表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
メイド・ルーシェの新帝国勃興記 ~Neu Reich erheben aufzeichnen~  作者: 熊吉(モノカキグマ)
第二十一章:「号砲」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

412/413

・21-16 第411話:「ブルークゼーレのグラッセ:3」

・21-16 第411話:「ブルークゼーレのグラッセ:3」


 幅1キロメートル。

 その範囲に戦力を集中させ、深い縦深を持った陣形を作り上げたアルエット共和国軍は、その左右に展開させた砲兵による掩護射撃を受けつつユリウスのタウゼント帝国軍の中央突破を図った。


 一点を突き破り、首都に向けて撤退する。

 ただそれだけを意図した割り切った作戦。


 エルネスト将軍としては、とにかく。

 共和国にとって唯一の主力軍を生還させたい一心だった。


 このために、彼は取捨選択を行った。

 貴重な兵器である野戦砲や、補給に利用していた馬車などをすべて放棄する計画を立てたのだ。

 重量があり、行軍速度を低下させるこういった装備にこだわり、無理矢理に持って行こうとすれば、撤退に手間取って敵に捕捉され、大損害を受ける可能性が大きい。

 だから潔く諦め、突破口を形成した後は兵員だけを同行させ、運搬に手間取りそうなものは置き捨てていく。


 物資も大事ではあったが。

 それよりも、経験豊富な将兵を残す方が、今の共和国にとっては重要だった。

 彼らさえ健在であれば、首都近辺に残された兵器などで再武装し、守りを固めることができる。

 そしてその戦力をもって敵の攻勢を抑制し膠着状態を生み出されば、国家が生き残るチャンスを作り出せるはずだ。


 長期戦に持ち込むことができれば、勝機も見えて来る。

 敵は過去に例のないほどの大軍をもって侵攻してきているから、補給の負担がすさまじく、息が続かないだろう。

 そうして退却まで持ち込めれば、共和国は救われ、反撃に向けた準備を整える時間的な猶予を獲得できる。


 失った兵器も物資も、再生産すればよいだけのことだ。

 エルネスト将軍は自身が罷免ひめんされ、後世になって酷評されるようなことになろうとも、その責任を果たすためになりふり構わない作戦を取った。


 中央突破を試みるアルエット共和国軍の攻勢は、猛烈だ。

 これまでムナール将軍の下でヘルデン大陸を縦横し、様々な戦場を経験して来た生え抜きの将兵。

 帝国軍からの反撃を受けつつもひるむことなく前進を続け、その先端では激しい白兵戦が展開された。


 だが。

 突破は成功しなかった。


 ユリウスは事前に、こういった展開になることも想定しており、用意しておいた対抗策を冷静に実施し、それが効果をあげたからだ。


 まず、オストヴィーゼ公爵は中央部の防御を分厚くした。

 幅一キロメートルほどの突破口を形成しようと敵が突っ込んで来ると、それに対応する自軍の前線部隊にまず防衛戦闘を行わせつつ、その左右に展開していた部隊を横にスライドさせて後衛とした。


 こうして敵の突破を防ぐ間に、さらに、もう一手。

 自軍の両翼に残っていた部隊に敵の縦隊を左右から攻撃させ、その突進力を削ぎ落しにかかったのだ。


 最初に接触した防衛線こそ突破されてしまったものの。

 構築した第二防衛線で耐えている間に進出した両翼の部隊は、着実に敵に損害を与え、圧迫していった。


 これが、午前までの戦況の動き。


 アルエット共和国軍は目的こそ果たせてはいないものの、ここまでの時点では互角以上に戦っていた。

 ユリウスは十分に備えを固めていたが、その指揮下にあるのはタウゼント帝国の諸侯の軍勢を集めたものであり、戦力としての質は必ずしもこの時代の一線級とは呼べないものが含まれていたからだ。


 皇帝直轄のタウゼント帝国陸軍における軍の再編が進むのに合わせ、諸侯も、それぞれの領地で軍事力の刷新に取り組んでいた。

 公爵のような大領を持つ貴族のところでは帝国軍に準じた装備の更新なども行われていたし、それよりも小さなところでも、できる限り最新の用兵学や兵器類の導入が試みられた。

 だが、程度はマチマチだ。

 資金力の不足や人材の確保ができなかったといった課題のために、その能力はノルトハーフェン公国軍やタウゼント帝国陸軍に及ばないものが多かった。

 加えて、伝統を重視するあまり、こういった新しい試みを忌避してまったく取り入れなかった者もおり、そういった部隊は比較的に早く崩されることとなった。


 例えば、平民の士官への採用。

 これを行わなかったところは、兵の士気が他よりも露骨に低かった。

 貴族階級の特権意識から、貴族以外が将校になってはならないという古くからの考えを変えなかった軍では、他よりも明らかに平民の扱いが悪かった。


 暴言じみた命令は当たり前。

 時には些細な事で鞭打ちなどの体罰が加えられる。


 平民の士官への採用が進む他の軍の姿を見ている平民たちの間では、当然、不満が高まっていく。

 このために、「貴族の命令など聞いてやるものか」と、内心でそう思っている者が増え、改革の遅れた諸侯の軍勢は弱い部隊になってしまっていた。


「これは……。

 想定していたよりも、悪い状況のようです」


 敵の縦深陣の先端に、三方向から反撃を加える有利な形を作った。

 にもかかわらず一部の質の低い部隊が打ち破られ、徐々に共和国軍に自陣を侵食されていく様子を目の当たりにしたユリウスは、さすがに焦りを覚えざるを得なかった。


 しかし、この危険な戦況は、午後になると一変する。

 急行して来たクレイン大将のイーンスラ王国軍の先鋒部隊が到着し、即座に戦闘に加入したからだ。


「間に合わなかったか! 」


 その知らせを聞いたエルネスト将軍は、天を仰がざるを得なかった。


 このままでは、正面のタウゼント帝国軍を打ち破れないまま、背後からやって来るイーンスラ王国軍に捕捉され、この場で包囲・殲滅されることとなってしまう。


 止むを得ず、彼は作戦を変更した。

 突破を試みる方向を南側ではなく、東側へと再設定したのだ。


 正面には分厚い防御陣が敷かれているが、側面方向のそれは比較的薄く、今からでも貫けるだろう。

 西側ではなく東側なのは、イーンスラ王国軍の存在があるためだ。

 西へ抜けたのではその先で新手に攻撃される恐れがあったが、東ならば、その危険はない。

 敵の追撃さえ振り切れれば、少々遠回りにはなるが、共和国の首都へとたどり着くことができる。


 エルネスト将軍は、その、敵陣を突破して首都へと退却する部隊の指揮を次席の将校に委ねた。


 自身は、殿として、自らの古巣である砲兵部隊と、いくらかの歩兵部隊と共に戦場に残る。

 帝国軍の右翼、東側を突破するまでの間、後方から襲来したイーンスラ王国軍を防ぎとめる必要があったからだ。


 この試みは、成功した。

 アルエット共和国軍は最後の力を振り絞って戦い、その威力はついに敵陣を貫通したのだ。


 こうして、一部の共和国軍はブルークゼーレの包囲からの脱出に成功した一方で。

 友軍を逃がすために残ったエルネスト将軍は、多くの戦友と共に勇敢な最後を迎えた。

 砲撃を続けようとする砲兵隊を黙らせるべく突進して来た騎兵隊と自ら白兵戦を行い、サーベルによって切り裂かれたのだ。


 戦闘は夕刻までに決着した。

 この戦いで。

 タウゼント帝国軍は二万余りの死傷者を出し、イーンスラ王国軍は軽微な損耗。

 そして。

 アルエット共和国軍は、四万余りの将兵が脱出に成功し、三万が捕虜となり、三万が死傷。

 エルネスト将軍も戦死するという結果になった。


 アルエット共和国は、その主力軍を、事実上、失った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ