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メイド・ルーシェの新帝国勃興記 ~Neu Reich erheben aufzeichnen~  作者: 熊吉(モノカキグマ)
第二十章:「道筋」

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・20-20 第391話:「水面下:3」

・20-20 第391話:「水面下:3」


 後日。

 ヴィルヘルム以外の重臣とも話し合い、現状で帝国として何ができるのかをまとめた上で、エドゥアルドはあらためてサイモン伯爵と会っていた。


「結論から申しあげさせていただく。

 直近で、軍事行動に出ることは時期尚早であるから、見送らせていただく」


 その言葉に、伯爵はショックを受けている様子だった。

 ある程度覚悟はしていたものの。

 これほどあっきりと断言されるとは思っていなかったのだろう。


「ただし」


 言葉を失っているバ・メール王国の愛国者に、説明を続ける。


「アルエット共和国に対して勝利するため、現在、必勝の策を遂行中なのです。

 具体的な軍事行動は、その成果の後に。

 その際には、帝国軍が投入できる全軍、数十万の兵力を出撃させ、貴国を解放いたしましょう」


 うつむいていた顔があがり、希望を取り戻したように表情が明るくなった。


 すぐに出兵はしない。

 だが。

 帝国では勝利を得るために策を巡らせている最中であり、それがうまくいった暁には、全力で軍を動かしてくれるのだという。


 それは未来の話ではあったが、代皇帝の口から出たことだ。

 ある程度の効力を期待できる約束であり、実現すればバ・メール王国再興は決して夢物語ではなくなるだろう。


「へ、陛下!

 必勝の策とは、いったい、いかなるものでございましょうか?

 もしよろしければ、ご教授いただけませんでしょうか!? 」

「もちろん、隠し立ては致しません。

 両国の連携は、共和国との戦いでは必要不可欠ですから」


 もとより、すべてを打ち明けるつもりだった。

 身を乗り出してくるサイモン伯爵に、エドゥアルドはムナール将軍を失脚させるための策略が進行中であることを告げた。


「私は、これまでに何度もムナール将軍とは対決してきました。

 そしてその度に、彼の優れた用兵手腕を目の当たりにしてきました。

 帝国の勝利、ということにはなっていますが。

 オルタンシアの戦いは、実際はかなり危うく、戦場では敵将が勝っていたほどなのです。

 ですから、彼を排除します。

 軍の実権を取り上げてしまうのです。

 ムナール将軍のような天才は、そう幾人もいません。

 その力が失われた時こそ、攻勢に転じる機会となるでしょう」

「なるほど……! 」


 話を聞き終えたサイモンは双眸そうぼうを輝かせている。

 祖国奪還のための道筋が見えて来たからだ。


 彼にとっては、ここまで長い道のりであったのに違いない。

 ぼろ布に身を包み、雨水で喉の渇きを癒すほどの窮状を経験しながらも、自身が愛する故郷を再興するためにひたすら邁進まいしんして来た。

 それは、必ずしもゴールの見えていた旅路ではなかった。

 目的を果たせるのかどうか。

 確約もないなかで、成果をつかめると信じて努力を積み重ねて来た。

 何も見えない暗闇の中、手探りであがいて来たのだ。


 そこに、一筋の光明が差した。

 戦争終結への展望と、数十万にも及ぶ兵力を動員するという言葉だ。


「すぐにでもイーンスラ王国に帰国し、カレル公爵にお伝え申し上げたく存じます! 」


 胸がおどる。

 まさにそういう気持ちだろう。


 そんなサイモンに。


「はい。

 カレル公爵には、安んじて狐を追いかけていただきたいと、そうお伝えください」


 エドゥアルドはチクリと嫌味を言った。

 演技でまんまとだまされたことへの意趣返しだった。


「……ええと、その。

 陛下は、ご存じでございましたか」


 喜色が一転。

 恥ずかしそうに赤面し、バツが悪そうに伯爵は縮こまる。


「あまり帝国の諜報網を侮らないでいただきたい」


 そう釘を刺し、ふっ、と溜息を吐いて表情を和らげる。


「貴殿や、臨時政府が置かれている困難な状況は理解しています。

 目的を果たすためには、なりふり構ってはいられないというのも、よく分かります。

 ですから、これ以上の文句は申しません。

 同盟国として信頼し、共に手を携えて敵に当たるのみです」

「きょ、恐縮でございます」


 サイモンにとってはさぞかし肝が冷えた瞬間だっただろう。

 エドゥアルドの機嫌を損ね、帝国からの助力を失ってしまっては、祖国の奪還が大きく遠のいてしまう。


 騙されたことは確かに気分が悪かったが、彼らの置かれた状況を考えれば、許すことができる。

 カレル公爵が狐狩りにいそしんでいるのだって。

 実態としては、イーンスラ王国の上流階級とツテを作り、自国によい協力的になってもらうための、政治の一環なのだ。

 公爵は健康を損なってはいないものの、老骨に鞭を打ち、文字通り命がけで狐を追っている。


 エドゥアルドは彼らを責めるつもりにはなれなかった。


「ところで。

 アンペール二世の遺児、ステファン王子の行方はつかめているのでしょうか?

 共和国に連れ去られて以来、いずこかに幽閉されている、と聞いていますが」

「は、はい。

 いろいろと調べておりましたが、幽閉されている場所は判明しております。

 一応、お健やかに成長されておられるようなのですが」

「それはなによりです。

 将来の同盟者なのですから、早くお会いしたいものです。

 ……しかし、一応、というのは? 」

「それが。

 どうやら、共和政は正義、王政は悪、とする、刷り込み教育がなされているようでございまして」


 そう言うと、伯爵は表情を曇らせた。


「幼い王子は、価値観を強制されているのです。

 将来国王としてお迎えするのに当たって、良くない方向に働かなければ良いのですが」


 ステファン王子は共和国に幽閉されているが、そこで一種の洗脳教育を受けさせられているらしい。

 共和制こそが優れており、王政は劣ったものであると教え込まれている。


 子供は刷り込みが行いやすい。

 きっと、王子は教え込まれた思想を信じ込んでしまうだろう。

 だが王家の血筋を引いた正統の継承者は彼一人だけであり、サイモンたちがバ・メール王国を復興させようとする際には彼を国家元首にすえる以外の選択肢が無い。


 そうなった時に、共和国が行った思想教育がどう作用するか。

 懸念せざるを得ないことだった。


「水面下で、なんとか救出申し上げられないかと模索してはいるのですが、敵国でのことゆえ、協力者も少なく、なかなか……」

「それは、さぞ、心配でしょう」


 またもや同情してしまったエドゥアルドは、(我ながら、甘いな……)と自覚しつつも、協力を申し出ていた。


「私のブレーンとして活躍している臣下として、ヴィルヘルムという者がおり、彼に主導させて諜報網を築かせております。

 もしかすると、ステファン王子のことでも何か、手助けができるかもしれません」

「おお!

 感謝申し上げます、代皇帝陛下!

 なにからなにまで……! 」


 サイモン伯爵は感極まった様子で涙ぐむ。

 とても演技には見えなかったが、———エドゥアルドは内心で、(達者なものだ)と感心しながら、肩をすくめてみせていた。


 こうして。

 サイモン伯爵はヴィルヘルムとも話し合い、ステファン王子の救出作戦についても検討し今後も継続して協力するという約束を取り付けると。

 帝国は必ず動いてくれるという朗報を持って、バ・メール王国臨時政府が置かれているイーンスラ王国へ帰国していった。


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