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メイド・ルーシェの新帝国勃興記 ~Neu Reich erheben aufzeichnen~  作者: 熊吉(モノカキグマ)
第二十章:「道筋」

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・20-10 第381話:「別件:1」

・20-10 第381話:「別件:1」


 準男爵・オズヴァルトは、パックルガンの大量受注には失敗したものの、帝国軍の次世代の装備の開発という重要な仕事を請け負った。

 後装式の小銃、並びに大砲。

 これらが完成し、量産されて実戦配備されれば、自動式火器の普及と比べれば変化は小さいだろうが、戦争の形は変わるだろう。


 やりがいのある仕事だ。

 自身の寿命が尽きた後も、あるいは、歴史に名前が残るかもしれない。

 しかも、膨大な利益が期待できる。

 自らがパイオニアになるということは、他者に対して先手を打てるということだ。

 誰かが成功を収めればみな競って追随ついずいし、自己流で、あるいは模倣もほうで、同様の性能を持った後装式の兵器を開発するだろうが、それらが出て来るまでの間は、先駆者が市場を独占することができる。

 また、重要な機構などについて特許をしっかりと確保しておけば、その特許権について発生する利益も潤沢になるだろう。


 開発に成功すれば、大量受注も約束されている。

 タウゼント帝国軍の全軍に対して支給される小銃は、訓練や経年劣化などの消耗も加味すれば、優に百万丁を越えるだろう。

 大砲も、数千、数万と、継続的に調達が続く。

 オズヴァルトが経営する工場は繁忙期を迎えるだろう。

 自身の工場だけで需要をすべてまかなえるとも思えないのでライセンス権を販売して他者の工場でも生産は行われるだろうが、受けられる恩恵は計り知れない。


 もちろん失敗する可能性もあったが、リスクは最小限。

 代皇帝・エドゥアルドから、成功報酬ではなく、試作品を生産して納入する都度、代金を支払うと約束をされている。

 つまりは、開発を行う間の試行錯誤、その過程そのものに対して、かかった費用を保証されているということだ。


 こういった新製品を生み出すには、それが完成して販売に成功するまでは一切の利潤が発生しないという課題があった。

 アイデアがあっても費用が足りず、途中で諦めたり、出来上がっている部分までの特許を売り払わざるを得なかったりして、最終的な利益を他人に奪われてしまった、という発明家の話は、この時代ではよく聞かれることだ。


 だが、今回はタウゼント帝国政府がバックアップについている。

 大きな利潤があるわけではないが、開発中もこまめに費用を補填してもらうことができる。

 リスクの小さい[投資]。

 ビジネスマンとしては、なかなか悪くない話だ。

 開発費用は実質的に国が受け持ってくれるから、自身の元々の資産は別の用途で運用できる。

 こちらにとっては、デメリットはほとんどなかった。


 パックルガンの受注が無かったことに落胆しつつも、将来的に自身の経営するヘルシャフト重工業を発展させられるような仕事を受けられたことでほっとしたオズヴァルトは、さっそく、帝都で軍の関係者たちと面会し、当面の方針を煮詰め、ノルトハーフェン公国へと帰還しようとした。


 だが、彼は呼び止められた。

 相手は国家宰相であり、エドゥアルドと知り合う以前から関係のあった、ルドルフ・フォン・エーアリヒ準伯爵だった。


「いや、オズヴァルト殿、忙しいだろうにわざわざ時間を作っていただいて、感謝申し上げる」

「いえいえ、国家宰相閣下。

 これもビジネスでございますから、ご用命いただけて感謝しております。

 それで、ご用件は?

 代皇帝陛下と参謀総長閣下からご依頼のあった、新装備の開発についてでございましょうか? 」

「いや、それとは別件だ」

「別件、で、ございますか? 」


 怪訝けげんそうに聞き返しつつ、オズヴァルトは脳内で素早く計算する。


 これから新装備の開発のために、自社で雇っている技術者たちはなにかと忙しくなるだろう。

 仕事が増えればその分儲もうけも増えるからそれに越したことはないのだが、果たして、社員たちに対応するだけのリソースがあるのかどうか。

 引き受けてから人手不足でやっぱりできませんでした、では、会社の信用が失墜し、以後の商売に大きな支障が出る恐れがある。


「恐縮ではございますが、すでに大口のお仕事をいただいておりますから。

 弊社では、人員不足で、さらなる兵器の開発は請け負えないかもしれません」


 ルドルフとの関係は良好にしておきたいが、かといって、対応できない仕事を引き受けても、評判を落とすだけだ。

 申し訳なさそうな表情を作り断りの言葉を述べると、「いや、私の方からは、兵器の開発ではないんだ」と、国家宰相は首を左右に振った。


「兵器ではない?

 わたくしは、てっきり……」

「貴殿の会社は、帝国でも有数の軍需企業。

 そう思われてしまうのも当然だろうな。

 だが、私から頼みたいのは、違うことなのだ」

「と、おっしゃいますと? 」

「貴殿が手掛けている商売は、兵器以外にも幅広い。

 鉄道事業や、鉄鋼製品などがあったであろう? 」

「はい。

 確かに、そういったことも手掛けさせていただいておりますが」

「つまり、貴殿の企業は、金属の加工に強い。

 その点を見込んで、是非とも力を借りたいのだ」

「国家宰相閣下は、わたくしめに何を作れ、と? 」


 なかなか本旨が見えてこない。

 オズヴァルトが単刀直入に問いかけると、ルドルフはうなずいてみせていた。


「軍隊向けの携行糧食の開発に関わっていただきたい」


 少し、驚く。

 というのは、鉄鋼製品の生産には強く関わって来た経験が有るものの。

 食品についてはからっきし、であったからだ。


(いや、砂糖は扱っておりましたな)


 そこで、自身が甜菜てんさい糖の特許を買い取っていて保有しており、その生産を行っていることを思い出す。

 しかし、多くの人々が甘味を好むのだとしても、それだけで兵士たちの食事のすべてをまかなえるわけではない。

 ほとんど別分野であると言えた。


「まことに恐縮ではございますが、閣下。

 わたくし共は鉄鋼産業が主体でございまして、食品の開発はあまり……」

「安心してもらいたい。

 私が貴殿に開発してもらいたいのは、携行糧食の中身、料理ではなく。

 その容器の方なのだ」


(入れ物、つまりは食器の延長のようなものだろうか? )


 それなら、自社で対応できないこともない。

 兵器とは開発分野が異なるから、人員も用立てられるだろう。


「詳しいお話をおうかがいしても? 」


 少し乗り気になったオズヴァルトは、重そうに腹の贅肉ぜいにくを揺らし、居住まいを正していた。


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