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メイド・ルーシェの新帝国勃興記 ~Neu Reich erheben aufzeichnen~  作者: 熊吉(モノカキグマ)
第二十一章:「号砲」

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・21-1 第396話:「外交戦:1」

・21-1 第396話:「外交戦:1」


 タウゼント帝国の建国歴千百四十年。

 エドゥアルドが二十二歳、ルーシェが二十一歳になったこの年。


 アルエット共和国との、多年に及ぶ戦争状態の解決を成すため。

 帝国では、大規模な侵攻作戦の検討が進められていた。


 投入される兵力の想定は、三十五万。

 代皇帝の意志で動かせる帝国軍、そしてノルトハーフェン公国軍の他に、諸侯の軍勢にも出撃が下令される予定だ。


 表面的には、平穏そのもの。

 人々は通常の日常生活を送っている。

 しかし、その水面下では、出兵のための準備が着々と進められていた。


 参謀本部では、作戦計画の策定。

 当然これは最高機密であり、エドゥアルドやアントンを始め、ごく限られた人員しかその存在は知らない。

 ヴィルヘルムが構築した諜報組織によって入手した情報を元に、検討がくり返され、徐々に具体化されつつある。


 だが、数年以内に、これまでにない大規模な軍事作戦が実施されるだろうと、予感している者はそれなりにいるはずだ。

 事前準備として、陸軍省では必要な物資の調達と備蓄に奔走ほんそうしており、こういった動きから想像はつけやすい。

 軍事的な動員も成されてはおらず、帝国の国内では平常通りの訓練が行われているだけだったが、戦雲の到来を感じ取り、将兵の所作には緊張感が自然とあらわれていた。


 兵器・弾薬、糧食を始め、被服などの必要な品の確保を始め、それらを輸送する運搬手段の用意。

 アルエット共和国へ向かう鉄道路線はまだ存在しないため、主に馬車や、大陸に縦横に張り巡らされた水路を活用する前提で多くの舟艇が準備された。

 これらは、運用する人員は軍の側で用意するのを基本とされたが、機材の多くは民間のものを徴用することとされ、使用に適したもののリストアップと、対価を支払う形で戦時に軍が借り上げるための制度作りが進められている。


 また、缶詰の生産も開始されている。

 メイン料理九種類・主食三種類・間食三種類というバリエーションを持ち、開発者のルーシェにちなんだメイドの意匠が刻印されたこれらの戦闘糧食は、当初の予定通り、容器を製造する企業、それに料理を封入する企業と、役割を分担して作られている。

 帝国ではまだ自覚していないものの。

 これは、国家が主導して産業チェーンを統制し、戦時生産に充てるという制度のはしりであり、今後、帝国は同様の手法を洗練させて応用していくことになるだろう。


 手作業に依存している部分が多くあったので、生産ラインから出て来る缶詰の数量はあまり多くはない。

 しかしこれはほどなく軌道に乗るだろう。

 国が主導して生産体制を構築しており、機材・人員の投入が進んでいるからだ。

 容器の生産に関しては、ヘルシャフト重工業がメインとなり、他数社で。

 中身を封入する工程には、多数の食品関連企業が参加する。

 生産はすでに昨年から、缶詰の仕様が決定してから開始されており、これまでに完成した分と合わせ、タウゼント帝国の建国歴千百四十年の半ばまでには百二十万個の缶詰が準備される予定だった。

 これは、主食用の大きな缶詰(それぞれ一日分)と、メイン料理の缶詰(それぞれ一食分)から成り、十万人の軍団がおよそ三日間、それだけで活動できる数量になる見込みだ。


 こういった戦争準備が行われる中で。

 すでに始まっている戦いもあった。


 外交戦だ。


 しかけたのはアルエット共和国の側であった。

 タウゼント帝国が中心となり、イーンスラ王国、フルゴル王国、バ・メール王国などによって包囲されているという、明らかに劣勢な状態を脱しようという努力が開始されたのだ。


 帝国において、本格的な軍事行動の予兆が見て取れる。

 国家全体で実施している、大規模な準備だ。

 その正確な意図は隠せても、当然、何かあるということは敵にも察知されてしまう。


 その矛先は、自分達に向けられるだろう。

 そう直感した共和国は、少しでも現在の不利な状況を改善しようと動き始めた。


 外交の基本として、遠交近攻というものがある。

 簡単に言うと。

 直接攻撃するのは、補給上の問題や、占領後の統治のやり易さなども考慮し、近い方がいい。

 そして隣国を攻める場合は、その背後に当たる国、遠い所に味方を作っておくべきだ。

 うまくすれば相手を挟撃することができるし、首尾よく敵を打ち破って新たに国境を接するようになった時に、その国と摩擦が生じるのを未然に防ぐことができる。


 アルエット共和国にとって、近い所にある国がタウゼント帝国であった。

 そして遠い所にある国としては、———オルリック王国や、サーベト帝国。

 加えて、つい最近独立を果たした、サーベト帝国からタウゼント帝国へと割譲された地域に樹立された、五つの国家があげられる。

 より離れたところにザミュエルザーチ王国という、ヘルデン大陸東の外れの大国があるが、こちらはさすがに遠すぎるため、結んでも敵を牽制けんせいする効果は見込めないから、対象外。


 この内、独立を果たしたばかりの五つの国は、いずれも中小の国家であり、軍事的に意味のある力量もないだけでなく、独立の経緯からいって帝国の強い影響下にあるため、興味を示されなかった。

 強力な戦力となりそうな二か国。

 オルリック王国とサーベト帝国に対して、共和国は働きを強化した。


 だが、彼らは国際情勢をまったく見誤っているというか、慌てるのが遅すぎた。

 以前から両国はタウゼント帝国、特にその国家元首である代皇帝・エドゥアルドとは良好な関係を構築しており、互いに協力している。

 いずれも、国境を接しているザミュエルザーチ王国を大きな脅威と見なしており、それに対処するため、帝国の支援を必要とし、また、敵にしないために、接近したからだ。


 エドゥアルドは以前から、周辺諸国との外交関係には気を配っていた。

 強大な敵である共和国に対して集中できるよう、背後に敵を作らず、味方とするように立ち回って来た。


 その効果が、如実に表れている。


 共和国からの外交使節を受けたオルリック王国とサーベト帝国は、外交儀礼としてそれを歓待し、拘禁などせず自由の身として送り返したものの。

 何の具体的な言質も与えず、むしろ帝国との敵対には反対する立場を表明したばかりか。

 エドゥアルドに対し、そういった接触があったことを自ら知らせて来てくれたのだ。


 この時期に行われた外交戦での勝敗は、すでに見えているようなものだった。


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― 新着の感想 ―
エドゥアルド達がやってきたことが効果を発揮し始めててワクワクしますね〜
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