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メイド・ルーシェの新帝国勃興記 ~Neu Reich erheben aufzeichnen~  作者: 熊吉(モノカキグマ)
第五章:「英雄VS代皇帝」

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・5-5 第78話:「真綿で首を絞めるように:1」

・5-5 第78話:「真綿で首を絞めるように:1」


 あからさまに隙を見せるような動きを見せている共和国軍の狙いは、こちらを誘い出して罠にはめるために違いない。

 エドゥアルドが気づいているのと同じように、主戦論が活気づく本営の中にあってそれに思い至っている者も数多くいるようだった。


「私は、ここで打って出ることには反対です」


 まず、明確にそう述べたのは、ノルトハーフェン公爵時代からずっとエドゥアルドにとっての盟友であったオストヴィーゼ公爵・ユリウスであった。


「これは、明らかに我が方を誘い出そうとする罠でしょう。迂回を試みる下流軍を攻撃するべく出撃すれば、急進して来た敵の主力によって挟撃されることになりましょう。そうなればこちらに勝ち目はありません」


 その意見に、主戦論を唱えていた者たちも慎重さを取り戻さざるを得なかった。

 帝国に五人しかいない有力な貴族の当主であるユリウスの発言はそれほど重い、ということでもあるし、言われてみれば当然そういった危険はあるのに違いないと、みながそう納得するのに十分な説得力があったからだ。

 ムナール将軍が優れた指揮官であることは、帝国人の誰もが認めていることだ。

 そして彼は、帝国軍と、エドゥアルドと直接戦って、打ち破ることを願っている。

 そういった点を考えれば、今回の行動もまた、決戦を引き起こすための作戦に違いない。


「しかし、なにもしない、というわけにもいかないのではないでしょうか? 」


 沈黙した本営の中で、おずおずといった様子で声をあげたのは、アルトクローネ公爵・デニスだった。

 彼は皆の注目を浴びて緊張したのか額に冷や汗を浮かべ、膝の上で組んだ手の指をしきりにうごめかし落ち着かない様子で、だがこの場にいる三人の公爵の中ではもっとも年長者であるという責任感から言葉を続ける。


「これは、共和国軍側の罠であるのだと、わたくしもそう思います。ですが、放っておけば、敵の別動隊はそのまま、我が帝国領の奥深くへと侵攻いたしましょう。その際に受ける被害は、決して無視できないものとなりますし、いずれにしろこの敵軍を打ち破らなければ、状況はこのまま膠着こうちゃくして決着がつかないままとなりましょう」


 その危惧に、何人もの諸侯がしきりにうなずいている。

 アルエット共和国との国境付近に所領を有しており、敵軍の軍事行動によって直接的な被害を受けている者たち、そしてこれから敵の侵攻を受けかねない貴族たちだ。

 自然と、視線がエドゥアルドと、その隣でのんきに元帥仗にはめ込まれた宝石を指先で撫でているプリンツ・ヨッヘムの二人へと集まって来る。

 敵に対処するべく出撃するか、あるいは、静観するのか。

 すべてはこの少年とその下で軍の統率を行っている年長者の考え次第であろうというのが、この場にいる人々の共通見解であるらしかった。

 ちらり、と横目で、代皇帝は帝国元帥の様子をうかがい見る。

 彼はどうやら、積極的に発言するつもりはないらしかった。

 また、こちらの実力を試そうとしているのか。

 そう思いもしたが、それも違うと思われる。

 エドゥアルドならば、ここで自分が口をさしはさまなくともちゃんと、正しい対処を選択することができる

 そう考えているのだろう。


「今回の敵の動きに対して、主力軍は動かさない」


 一度深呼吸をして腹をくくってから、エドゥアルドはその場に居並ぶ諸侯、将校たちを一望し、まずそのことをはっきりと断言した。


「ユリウス殿を始め、危惧されている方々がいる通り、これは間違いなく、ムナール将軍が我が方をこの堅陣から誘い出そうとしての行動。軽々しく乗ってしまえば、まんまと罠にかけられ、我が軍は包囲・殲滅せんめつされることとなるだろう」


 それでは、困る。

 共和国軍の進軍によって被害を受けることになる諸侯たちの間に失望の表情が浮かぶのを見逃さなかったエドゥアルドは、「しかしながら」と言葉を続けた。


「なにも対処をせず静観する、ということもしない。余には、カール十一世陛下に代わって帝国を導く者として、臣下と民を守る義務がある」


 そう。

 なにかを、なにかをしなければならない。

 なにもせずに黙殺したのでは、代皇帝に現在寄せられている信望は、大きく損なわれてしまう。

 少年がこの地位についているのは、彼のそれまでの実績や、内乱で勝利したという決定的な結果があるからだったが、未来への期待、というのも大きかった。

 帝国をより良い国家に導いてくれる新時代の旗手として、信任されているのだ。

 それなのに、ここで敵国領が敵によって蹂躙じゅうりんされるままにするとしたら。

 エドゥアルドに向けられている希望のいくらかは、確実に失望へと変わるだろう。

 多のために、寡を切り捨てる。

 国家全体を統治していかねばならない支配者にとってそれは、時には行わなければならない選択であるのに違いないし、一定の理解をされるはずだった。

 だが、見捨てられた側は、たまったものではない。

 そして、今回は守ってもらえる側にいた者たちも、状況次第では自分もそうなるのではないか、と、疑心暗鬼に陥ることだろう。

 人々はそれぞれの理想を持って、エドゥアルドにこうべを垂れている。

 しかし、一度ひとたび幻滅されてしまえば、代皇帝の求心力は大きく低下していくことだろう。

 必然的に、少年がこれから進めて行こうとしている国政の改革も、勢いを失い、満足のいく成果を得られなくなるかもしれない。

 だからここで、期待を裏切ることはできなかった。

 この年若い人物こそが最良最前の指導者であるのだと、信じ続けてもらわなければならない。


「今回の共和国との戦争が始まって以来、我が帝国の方針は、敵を我が領内へと誘引し、そこで補給を断ち、疲弊させて、我が方の堅陣に不利を承知で決戦を挑まざるを得ない状況に追い込む、というものだった。……余は、この機を活用して、この作戦を完遂するために万全を期そうと思う」


 全員が、自分の一挙手一投足に注目している。

 そのことを感じ、手の平に冷や汗がにじむ感覚を覚えながら、平静を装ったエドゥアルドは帝国軍が行うべきことを命じた。


「主力軍による決戦は行わない。だが、遊撃軍を編成し、我が方は敵の補給線を徹底的に叩く。真綿で首を絞めるように、徐々に敵を衰弱させていくのだ。……そうすれば彼らは、我が領深くに侵攻することもできないまま、幹から切り離された枝葉のように、自然と枯れ果てることとなるだろう」


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