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メイド・ルーシェの新帝国勃興記 ~Neu Reich erheben aufzeichnen~  作者: 熊吉(モノカキグマ)
第二十章:「道筋」

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・20-21 第392話:「栄転」

・20-21 第392話:「栄転」


 すべては、ムナール将軍を失脚させる陰謀の成否を見極めてから。

 彼がいるかどうかで、帝国軍の立てるべき作戦は大きく変わる。

 いずれにしろその時で投入できる最大戦力の動員が必要になるはずだが、敵将の存在の有無は絶対に考慮に入れなければならないほど影響して来る。

 それだけ、エドゥアルドたちは彼に痛い目に遭わされている。


 そして。

 待ちに待った成果は、サイモン伯爵との話し合いを済ませてから一か月後。

 七月になってからあらわれた。


 策謀を進めていたヴィルヘルムがやってきて、顛末てんまつを報告する。


「陛下。

 アレクサンデル・ムナール将軍は、栄転となりました」

「栄転?

 元帥号を授かった、とかでしょうか? 」

「いえ、階級は我が軍でいう大将のままでございます。

 その代わり。

 軍の実務を離れ、帝国でいう所の陸軍省の統括者として抜擢ばってきされました」


 帝国陸軍の実働部隊のトップ、最高司令部が参謀本部で、アントン・フォン・シュタムがその長であるように。

 アレクサンデル・ムナール将軍は共和国軍を統括する最高位の指揮官で、全軍に対して命令する権限を持っていた。


 それに対し、陸軍省に相当する官庁のトップに移籍となると。

 地位としては、より上。

 栄転と言える。


 しかし、軍の実務からは離れてしまうことになる。

 陸軍省で掌握しているのは兵役の管理や兵器の調達、人事や、物資の保管や移送など、各種の事務手続きを伴う業務。

 つまりは後方支援的な業務が主で、実戦部隊からは大きく遠ざけられたことになる。


「更迭、ではないのですね? 」

「はい。

 軍に関与する立場ではありますから、影響力が失われたわけではございません。

 共和国政府といたしましても、救国の英雄を更迭、という[処分]にはできなかったようでございます。

 ただ、実力だけは奪った。

 これには二つの目的があると考えられます」

「二つの目的……。

 ひとつは、暴発してのクーデターを防ぐことでしょうか? 」

「左様でございます、陛下。

 今なお国民からの圧倒的な支持を受けているムナール将軍が、自身が更迭される、となった時に、軍の指揮権を有していれば、反発し、軍を率いて政権に反旗をひるがえすことが考えられます。

 ですから表面上は栄転という形にし、軍の実権だけを奪ったのでございましょう。

 共和国政府にとって。

 ムナール将軍が圧倒的な軍民からの支持によって反乱することは、悪夢以外のなにものでもございません」


 それが、共和国政府がこちらの思惑通りに動くだろうという、策謀が成功する成算の根拠だった。

 民衆と軍隊からの圧倒的な支持を受けた将軍によって政権が打倒され、独裁権力が成立する。

 その事態を何としてでも避けたいがために、共和国の政治家たちはムナール将軍の指揮権を奪いたがっていた。


「しかし、もうひとつの理由というのが見当もつかない……。

 それはなにであるのでしょうか? 」

「地位を失ってフリーハンドを得たムナール将軍が、選挙に立候補することでございます」

「……ああ!

 そうか、それでも、クーデターを起こしたのと同じことになるのか」


 自国でも議会制度を運用し始めているというのにも関わらず。

 自分自身が選挙を経験していないがために、すっかり失念していた。


 共和国では、選挙によって国民の代表を選んでいる。

 そこで。

 地位を追われたムナール[元]将軍が、その名声と人気を背景にして立候補すれば、どうなるのか。


 当選は間違いないだろう。

 そして獲得した多数の得票数、人々からの支持を基盤として、共和制議会の中で重要な立場を占めるようになり、ほどなくトップにも上り詰める。

 そうなれば。

 結局は現在の政府を構成している政治家たちはその地位を追われ、下野することになる。


 それでは困る。

 だから知恵を巡らせたのだろう。


 クーデターを防ぐために、実戦部隊からは引きはがす。

 かといって、一念発起して政界進出、という芽はんでおきたい。


 だから、栄転。

 額面上はより高い地位への昇進という形で、ムナール将軍から実権を奪いつつ、首輪をつけ、飼いならす。


(考えたものだ……)


 エドゥアルドは素直に感心させられていた。

 敵国の政治家も、そういうことに慣れているらしい。

 巧妙だった。


 しかし、これで。


「決着をつける条件は、整った、ということですね」

「はい。

 ようやく、その時が参ったようでございます」


 呟いた代皇帝に、そのブレーンは深々とうなずいてみせる。


 帝国軍にとって。

 最大の脅威が取り除かれたのだ。


 これで、あの卓越した用兵家と対決しなくて済むようになる。

 ムナール将軍が消えてなくなったわけではないが、彼はこれから省庁のトップとして、書類を相手としていくことになる。

 もう一兵をも指揮することはない。


 共和国はこれから、防衛的な局面に入っていく。

 タウゼント帝国、イーンスラ王国、フルゴル王国、そしてバ・メール王国の臨時政府。

 それらの勢力に周辺を囲まれ、包囲されている。

 攻め込むのは帝国側、守るのは共和国側。

 つまりは、敵は地の利を得られる。

 フルゴル王国で自国の精鋭軍を喪失せずに済んだこともあり、堅実な指揮のできる将軍であれば誰でも国家を防衛できると考えている。

 だからムナール将軍という最強の[ジョーカー]、自身にとっても扱いにくいそれを自ら封印したのだ。


 だが、彼らは理解していない。

 タウゼント帝国軍がアントン参謀総長の下で改良され、徴兵制の施行によって、かつていない動員力を持つ巨大な軍隊に変貌しつつあることに。


 大量の予備役を積み上げ、有事には百万を超える軍を編成する。

 そういう構想はまだ半ばで、実現できていない。

 それでも、現状でも数十万の将兵を戦線に投入することはできる。


 共和国に対し、多方面から同時侵攻するという行為が可能なのだ。

 そしてその未曽有みぞうの攻勢に、果たして、敵は抵抗できるのかどうか。


「後は、準備を整えていくだけですね」


 エドゥアルドの言葉に、ヴィルヘルムは無言でうなずく。


 大軍を出撃させるには、入念な準備が必要だ。

 慎重に対策を練ったはずのフルゴル王国への遠征でさえ、ずいぶんと苦労させられた。

 隣国とはいえ、数十万の軍隊を注ぎ込むのには、もっともっと、周到な用意をしなければならない。


 同盟国との折衝せっしょうも必要だ。

 自国だけでも勝利できるかもしれないが、連携すればより勝算は高くなる。

 協力は必要であり、それは、できるだけ効率的に、敵にとっては最悪の形で実施されなければならない。


 国家の指導者として。

 代皇帝が背負うべき職務は大きい。


 エドゥアルドにとっては、多忙を極める日々が始まろうとした。


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