・20-16 第387話:「試食会:2」
・20-16 第387話:「試食会:2」
容器の実用性の低さについて、さっそく様々な指摘が出てしまった試食会だったが、そのまま続けられた。
レーションとして提供するメニューを決定することも重要な目的であったからだ。
肝心の料理の味の方はというと。
「おお! これは! 」
「美味しい! 」
非常に好評だった。
帝国の各地で食べられている様々な肉料理を、文献を調べたり、帝都で営業しているレストランのシェフたちに事情を話して作り方を教わったり。
これに、主食としてジャガイモのパンケーキやマッシュポテト、密度を高めた黒パンなどがつく。
(よかった……! )
文字を教わってから自分で本を読んだりすることもあったが、今回ほど集中して読み込んだことはなかった。
大変だったが勉強になったし、なにより、こうやって皆に喜んでもらえたのだから、ルーシェはほっと安心し、嬉しい気持ちでいっぱいになる。
だが。
「どれもこれも、味については文句のつけようもない……。
容器を改良して使いやすくし、鉛などが溶け出さないようにできれば、軍だけでなく民間向けの商品としての販売も視野に入るほどだろう。
しかしながら……」
そう言って表情を曇らせたのは、陸軍省から派遣されてきていた官僚の一人だった。
「供給する側として、大変心苦しいことではあるが、申し上げなければなりません。
これでは、あまりにも種類が多すぎる」
「……ええっ!? 」
ルーシェはショックだった。
毎日同じものばかりでは身体に悪いし、食べる側が飽きてしまうだろう。
そう思って、一生懸命、二十一種類のメイン料理を始めとして、多様なメニューを開発したというのに。
返ってそれがイケナイというのだ。
「メイド殿が将兵のことを考え、献身的に取り組んで下さったことには、感謝しかございません。
ですから、私だって、こんなことは言いたくない。
しかし、これだけ種類が多いと、調達も、兵站上の管理も複雑になり、生産数と輸送効率を維持できない公算が大きい。
加えて、使われている食材のいくつかは高価なものですから、予算的な都合もつけづらいでしょう。
なるべく早期に缶詰を実用化し、全軍の行動食として支給できるだけの生産体制を整えるためには、もう少し種類を絞り、食材費を抑えるようにしていただかなければ、難しいと思います」
この意見に賛同する者は多かった。
主に後方で勤務する、役人や事務方の人々だ。
彼らが懸念しているのは、缶詰の種類が多すぎると軍事行動の際に必要とされる数を作りにくいということ、そしてその調達のための手続きや、輸送する際の管理業務などに要する手間が増大し、効率が悪化する、ということだった。
異なる料理ということは、使っている食材も、調理方法もみな違っている。
すなわち、二十一種類の缶詰を作るためには、二十一通りの生産ラインを用意しなければならないということだ。
材料というのは一般的に同じものを大量に仕入れた方が低コストで入手しやすくなるし、生産ラインが少ない方が管理は楽だ。
一種類か二種類、といった具合に数を絞り過ぎると、大量調達のために特定の食材だけが消費されて市場から払底する、などという事態も起こり得るから、数種類はあった方が良いのだろうが、とにかく、二十一種類は多すぎるという。
これに対して反対した人々は、軍の実戦部隊に属する軍人たちが多かった。
前線で実際にレーションを口にする立場としては、できるだけバリエーションが豊富であった方が良いに決まっている。
毎日、来る日も来る日も長い距離を歩かされ、時に雨風にさらされる、苦しい軍隊生活においては、食事は数少ない楽しみのひとつだ。
様々なメニューから食べたいものを選ぶことができ、しかもそれがすべて美味しいとなれば、兵士たちの士気も高まり、軍としての能力も向上する。
「ここは、間をとることにしよう」
紛糾する議論をまとめたのは、国家宰相のルドルフだった。
「缶詰の調達や輸送の手間を考えれば、種類は絞った方が良い。
その一方で、前線の将兵としては、メニューは多い方が嬉しいのは間違いない。
ならば、二十一種類を、半分以下の九種類程度にするのはどうだろうか。
缶詰は、敵と対峙し、作戦を遂行するための行動中に兵それぞれが携行して用いる、というのを主な用途とすれば、九種類あれば三日間は毎食異なったメニューを摂れることになる。
どのメニューを採用するかについては、これから、皆の投票で決めようではないか」
国家の重職にある者の言葉だったから影響力もあるし、落としどころとしては悪くなく、この方針で決まった。
そうして、一人が良いと思う九種類のメニューを選び、全員の意見を総合して、選ばれた数が多い順に採用される料理が決まって行った。
やはり肉料理が多い。
特にアイスバイン、そして各種のソーセージの詰め合わせといった缶詰は、今回出席した全員が一致して選んだほどだった。
ただ、使用する肉については、制限が加えられた。
材料費が割高であるため、牛肉を使用したものは一種類しか認められず、他は豚肉、羊肉、鳥肉など、より手に入りやすい食材を使う形に決まった。
これに、ジャガイモのパンケーキ、マッシュポテト、黒パンという、三種類の主食の缶詰が加わる。
間食として提案した甘味についても、三種類が定められた。
こうして。
タウゼント帝国軍のレーションとなる缶詰は、三日間の独立行動が可能となるように定められ、その間、メイン料理と間食に関しては毎日毎食異なった種類のものを口にできる、諸外国と比較して非常にバリエーションに富んだものとして産声をあげることとなった。




