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メイド・ルーシェの新帝国勃興記 ~Neu Reich erheben aufzeichnen~  作者: 熊吉(モノカキグマ)
第二十一章:「号砲」

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・21-14 第409話:「ブルークゼーレのグラッセ:1」

・21-14 第409話:「ブルークゼーレのグラッセ:1」


 ブルークゼーレは歴史の古い都市だ。

 その名前の由来は[沼地の家]という意味であるとされ、古代から農耕が営まれ、人々が定住していた形跡が見つかっている。


 その後、交通の要衝であったために商工業が大きく発達した。

 地域一帯の主要な都市として栄え、バ・メール王国南部の中心地となっている。


 退路を遮断されてしまったためにそこで立ち往生することになったエルネスト将軍は、急ぎ首都に伝令を送り、救援を要請した。

 共和国にすぐ新たな軍団を編成して送り込む余力が無いことは承知していたが、彼には他に、三方向から、合計で三倍以上にもなる兵力に包囲されるという状況を打開する術がなかった。


 増援を得られたとして、その数は限られてくる。

 しかも、時間がかかってしまうだろう。


 そう予測せざるを得なかったエルネスト将軍は、彼にできる最善を尽くすことにした。


 すなわち、時間稼ぎだ。


 包囲されているとはいっても、十万の軍団。

 まだ交戦しておらず、兵力は充実していて、兵器・弾薬も十分にある。


 この強力な戦力で、ブルークゼーレの市街地を中心として防衛線を構築し、立て籠もる。

 そうすれば、あるいは、味方の来援まで持ちこたえることができるかもしれない。


 幸いにして、地域の主要な都市として繁栄して来たこの場所には多くの人口があり、それに比例して備蓄されている物資も多かった。

 まだ敵に支配されていない周辺の村々から現地調達したものと合わせれば、十万の軍団でも数か月以上は持ちこたえられるはずだ。


 エルネスト将軍は指揮下の部隊に、都市の主要部、および付近の防衛にとって重要となりそうな地形・建築物を掌握すること、野戦築城を実施して防衛を強化すること、そして、最悪の場合は略奪も辞さないような強硬姿勢で物資を確保することを命令し、実行させた。


 こういった動きに対し、三方向から迫るタウゼント帝国とイーンスラ王国、バ・メール王国の同盟軍は、まずは着実に包囲網を狭めるように行動した。


 帝国は短期決戦を望んでおり、ここで時間をかけることは理想とはかけ離れたことではあったものの。

 三分の一の兵力とはいえ、軽視できない戦力を維持している敵に対して速攻をかけるのは、リスクが大き過ぎたからだ。


 加えて、この方面における指揮系統の問題があった。

 展開している三つの軍団にはそれぞれの統率者が設定されていたものの。

 彼らの中で誰がもっとも上位の指揮官であるのかが定められてはおらず、友軍ではあっても、全軍が統一した行動をとることができない。

 それぞれの将が、作戦目的に従い、独自に活動しているというのが実態だった。


 ———もし、ここで包囲された共和国軍を率いていたのが、アレクサンデル・ムナールであったら。

 あるいは、同盟軍側の連携の不備を突き、大胆かつ積極的な攻勢に出て、窮地を脱してしまっていたかもしれない。


 しかし、エルネスト将軍は、実績も豊富で能力もある人物ではあるものの、こういった思い切りの良さは持っていなかった。

 常識的な範囲で、ミスをしなければ守りきれる。

 そういう目論見で選ばれた存在であったからだ。


 こうして、一見すると、タウゼント帝国の建国歴千百四十年の五月の戦況は、停滞するかのように思われた。


 ここで指導力を発揮したのは、オストヴィーゼ公爵・ユリウスだった。


 彼はタウゼント帝国軍の一軍、軍役に従って参陣した諸侯の軍勢から成る集団を指揮している身であり、エドゥアルドとその下にある参謀本部の統率に組み込まれてはいたものの。

 アルエット共和国とタウゼント帝国の国境地帯に本営を置いている代皇帝の意向をいちいち確認していたのでは時間がかかり過ぎて機敏な軍事行動などできるはずがないため、独自の判断で行動する裁量を与えられていた。


 このため、ユリウスは現場の判断で、状況を膠着こうちゃくさせないために他の友軍と連絡を取り合い、臨時の取りまとめ役としての立場を演じ、作戦を立案した。

 そしてこの動きによって、同盟軍のみっつの軍団の連携は強化された。


 彼は帝国のれっきとした被選帝侯であり、オストヴィーゼ公爵家の正統な後継者。

 場合によっては次の時代の皇帝に選出されてもおかしくはない存在だ。

 そういった背景から、元々エドゥアルドの代理としてノルトハーフェン公国を統治しているのに過ぎなかったヨーゼフ・ツー・フェヒターは「格が違うし、その方が何かと円滑になる」として素直に従ったし、イーンスラ王国軍を率いるアイザック・サー・クレイン大将(半島戦役の戦果が評価されて中将から昇進した)も、外交的な配慮からひとまず指図を受け入れる姿勢を示したからだ。


 共和国軍に籠城をさせない。

 そのためにまず、バ・メール王国のパルチザンと協力し、敵軍の備蓄を焼き払うことにした。


 軍隊は大量の物資を消費する。

 だから、一か所に留まるためには、大量の蓄えがあるか、外部からの継続的な補給が受けられなければならない。


 現在、共和国軍はブルークゼーレで包囲をされているから、手持ち以上のものを新規に獲得する術を持っていない。

 だからそれをうまく破壊できれば、打って出る以外の選択肢を失わせることができる。

 飢えによって座して壊滅するより、包囲網に突撃して一部だけでも外部に脱出させた方が、まだマシであるからだ。


 その場合、降伏する、という選択肢もあり得たが、それはまず起こらないと思われた。

 彼らは共和国の軍隊であり、自分たちが王政を倒して平民の手に獲得した様々な権利を守るために戦うのだという目的と、それに根差した高い戦意を持っているからだ。

 君主制を掲げる敵に屈服するよりも、戦う方を選ぶはずだ。


 この作戦は、まずまず、うまくいった。

 旧バ・メール王国の領地であったブルークゼーレには、共和国の支配を受けることを快く思ってはいない人々が少なからずおり、そういった者の中にはパルチザンに協力してくれる者が数多く出て来たからだ。


 共和国軍の備蓄物資が保管されている場所に潜入し、火を放ったり、あるいは帝国軍の襲撃部隊を手引きして攻撃を導いたり。

 こういった活動により、エルネスト将軍はせっかくかき集めた食料などを相当に失うことになってしまった。


 ただ、これだけでは、現在地でできるだけ粘ろうとするかもしれない。

 そこでユリウスはもうひとつ策を講じた。


 それは、兵法にもいわれていること。

 敵を包囲する場合は、必ず、一か所を開けておく、というものだ。


 そうすれば敵はそこに活路を見出し、逃げ出そうとする。

 もちろん、黙って逃す手はない。

 そこを襲うことで、多大な戦果を獲得することができる。


 ただ、これをそのまま実行しただけでは、敵も乗っては来ないだろう。

 明らかに誘いであると分かれば、敢えて罠にかかろうとはしないからだ。


 だからユリウスは変則的な手段を取った。

 自分の指揮する軍団を南下させ、アルエット共和国の首都を直撃する姿勢を見せびらかしたのだ。


 この動きは、さすがに見過ごすことができなかった。

 首都とその近隣の地域を占領されてしまえば、共和国はその政治中枢を失うだけではなく、軍を支える経済力も奪われてしまうことになる。


 よほど国土が広大で、いくらでも後退して戦い続ける余地があれば、無視してもいいのだが。

 ヘルデン大陸の大国のひとつとはいえ、アルエット共和国にとっては、首都周辺を制圧されることは致命傷だった。


 軍が無傷であっても、戦争に負けてしまったのでは意味がない。

 止むを得ず、エルネスト将軍は打って出ることを決断した。


 こうして。

 後に、[ブルークゼーレのグラッセ]と呼ばれることとなる、殲滅戦が開始された。


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