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メイド・ルーシェの新帝国勃興記 ~Neu Reich erheben aufzeichnen~  作者: 熊吉(モノカキグマ)
第三章:「課題山積」

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・3-21 第40話:「士官を増やせ:1」

・3-21 第40話:「士官を増やせ:1」


 国民軍の創設の準備と、帝国全土の兵站システムの再建。

 この二つを実施するのと並行して、エドゥアルドにはやらなければならないことがあった。

 それは、部隊を指揮できる士官を増やすことだ。

 軍隊というのは数千、数万にも及ぶ人数で活動することから、戦局に応じて司令官からの命令を迅速に伝達し、実行するために、厳格な階級制を敷いている。

 この内、将官、佐官、尉官などは将校・士官などと呼ばれ、各部隊の司令官や指揮官となり、曹長・軍曹・伍長などが下士官と言われ、士官を補佐して実際に兵たちの統率に当たる。

 軍隊の規模を拡大するということは、これら、士官・下士官の数を大幅に増やさなければならない、ということでもあった。

 指揮・統率する者がいなければ、いくら数があろうともそれは、いわゆる[烏合の衆]にしかならないからだ。

 しかし、こういった人材を増やすのは容易なことではなかった。

 適切に兵を指揮し、勝利に導くためには相応の専門教育と実務経験、そして本人の適性が必要であったからだ。

 下士官ならば、まだ、なんとかなる。

 軍務経験の長い者の中から適性を見て選抜すれば、彼らは兵隊とはどういうものか、戦いとはどういうものかをよく心得ているから、求められる働きをしてくれるだろう。

 しかし、それ以上、部隊を統率する士官となると、そんなふうにはいかない。

 士官には実際の戦場での戦い方、という以上に、戦況全体を見渡す俯瞰的ふかんてきな視点を持つことが求められるからだ。

 戦いを[作る]能力が必要だ。

 自分の指揮する部隊にある行動を取らせたときに、戦況にどんな影響が生じるのか。

 そのことを想像し、理解して、無謀な行動を避け、有効な決断のみを下し、効果的に勝利へと近づく。

 たとえば、敵と見るや闇雲に突っ込めと叫ぶだけの士官は、危うい。

 もしも相手の態勢がまったく整っていなければその勢いだけで打ち崩すことができ、結果として勝利を得ることもあり得るのだが、それは偶然の産物に過ぎない。

 敵の指揮官が有能であり十分に対応できるだけの備えを整えていれば、突っ込んでいった部隊は容易に返り討ちにされ、将兵は無駄に死傷し、場合によってはそのことがきっかけで戦いに敗北してしまうかもしれない。

 無謀な突撃によって戦機を失った戦いというのは、歴史上に散見される事例だった。

 いつ前進し、いつ後退するか。

 あるいは、動かずにいるか。

 この判断を下す機微を理解し、自身の決断によって遂行される戦闘の結果がどのように戦況に影響するかを考えられなければ、まず、優秀な士官とは呼べない。

 そういった判断が下せるようになって初めて、この時代の最小の戦闘単位とも呼ばれる大隊長として、数百人の部下を任せることができるようになる。

 操り人形のように命令を兵士たちに伝達するという役割を求めるだけであったら、従順な者を選んで、制服を着せ、階級章をつけさせるだけでもいいだろう。

 しかし、そんな士官に部隊を任せていたのでは、出来上がるのは動きの鈍い、相手の作戦に翻弄ほんんろうされるしかない緩慢な弱い軍隊でしかない。

 この時代の命令の伝達には、そもそも、常にタイムラグが存在している。

 もっとも広く用いられている伝達手段は早馬であり、このために、どんなに急いで伝令を走らせても、馬の速度以上には早くはならない。

 だから、上意下達じょういかたつが基本であるとはいっても、前線の指揮官が決断を下さなければならない状況というのは、頻繁に発生する。

 早馬を飛ばし、上位の司令部に指示を仰ぐ、という行為を行うのは当然であったが、新たな命令が届くまでは自己の判断で戦うしかないのだ。

 ただ命令に従うだけでなにも考えることのできない士官よりも、命令に従ったうえで、必要に応じて最善と思われる決断を下すことのできる士官が欲しい。

 まして、複数の連隊を隷下れいかに有する旅団長や師団長、そうした旅団や師団を複数指揮下に置いている軍団長など、上位の司令官になるほど、自分で考え、作戦する能力が求められる。

 適切な教育を施すことによってこうした人材は育成できるとは言っても、当然、時間が必要だったから、徴兵制の施行がまだ準備、構想の段階であるうちから、士官の確保を進めて行かなければならなかった。

 教育期間は普通、数年は必要であるから、今から進めて行かなければ徴兵制が始まったらさっそく士官が不足するという事態が発生するのが目に見えているからだ。

 帝国の各地には、いくつか士官学校と呼ばれる、専門の教育を行う機関が存在していた。

 五人いる公爵の領地にはそれぞれ一つは必ずあったし、皇帝の直轄領にも、いくつかの士官学校が運営されている。

 中でも、帝都・トローンシュタットに存在するものが最大規模で、最も権威の高い名門校とされていた。

 数多くの士官を必要とするから、こうした士官学校に入学する生徒を増やさなければならない。

 しかし、一番の難関が、この点であった。

 学力や、資質の問題ではない。

 封建制の社会、貴族中心の体制を長年続けてきた帝国では、従来、士官学校への門戸を狭め、ごく一部の特権階級、貴族に列する者や相応の入学金を収めることのできる資本家、名士たちに限ってきていたからだ。

 帝国に国民軍を成立させるために士官を増やすためには、まず、この制限を撤廃させなければならない。

 貴族や裕福な者たちと言うのは全人口の内の一握りでしかなく、これまで通り、そうした者たちにだけ入校を許していたのでは到底、必要な数など確保できないのだ。

 平民の士官への道を開く。

 それは、避けることのできないが、実現に多くの難関を持った事柄だった。


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