力を費やしてしまっている。

 それでも、彼にはそうする以外の選択肢がなかった。

 やらなければ、飢えてしまうからだ。

 このためにムナール将軍が帝国軍との決戦に投入できる兵力は、四月の半ばごろには二十万を切るまでに減少してしまっていた。

 おかげでなんとか補給はある程度は届くようになったのだが、やはり本国側で準備をしていなかったためか、その量は相変わらず十分なものではなく、慢性的な食糧不足によって日々の配給は減らされ、共和国軍の士気は着実に低下し始めている。

 こうして、思い切った作戦も取れず、正面攻撃にも移行できないまま、時間だけが経過していった。

 気がつけば、季節は五月の半ば。

 国境地域を舞台とした攻防戦が始まってから、二か月が過ぎ去ろうとしていた。


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