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メイド・ルーシェの新帝国勃興記 ~Neu Reich erheben aufzeichnen~  作者: 熊吉(モノカキグマ)
第二十一章:「号砲」

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・21-4 第399話:「多段作戦」

・21-4 第399話:「多段作戦」


 タウゼント帝国によるアルエット共和国に対する攻勢計画は、参謀総長・アントンが主導して取りまとめられたものが採用された。

 守勢に徹しようとするアルエット共和国軍をどうにかおびき出して撃破し、敵の戦力を粉砕して短期で決着をつけようと意図するこの作戦は、複数の段階から構成されている。


 開幕の号砲を鳴らすのは、バ・メール王国でのことだ。


 同国で結成されたパルチザンが、独立を表明して蜂起。

 イーンスラ王国に亡命している臨時政府の要請を受け、こちらの軍を出動させるという手筈だ。


 この第一段階というべき作戦には、十万のタウゼント帝国軍と、バ・メール王国義勇軍の二万、そしてイーンスラ王国の海軍が参加する。

 さらに、南側においては牽制として、フルゴル王国軍とそれを支援する帝国軍、合計十万が国境地帯へと進出し、プレッシャーを加える。


 明らかに以前から計画されていたと見なせる、整然として、連携した動きと、投入される兵力の大きさから共和国に「これが主作戦である」と認識させ、彼らの主力軍を事態への対処のために投入させる狙いだ。


 だが、これは敵を誘引するための罠。

 共和国軍の主力部隊がバ・メール王国の近郊まで進出して来た段階で、第二段の作戦が発動される。


 敵が接近してきたタイミングで、これまでそれぞれの本国で待機していたタウゼント帝国軍のふたつ目の軍団十万が東から、イーンスラ王国の十万が上陸し西から進出。

 先にバ・メール王国を解放した部隊と合わせ、共和国軍の退路を遮断しつつ包囲・殲滅する。


 ここまでの戦闘で、この戦争には決着がつくはずだった。

 自らの主力軍を撃破されただけではなく、南部には十万の敵軍、そして北部には合計で三十万にもなる同盟軍が展開しているのだから、アルエット共和国には防衛する手段がない。

 予備役を動員すれば急ごしらえで一軍を編成できるかもしれなかったが、これだけでは南北から迫る敵を迎撃することなど不可能だろう。


 そして。

 帝国側には、共和国がなおも抵抗を試みてきた場合の予備作戦も準備されていた。


 一段目と二段目に投入される予定の兵力は、合計で二十五万。

 三十五万にも及ぶ総兵力の内、まだ十万が残されている。


 これを予備兵力として。

 状況に応じ、ダメ押しとして新たな戦線を形成する。


 例え共和国軍が、侵攻して来る同盟軍の内のどれかひとつを撃破できたのだとしても。

 三方向から同時に攻められれば、対処のしようがない。


 フルゴル王国の時は、こういった包囲作戦を取って窮地に陥った経験を持つものの。

 今回の戦役では、各方面に敵の主力軍と同程度の兵力を持つ軍団が展開している。

 五万余りの軍で挟撃をしようとしていた半島戦役とは違う。

 もしどれか一つを攻撃して共和国軍が勝利できたとしても、その損害は相応のものになるから、連戦を強いられ消耗しついには力尽きることになるだろう。

 加えて。

 乾坤一擲けんこんいってきの攻勢作戦に出ようとしても、三方向のいずれかの同盟軍が首都へと侵攻し、彼らの策源地そのものを消失させることができるから、一切の後方支援を失った軍は瓦解する以外にはない。


 今回の作戦の肝は、圧倒的な大軍を投入するということ、そのものにある。


 徴兵制を導入し、国民軍が編成される以前は。

 これほどの軍勢がひとつの戦争に投入されることはなかった。

 せいぜい数万程度の軍が作戦するのが常であり、十万、あるいは二十万といった勢力で衝突するのは、近年になって発生した新しい戦争の形態で、産業の発達による物資の大量生産と、農業技術の進化により人口が増加したおかげだ。


 それでも。

 同盟軍のすべてを合わせ、五十万以上での侵攻作戦は、過去に例を見ない。


 類似した先例が無いということは、その対処方法もイチから見出さなければならない、ということだった。

 いつかはそれも発見されるだろうが、しかし、それはアルエット共和国ではない。

 彼らは圧倒的な大勢力による広範な包囲作戦により、対処法を生み出す前に命脈を絶たれるだろう。


 彼らの処遇を、どうするのか。

 それは戦争の趨勢すうせいが決した後、勝者の側によって、あらためて協議され、決定される。


 独立と主権を失い、各国によってパイを切り分けられるようにズタズタに引き裂かれ、国家として消失するか。

 あるいは、領土の一部を失い、多額の賠償金を支払わされることになるのか。

 場合によっては政体を改変され、過去のような王政に引き戻される可能性さえある。


 いずれにしろ、戦勝国のなすままになるしかない。

 戦争に敗北し、自国を守る軍事力のすべてを破壊された国家の辿る運命とは、そうしたものだ。


 最悪の場合は、滅亡。

 歴史に記される一ページとなって、過去の存在となり果てる。

 そうした事態を回避できたとしても。

 過酷な運命が待っていることだろう。


 エドゥアルドは、この戦争に関しては自信を持っていた。

 外交戦の経緯もあるが、自国がヘルデン大陸において相当に優位な状態にあるという自覚を持っているからだ。


 四か国による共同作戦。

 史上に類を見ない大兵力での作戦。

 準備も入念に整えられ、資金も物資も多く確保している。

 そしてなにより。

 周辺国はほとんど帝国の味方であり、後方を気にすることなく、眼前の敵に集中することができる。


 これで負けるとしたら。

 それは、よほどのこと。

 奇跡と呼ばれるたぐいの出来事だ。


 もっとも。

 うぬぼれて、油断をすることなどできなかった。


 これまでの経緯で、エドゥアルドは。

 自分が戦争の天才にはなれないのだということはよく理解している。


 多くの味方を集め、態勢を盤石なものとしていても。

 どこかに見落としがあったり、不測の事態が発生したりする可能性は十分に考えられ、その場合は作戦の修正、そして撤兵さえ視野に入れておかなければならない。


(なに、致命的な失敗さえしなければ、いいんだ。

 そうすればまた、チャンスを作れるのだから)


 エドゥアルドは厳しい判断を迫られた際、あくまで成功にこだわらないよう、柔軟に物事に対処できるよう、そう考えることにし、自分自身に言い聞かせた。

 彼は若い。

 だから、己の未来に希望を託すことができる。

 それが若輩者の良いところだ。

 未熟ではあっても、その分、学び、やり直す機会を持っている。


 もし、この特徴を生かせなかったら。

 エドゥアルドはきっと、この後何年、権力者の座に居ようとも。

 ロクな統治者にはなることができないだろう。


(僕は、頑迷な、他を省みない指導者にはならない。

 そうなりたくない)


 謙虚に、他者から教えを請い、成長し続ける。

 これは、自分にはできる、何かを成せるとまだ信じているエドゥアルドの信念であり、誇りだった。

 現状に満足することなく、進化する。

 彼はこの時、自身の将来に夢を見ていた。


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