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メイド・ルーシェの新帝国勃興記 ~Neu Reich erheben aufzeichnen~  作者: 熊吉(モノカキグマ)
第五章:「英雄VS代皇帝」

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・5-2 第75話:「まずは上々」

・5-2 第75話:「まずは上々」


 帝国軍があらたに布陣したのは、河畔の戦いが行われた渡河点から百キロメートルも離れた辺りだった。

 敵を国内に引き込んで補給不足に陥らせる、という作戦に従った行動だ。

 ここも、以前に野営していた場所と同様、主要な街道と複数の道路が集まっている交通の要衝ようしょうだ。

 そして地形的に、守りやすい。

 西側と北側から敵がやって来ると想定して交戦正面とし、軍を南西から北東に向かって展開した場合、ちょうど左側面を徒歩では渡河困難な深さのある川がグロースフルスに向かって流れており、兵力を戦闘正面に集中させやすいし、敵から包囲を受けにくい。

 しかも東側、戦線の後方には本営を置いて戦況全体を観察するのに便利な小高い丘があり、標高の高い丘陵地が戦線の右翼側に向かって腕を延ばすように続いているため、敵の動向を把握しやすいだけでなく火砲の威力も発揮させやすい。

 川があるから、水も潤沢に得られ、乾きとは無縁でいられる。

 複数の補給路を利用できるから物資も入手しやすく、長期戦にも十分に対応できるし、敵が決戦を挑んできた場合にも戦いやすい。

 元々の地形が有利であるだけではなかった。

 ここからさらに、野戦築城を行って防御を固めるのだ。

 工兵隊が中心となって、それ以外の兵士たちも持ち込んだ円匙えんぴやツルハシを振るい、陣地を強化していく。

 よく使われるのは、細い枝を組み合わせて作った大きなかごの中に土などを詰めて突き固め、敵弾を受け止める障害として並べて作った半円形の堡塁ほうるいだった。

 ここに歩兵や大砲を配置し、身をできるだけ隠しながら射撃を行うのだ。

 加えて、騎兵が勢いに任せて突進してくることができないように工夫がされた。

 共和国軍が橋頭保の防衛をするために行ったのと同様に、鋭く先端を尖らせた木の杭を打ち込んで並べ、騎兵が思うように突っ込んでこられないようにしたり、溝を掘ってその上に草などを被せて擬装した落とし穴を作ったり。

 これらの作業は重労働であったが、兵士たちは陽気に働き続けた。

 河畔の戦いでは、惜しいところまで敵を追い詰め、こちらには深刻な被害がないまま撤退に成功したということが、自信と楽観につながっているからだ。

 補給も万全で毎日十分に食事を取れているし、替えの衣服やブーツなども手に入れられるのだから、このまま戦い続けても大丈夫だという安心感もある。

 そういった雰囲気は、負傷者たちにも共有されていた。


「いやぁ、はっはっは! 太ってるってのも、なかなかどうして、便利なもんだよ! ほら、敵に銃剣で突かれたけど、肉厚だったおかげでこうしてぴんぴんしてるんだから! 」

「あらあら、うふふっ、ペーターさまったら。ご無理をなさいますと、傷口が開いてしまいますよ? 」

「えへへ。ルーシェちゃんがそういうのなら、ちゃぁんと、大人しくしていなくちゃなぁ」


 先の戦いで負傷したノルトハーフェン公国軍の第一師団長、ペーター・ツー・フレッサー中将などは、自身の宿舎として設営された天幕で療養しながら、様子を見に来てくれるメイドのルーシェと明るく談笑したりしている。

 彼の傷の具合は、実際のところは微妙だった。

 公言している通り分厚い皮下脂肪のおかげで腹部に突き刺さった敵兵の銃剣は内臓までは達しておらず、命に別状はないのだが、安静にしていないと傷口がいつ開いてもおかしくないといった状況なのだ。

 戦場から救護された帝国軍の負傷兵たち、それと、降伏したり、味方と間違えて救助されたりした共和国軍の兵士たちは、すでに後方に送られている。

 ここからさらに二十キロ東に行ったところにある街を拠点として野戦病院が設営されており、そこで治療を受けた彼らはさらに後方の都市に送られ、全快するまで療養する手筈が整えられている。

 確実を取るのならば、ペーターも同じように後方に送られていなければならなかった。

 しかし、ここで師団長がいなくなるわけにはいかない、自分はもっとも長くエドゥアルドと共に戦って来たという自負がある、と、後方に下がることなくこうして前線に留まっているのだ。

 彼が明るく、陽気に振る舞っているのは、そうすることで部下たちの雰囲気も前向きなものにさせようという、指揮官としての思惑もあるのに違いなかった。

 だが、ルーシェがあれこれ世話を焼いてくれたり、包帯を交換してくれたりすることを、純粋じゅんすいに喜んでいるところもある。

 ペーターは、エドゥアルドがノルトハーフェン公国の実権を手にする以前からの仲だった。

 最初から味方であったわけではない。その当時は、公爵家の権力を掌握しようと目論まれた簒奪さんだつの陰謀に加担する側にいたのだ。

 彼は敵だった。

 しかし、主が良い国家を作ってくれると信じて懸命に働くルーシェの姿に心を動かされ、なによりエドゥアルドの将来性に気づき、ついには翻意ほんいした。

 以来、少年公爵のために力を尽くして戦い、それ以来厚い信頼の置ける将校として、その期待にこたえ続けてくれている。

 彼と、その当時から代皇帝と共に戦って来た一部の将兵たちにとっては、ルーシェは一種のアイドル的な存在だった。

 女っ気のない軍隊生活の中で彼女のような明るくて朗らか、しかも親切な女性というのは人気が出て当たり前であったし、多くの兵士にとっては年下の妹、もしくは娘のように思われている。

 ペーターは独身で、子供はいない。

 だから尚更、年の離れたルーシェのことを自身の娘のように思っているらしい。

 メイドとしても昔馴染みであるから、話していて楽しい様子で、よく笑っている。

 ———こんな調子で、帝国軍は全体的に、明るいムードに包まれていた。

 それは、三か所に分散して渡河した後、再度合流を果たし二十数万の規模になった共和国軍が十五キロメートルほど西方に布陣した、という報告が届いても変わらなかった。

 だが、エドゥアルドたち本営にいる人物たちは、兵士たちとは異なり、深刻な問題に直面していた。

 河畔の戦いにおいて、なぜ、あんなに早くに敵の援軍が到着したのか。

 そのトリックが判明したためであった。


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