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メイド・ルーシェの新帝国勃興記 ~Neu Reich erheben aufzeichnen~  作者: 熊吉(モノカキグマ)
第二十章:「道筋」

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・20-15 第386話:「試食会:1」

・20-15 第386話:「試食会:1」


 ルーシェがタウゼント帝国軍のためのレーションを考え、なんと、一週間毎食、違ったメニューを食べられ、しかも間食つきというアイデアをまとめ終えた後。

 それらをオズヴァルトが送って来た試作品の容器に詰め、エドゥアルドやルドルフ、そしてアントンを始めとする軍部の人々を呼んだ、試食会が開かれることとなった。


「多いな……」

「多いですな……」


 一日三食どころではない。

 一週間、毎回、異なった料理を食べられる。

 その豊富なラインナップに、参加した人々はみな、驚きを隠せなかった。


 彼らは国家元首や重要な役職についている要人たちだったから、庶民よりも遥かにバラエティに富んだ食生活を送っている。

 だから様々な料理を口にした経験があるのだが、こうして帝国で親しまれている多種多様な品を網羅もうらしたように目の前に提示されると、その数の多さには思わず圧倒されてしまう。


 この国には、こんなにたくさんの料理があったのか。

 普段は実感できないことを、実体として見せつけられた思いがした。


「と、とにかく、食べ比べてみましょう。

 ルーシェが考えたものだから、味は良いはずです」

「そ、そうですな。

 全部はとても食べきれませんから、少しずついただくことにいたしましょう」


 積み上げられた試作品の缶詰の山に気圧されながらエドゥアルドとルドルフがそう切り出し、試食会が始まった。


 それは、最初から行き詰った。


「ええっと。

 これは、どうやって開ければいいんだ……? 」


 今までにない新しい容器に封入されているために、どうやってそれを取り出すのかが分からなかったのだ。


 アルエット共和国で利用されていた瓶詰めであれば、瓶にコルクと封蝋で栓をしたものであったので、既存の技術の延長で分かり易かった。

 封蝋を取り除き、コルク抜きかその代用品を使って引き抜けばよい。


 しかし、缶詰は、外観だけではどこから開ければいいのかが分からない。

 ブリキ缶の容器に調理した食材を詰め込んだ後、ふたをして空気を抜き、それから、作業者がハンマーなどで叩いて隙間ができないように成形しながらはんだ付けしているために、表面はツルツルとしていて隙間が無く、まさに取り付く島もないといった状態だ。

 試食会のためにノルトハーフェン公国からわざわざ作り方を知っている職人が送り込まれて、ひとつひとつ手作業で仕上げてくれている。


 幸い、オズヴァルトが説明のために担当者を派遣してくれていたから、どうにか中身を皿の上に取り出すことができた。

 ナイフなどを使ってはんだ付けされた部分をよじってこじ開けるのだという。


「見た目は良いが……。

 これだけ開けにくいと、食べにくそうだな」

「戦場では銃剣などを持ち歩きますから、開ける道具自体はあるということになります。

 しかし、実戦を前に、銃剣をダメにされては困りますな」

「もっと別の、簡単な開き方か、道具があった方が良さそうですな」


 早速、試食会に参加した者たちからはそんな声が聞こえて来る。


「密閉するためにはんだ付けしているというのも、どうなのだろうか。

 はんだには鉛を使う。

 場合によってはそれが中身に溶け出して、鉛中毒を引き起こすのではないか」

「それに、一個一個、手作りで、ハンマーで叩きながら作らなければならないとは。

 これでは、どんなに頑張っても、一人の職人が作れる数は限られてしまう。

 全軍で使うには、もっと簡単に作れるようにならなければ、難しいのではないか」


 容器の開きにくさに加えて、はんだ付けや、容器の製造方法にも懸念が持たれた。

 いくら腐りにくいとは言っても、代わりに金属で中毒になってしまうのではお話にならない。

 溶け出すのが影響の出ない範囲に留まるのだとしても、味が余計に悪化してしまう恐れもある。


 そして、量産性も問題だった。

 試作品は手作業で調整しながら作っているので、大量生産には向かない。

 これは、将来的に有事には最大で百万を超える将兵を動員する構想を持っている帝国にとっては由々しき問題だ。

 前線に出る将兵の携行糧食と割り切って採用するのだとしても、生産性の悪さは調達の妨げとなる。

 国家宰相のルドルフなどは、この缶詰を軍用の行動食としてだけではなく、災害時や、以前海上封鎖を受けた時のような食料が不足する事態の緊急食糧としても使う構想を持っていたから、作りにくいということは大きな課題だと捉えているようだった。


 こういった手作業による製法には、別の問題点もあった。

 ハンマーで叩くという工程があるため、液体を封入できないのだ。

 ルーシェはシチューやアイントプフをメニューとして考え、用意したのだが、無理矢理缶詰に加工してもらったために職人たちにかなり大変な思いをさせてしまって反省している。


 容器については、明らかに改良が必要だ。

 目の前でその扱いにくさを見てしまっては、誰もがそう思わずにはいられなかった。


 極めつけは。


「む……。

 この料理からは、なんだか変な臭いが……」


 缶詰の試作品のひとつが腐敗してしまっていたのだ。


 それは、アイントプフを何とか詰め込んだものだった。

 ハンマーで叩いて隙間を潰しながらはんだ付けをする、という過程で、液体であるために多くが漏れ出て、そのために密封が失敗してしまったのだろう。


 すべてが手作業である以上、こういったことは度々起こり得ることであるはずだった。

 せっかく支給された食料が腐っていては、兵士の落胆はさぞや大きなものとなるだろう。

 その日一日空腹でないなければならず、しかも、戦場での数少ない楽しみを奪われてしまうのだから。


 オズヴァルトの会社から派遣されて来た担当者は、こういった話を聞き、冷や汗が止まらない様子でしきりにハンカチでぬぐっている。

 特に、具体的には何も言わないままだったが、じっと見つめて来ているルドルフからの「コレ、改善できるんだよね? 」というプレッシャーが物凄い。

 まさに針の山の上に座っているような心地がしているのに違いない。


 試食会は、順調な滑り出しとは言い難かった。


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