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メイド・ルーシェの新帝国勃興記 ~Neu Reich erheben aufzeichnen~  作者: 熊吉(モノカキグマ)
第二十一章:「号砲」

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・21-8 第403話:「発動」

・21-8 第403話:「発動」


 タウゼント帝国において、バ・メール王国を解放するための決議を行う。

 これは、戦略上の奇襲、という観点からすると、これ以上ないほどの悪手だった。

 なにしろ敵であるアルエット共和国に対し、「これから攻撃します」とご丁寧にも予告するようなものだったからだ。

 相手にも備える時間を与えてしまうことになる。


 だが、今回はこれで良かった。

 敢えてバ・メール王国に敵を誘引し、その場で撃滅することが、タウゼント帝国の参謀本部が立てた作戦であるからだ。

 むしろ。

 しっかり準備をして、主力部隊を出して来てもらわなければ困るほど。


 そうなっても、勝てる自信を持っている。

 過去に例をみないほどの大軍の動員。

 これが、非常に効果的な、戦略レベルにおける奇襲として作用するからだ。


 これまでの先例から考えると。

 先に徴兵制による国民軍を結成していたアルエット共和国は、帝国とほぼ同等の軍を動員することが可能なはずだ。

 少なくとも二十万以上。

 三十万を超える数でも、十分に用意できる。


 だが、これらは一か所には集中できない。

 いまや共和国の周囲には敵国しかおらず、各方面に対し、防衛軍を派遣しなければならないためだ。


 彼らから見て、東には主敵となるタウゼント帝国。

 そして南にはフルゴル王国がある。

 これだけでも二正面作戦を強いられる情勢であるのに、海上優勢を喪失しているため、沿岸部のどこに対しても敵が上陸して来ることを警戒しなければならない。


 おそらく、主力として自由に動かせる軍勢は、十万程度になるはずだ。

 これを捕捉・撃滅できれば。

 彼らには、こちらの軍勢に対抗できる、まとまった戦力がいなくなる。


 フルゴル王国における半島戦役の時のように。

 各地に兵力を分散させるのではなく、一か所に集中させて守りを固め、乾坤一擲けんこんいってきの決戦に打って出る、という作戦を取って来ることも考えられた。

 だが。

 今回、彼らが守っているのは、支配下に置いている[他国]ではなく、本拠地である[自国]だ。


 共和国に、あるいは、自国民を犠牲にしてでも、と、冷酷に勝利を希求するだけの強い意志と、割り切り、そして指導力があれば、半島戦役と同様の作戦を取り、起死回生を狙えるかもしれない。

 場合によっては、焦土戦術を取り、物資を侵略側に接収されないようにしつつ、ゲリラ戦という手段によって持久戦に持ち込むことも考えられる。


 可能性としてエドゥアルドたちはそのことも考慮してはいたが、まず起こりえないだろうと見なしていたし、万が一、そういった対抗策に打って出て来ても、それを阻止する自信を持っていた。


 まず、相手には、ムナール将軍がいない。

 帝国側からの謀略ぼうりゃくと、共和国の国内政治の都合で、栄転という形で実働部隊から引き離され、今は一兵をも指揮する権限を失っている。

 彼と同様に、大胆な構想を持ち、それを実行できるだけの力量と意思を持った将官が、果たして敵にいるだろうか。


 加えて。

 帝国は今回の作戦でも、極力、現地調達という手段には頼らず、本国、あるいは同盟国からの輸送によって行動することを目指していた。


 必要な物資をすべて後方から前線まで運ぶとなると、補給線は長くなり、その運用のためには多くの機材と人員が求められる。

 これまではそのようなものを用意するのはどこの国家でも不可能であったのだが、タウゼント帝国では、一応、ひとつの戦域に対し、十万程度の軍を展開するだけなら可能とする体制を整えている。


 後方の策源地から、いくつもの中継基地を経て。

 馬車を乗り継ぎ、あるいは運河の水運を借りて、多くの物資・人員を運ぶ。

 国境から進出できる距離はせいぜい三百キロメートルといったところが限界であったが、帝国本土から辛うじて敵の首都まで届く能力がある。


 特に、海運・水運への期待が大きかった。

 イーンスラ王国のおかげで海上優勢を確保できている点を活用し、港湾を抑え、そこに海路を通じて大量輸送を行うという、半島戦役でも実施した手法だけでなく、ヘルデン大陸中に張り巡らされている運河を使った輸送力は大きく、重要視されている。


 この補給体制を最大限に活用し、多方面から同時侵攻を行う。

 そして、バ・メール王国こそが狙いのすべてだと、こちらの決議を受けてそう誤認し、主力を派遣して来た共和国軍を一気に捕捉・撃滅し、態勢を立て直す時間を与えずに急速に進撃をして、一気に敵の中枢を制圧して抵抗力を粉砕する。


 焦土作戦によって物資を現地調達できずとも、太い補給線によって補う。

 そして、ゲリラ戦によって消耗戦略を取ることを許さず、致命傷を与える。


 参謀総長・アントン・フォン・シュタムが中心となって作り上げた作戦に、勝てるという自信を得たからこそ、エドゥアルドは実行に踏み切る決意を固めることができた。


 そうして。

 帝国議会における決議を経て、戦争を終わらせるための戦争が始まった。


 堂々と、相手に見せびらかすように。

 タウゼント帝国では軍の動員が発令され、皇帝直轄の帝国陸軍および諸侯の軍勢が、定められた地点に集結を開始した。


 バ・メール王国へ直接向かうのは、ノルトハーフェン公国軍に諸侯の軍勢を加えたおよそ十万で、指揮官はエドゥアルドの従兄、ヨーゼフ・ツー・フェヒターが担う。

 彼は「自分には大軍を指揮した経験が無い」とこの役割を誇示したのだが、他に任せられるような人物も見当たらず、有能な参謀将校などを派遣することなどを条件に受諾じゅだくしてもらった。

 これに、バ・メール王国臨時政府のエリアン・シャルジュ男爵が率いる解放義勇軍数万が参加する。

 こうした北からの侵攻だけではなく、南からも攻撃を行う。

 帝国陸軍の増強を得たフルゴル王国軍十万、アルベルト王子に率いられたこの軍が南から進出し、戦略的な挟撃を行う。

 王国の解放を目指す第一段作戦、陽動は、これらの軍勢によって発動される。


 おそらく、アルエット共和国はこの動きに対抗するため、十万以上の規模の主力軍を派遣して来るだろう。

 これを、帝国側のもう一軍が側面から襲う。

 オストヴィーゼ公爵・ユリウスが率いることになっている諸侯の混成軍十万が、敵が進出して来た頃合いを見計らって第二段作戦を発動。

 グロースフルスを渡河し、東側から敵の主力軍に迫り、バ・メール王国に進出した軍と共同して撃破する。


 この第二段作戦には、ダメ押しとして、イーンスラ王国軍、およそ十万も参戦する手筈となっていた。

 アイザック・サー・クレイン大将に率いられた同国の精鋭軍は、時を見計らって海峡を突破して上陸。

 西から敵の主力軍を襲う。


 三つの方向から、それぞれが敵と同程度の規模を持った軍による包囲殲滅戦。

 敵将が優秀であっても、防ぎきることは不可能だろう。

 これで負けたらこちらも諦めるしかないといったところだ。


 そうして敵の主力を撃滅した後は、共和国が軍を再編しない内に急進し、中枢を掌握。

 こちらにとって有利な条件を強制し、戦争を終結させる。

 そういう手筈てはずを整えている。


 まだ、帝国には十万の軍が残されている。

 これは戦略的な予備として本国に置かれ、上記の作戦だけでは不十分であった場合に、もっとも効果的な局面に投入される。

 この軍の指揮は、エドゥアルドが取る予定だ。

 彼は今回も前線に出ることを当然と考えていたが、これまで何度も危ない場面があったことから重臣たちに強くいさめられ、止むを得ず従ったという経緯を持つ。


 こうして。

 万端の準備を整えたうえで、作戦は開始された。


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