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メイド・ルーシェの新帝国勃興記 ~Neu Reich erheben aufzeichnen~  作者: 熊吉(モノカキグマ)
第二十章:「道筋」

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・20-18 第389話:「水面下:1」

・20-18 第389話:「水面下:1」


 缶詰のレーションの試作と量産化に向けた試みが進められる一方で。

 帝国では、第二回の帝国議会が開催されていた。


 平民であっても、国政参加への道を切り開く。

 そういう目的で始めた政策は、第一回の帝国議会の開催で一応の形にはなったものの。

 その運用はまったくの手探りであり、お世辞にも円滑であったとは言い難く、昨年の期間中には決め切れないことが数多くあった。


 そういった部分への反省から、同盟国であり、議会制度を長く運用してきた実績を持つイーンスラ王国などからノウハウを学んで始まった第二回の帝国議会では、少しだけだが手ごたえを得られた。


 まだまだ改善しなければならないことは多くあったが、徐々に前進はしている。

 このまま行けば、帝国に議会制度を根づかせることも可能なはずだった。


 大勢の議員を前に国家元首として臨まなければならないエドゥアルドは、一点、心配していたことがあった。

 それは昨年と同様、さらなる勝利を求め、出兵を催促さいそくする機運が出て来るのではないか、というものだ。


 フルゴル王国への遠征は、帝国軍が大成功を収めた、ということになっている。

 アルエット共和国による傀儡政権かいらいせいけんを崩壊させ、同国を帝国の友好国、同盟国として復活させることができただけではなく、ムナール将軍に率いられた精鋭を退去させ、軍事的な影響力を排除したのだから、形の上ではそれ以外に表現のしようがない。


 しかし。

 当事者の見解としては、薄氷の上の勝利、といったところに過ぎない。

 もう少しで遠征軍は壊滅させられるところであったし、エドゥアルドの命さえ危なかった。


 できれば、あのような遠征はもう行いたくない。

 それが、まぎれもない、代皇帝の本心だ。


 民衆はそんな実態を知ることがないから、もしかすると、この機にいよいよ共和国との決着をつけるべきという声があがるかもしれない。

 敵は度重なる敗北によって勢力圏を縮小し、弱体化している(ように見える)のだから、今が攻め時だと思う者が出て来るのは、まったく不思議なことではなかった。


 実際には、まだまだ、準備は整っていない。


 ヴィルヘルムの提言によって開始した、ムナール将軍を失脚させ軍事指揮官の座を追う策謀はまだ成果をあげていないし、進んではいるものの共和国の国内事情についての知見は不足しているため、参謀本部はまだ十分な作戦計画を立案できていない。

 缶詰の量産化も議会が開催された四月の時点では始まってさえいなかったから、隣国とはいえ、数百キロメートル以上も国境を越えて侵攻する必要のある大規模な戦役を実行に移すのは避けたいところだ。


 同盟国との連携も不十分だった。

 半島戦役は終わったものの、フルゴル王国が体制を立て直すまでは部隊を派遣し続けて保護しなければならず、すでに兵力を使用している現状では新たな戦線を開きたくはない。

 いつごろまでに王国から軍を引き上げることができるのか、それからアルエット共和国にあらためて攻撃を加える時期はいつ頃が適当であるのか。

 また、共和国への侵攻を実行するとして、どういった作戦で行うのか。

 同盟国間で協議し、合意を形成して、連携して取り組まなければならない。


 案の定、第二回帝国議会では、共和国との戦争が議題としてのぼった。

 だが幸いにも、エドゥアルドが警戒していたほどには強硬な意見は出されなかった。


 半島戦役で勝利を得たばかりだから、ひとまずはそれで満足している、という者が多いらしい。

 勢力圏が後退したことで、ヘルデン大陸におけるアルエット共和国の脅威度は低下した、という印象もあり、昨年のようないつ火薬庫に引火するか分からない、といった雰囲気はなかった。


 とはいえ、戦争に決着をつけ、国家間の関係を正常化しなければならない、というのは変わらない。


 エドゥアルドは議会を運営するかたわら、水面下で、戦いに勝利するための工作を進めていった。


 その中でまず対処しなければならなかったのは、イーンスラ王国で設立された、バ・メール王国の臨時政府との交渉だった。

 亡命した王族や重臣を中心として結成されたこの組織は、共和国に占領された祖国の解放と再独立を悲願とし、政治的な運動を繰り広げ、義勇兵を募って訓練を行っている。

 帝国との関係も深い。

 臨時政府のために活動資金や物資を用立て続けているからだ。


 そんな彼らだったが、今年に入手からは特に動きを活発化させていた。

 半島戦役の結果、フルゴル王国が復活を果たしたからだ。


 次は、我々が———。

 その気持ちは強く、エドゥアルドの下には臨時政府の外務大臣を任命されているサイモン・ハルドゥ伯爵から、出兵を求める要請が度々届くようになっていた。


 いわく。


「多年に渡る臨時政府の努力と、陛下のご助力により、我が祖国解放の機は熟しつつあります。

 解放義勇軍は、その兵力を増し、総数で二万名近くにもなりました。

 また、故国においては志願者を募り、地下抵抗組織パルチザンの建設も進んでおります。

 もし陛下がバ・メール王国の再興のために軍を起こして下さるのなら、我らが先陣を切って進み、時を合わせてパルチザンの構成員たちが一斉に蜂起いたします。

 必ずや、王都を奪還し、祖国の解放は成し遂げられるでしょう! 」


 ただ成果を急いでいるだけではなさそうだった。

 入念な下準備を行って来たことから来る、成功する、という自信のようなものが感じられる。


 だが、エドゥアルドとしては、時期尚早だと思っていた。

 フルゴル王国の戦後処理がまだ終わってはいないし、アルエット共和国との雌雄を決するような大作戦を実行できるだけの支度は整っていない。

 なにより、敵にはムナール将軍がいる。

 彼と直接対決するのはもうこりごりといったところで、よほど有利な条件が整っていなければ、決戦は避けたいところだ。


 もし焦って出兵すれば、サイモン伯爵たちが進めて来た何年にも及ぶ苦労を水泡に帰してしまうことになる。

 大勢の人々、そして同盟国の命運がかかっている。

 タウゼント帝国を背負うだけでも十分な重荷なのに、今の彼には、ヘルデン大陸そのものの行く末がかかっていると言ってよい。

 エドゥアルドは、確信を得てから行動に移したかった。


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