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メイド・ルーシェの新帝国勃興記 ~Neu Reich erheben aufzeichnen~  作者: 熊吉(モノカキグマ)
第三章:「課題山積」

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・3-23 第42話:「外交政策:1」

・3-23 第42話:「外交政策:1」


 忙しく内政を進める一方で、エドゥアルドはコツコツと外交も進めていた。

 アルエット共和国に対抗する準備。

 その中には自国の体制を再構築し強化する、というだけではなく、外交政策によってより有利な情勢を作り出す、ということも含まれていた。

 ただ、そのテンポはあまり早くはない。

 なにしろこの時代は、手紙をやり取りするだけでも長い時間がかかるからだ。

 諸外国とやり取りをするためには、最速の伝達手段である早馬を用いても数週間、下手をすれば数か月もかかってしまう。

 大きな取り決めをするためには、時間をかけて書簡をやり取りするか、その都度、権限を与えた使者を差し向け、折衝せっしょうを行う他はなかった。

 こうした外交を専門に所管する省庁は、現在の帝国にはない。

 国家宰相が主幹となるか、その補佐を受けつつ、国家元首である皇帝が直接行う、という形になっている。

 これは、この国家が国外に領土や権益を持たないために専門の外交機関を独立させて存在させる必要性が薄く、かつ、各国に対して大使を派遣して常駐させておくという文化がまだ強く根づいていない時代であったからだ。

 国家宰相の下に置かれている一組織として外交に関わる部署は存在しているが、その規模はさほど大きくはなく、独立した機関とするほどのものではなかった。

 ———タウゼント帝国の強敵となったアルエット共和国は現在、外交的に盤石ばんじゃくの体制を構築している。

 南のフルゴル王国を実質的な支配下に置き、北のバ・メール王国も制圧してその勢力下に組み入れたために、後背や側面を気にすることなくその全力を帝国に叩きつけることができるのだ。

 内乱状態を脱したばかりで、様々な改革に着手したばかりの現在、その鋭鋒を真正面から受け止めることは避けたかった。

 なんとか共和国がこちらに集中することのできない形勢を作るか、あるいは、味方となってくれる国を増やして援軍を獲得し、自国の負担を軽減したい。

 そうした狙いから、国家宰相となったルドルフ・フォン・エーアリヒ、代皇帝のブレーンであるヴィルヘルム・プロフェートなどと相談して決めた外交方針は、いわゆる[遠交近攻]政策に基づいたものであった。

 隣接するアルエット共和国との対決に備え、より遠くの国家と交わる。

 ヘルデン大陸には、もはや、共和国と隣接している国家はタウゼント帝国しか存在していない。

 では、どこを味方につけるか。

 それは、海を越えた先にあるイーンスラ王国であった。

 一国並みの広さを持つ大きな島といくつかの中小の島々を領土とするその国家は、海を隔ててはいるがアルエット共和国の後背に当たる場所にある。

 それだけではなく、国家の力の大きさとしても、味方にすることができれば頼もしい。

 産業革命の震源地となった同国の経済力・工業力はタウゼント帝国に匹敵するか、しのぐ勢いがあり、それだけの国力があるのだから相応に軍事力も大きかった。

 中でも、海軍は有名だ。

 同国は海に囲まれているという地勢から伝統的に海軍力を重視しており、ヘルデン大陸ではなく、航路を経ての海外に広く勢力圏を伸長させている。そしてそういった海外植民地の権益を維持するためにはさらに海軍力が重要となって来る。

 必然的にその保有する艦艇も多く、また、乗員も経験豊富で熟達していた。

 そういった大規模な海軍を維持するシステムにおいても先進的だ。

 イーンスラ王国では自国が整備している艦艇を、その大きさや航海能力、武装の種類や量によって、一等戦列艦から六等戦列艦までに分類し、艦隊を編成する時や、艦艇を調達する際の建造費の算出と予算の割り振りなどに効果的に利用している。

 諸外国でもこうした分類を参考にして用いているほどだ。

 陸戦においては大陸国家であるタウゼント帝国の方が有利だ、と信じることができるが、海戦においてはまったく歯が立たないだろうと確信できる。

 歴史的にも、イーンスラ王国とアルエット共和国は何度も敵対した経緯を持つ、[宿敵]とも言うべき間柄だった。

 海を隔てていると言っても、最小距離三十四キロメートルしかない海峡によって分断されているのに過ぎず、互いに上陸したり、されたり、何度も干戈を交えて来た。

 それを、味方とすることができれば。

 アルエット共和国はタウゼント帝国と同じく、陸上を主な勢力圏とする大陸国家であったが、船舶を利用した貿易を盛んに行っている。

 海外に領土、いわゆる植民地を多数、保有してもいる。

 イーンスラ王国の強力な海軍力を用いて海上封鎖を実施し、交易を阻害できれば、少なくない打撃を与えることができるし、上陸を警戒して地上戦力も一部を海岸線の防備に割り振らなければならなくなるだろう。

 しかし、王国との協力関係の構築は、エドゥアルドたちが望んだ通りには進まなかった。


「かの国は海上権益が主ですから、大陸にさほど利権を望んではいないのでしょう。そしてなにより、自国に対して脅威とならない限りは、進んで関与しても得はないという考えなのでしょう」

「加えて、産業面で、かの国と我が国とはライバル関係にあります。……この際、アルエット共和国と争い、適度に消耗してくれた方が良い、などと考えているのかもしれませぬ」


 イーンスラ王国に派遣した外交使節からあまり良い内容ではない報告書を受け取った日の会議の席で、ヴィルヘルムとルドルフはそう、それぞれの考えを述べた。

 ———相手は、自分とは[違う]。

 それぞれの立場や、考えがあって、必ずしも望んだとおりにはならない。

 そのことを実感させられる。

 海外植民地を多く持ち、そこから得られる権益と、産業革命の推進によって経済力を増大させているイーンスラ王国にとっては、海上の覇権が脅かされたり、大陸から海を越えて王国に侵攻してくるだけの力を持った国家が誕生したりしない限りは、ヘルデン大陸上の出来事は[些末さまつ]なことであるらしかった。


「ままならないものだな……」


 エドゥアルドはさすがに困惑して憂鬱ゆううつな気分になったが、しかし、派遣している外交使節に対しては、今後も粘り強く交渉を続けてもらう他はなかった。

 アルエット共和国を後背から牽制けんせいすることができそうな国家は、イーンスラ王国以外には無さそうであったからだ。

 ただ、これは向こうの方針がなんらかの理由で劇的に変化するか、ヘルデン大陸上の情勢が大きく動き、かの国にとっての脅威と見なされない限りは、どうしようもなさそうだ。

 引き続き交渉を進める一方で、代皇帝は別の切り口から外交的な帝国の立場の改善を目指さなければならなかった。


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