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メイド・ルーシェの新帝国勃興記 ~Neu Reich erheben aufzeichnen~  作者: 熊吉(モノカキグマ)
第二十章:「道筋」

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・20-8 第379話:「新装備:1」

・20-8 第379話:「新装備:1」


 三月になると、フルゴル王国から参謀総長のアントンが戻って来た。

 まだ帝国軍の駐留は続いているが、陸軍の実戦部隊の事実上のトップがいつまでも外国にいたのでは職務に支障が出ると重臣たちの間で意見が一致し、代わりの将官を送り、彼だけを呼び戻したのだ。


 半島戦役の戦訓についてはすでに洗い出し作業が進められていたが、帝国においてもっとも経験豊富な人物の意見を取り入れないわけにはいかない。

 帰国して早々、アントンには多忙な日々が待っていた。


 そういった、後世に残すべき教訓を整理する作業の他に。

 参謀総長の帰還を機に、エドゥアルドたちが取りかかった事業が別にあった。


 新装備の調達だ。


 オルタンシアの戦いの結果、帝国軍はある重要な気づきを得た。

 それは、後装式兵器の高い実用性だった。


 パックルガン。

 当初、運用方法が他の野砲などと共通で、リソースを取り合うことからあまり期待されなかったそれの意外な活躍は、見過ごすことができない。

 この存在が無ければ、エドゥアルドたちは敗北し、戦場で討ち取られるか、とりこにされてしまっていただろう。


 ひとつの銃身から弾丸を連続発射する、自動火器。

 その有効性には目を見張るものがあったが、しかし、このパックルガンをそのまま採用するつもりは帝国軍には無かった。

 連射できるといってもたった十一連発しかなく、発砲するのに銃手だけでな運搬員や再装填を行う人員を多く必要とするこの兵器が活躍できる場面は限られてくる。


 それに。

 もしタウロの戦場に最初から野戦砲があり、キャニスター弾を発射出来ていたら、このパックルガンと同様か、それ以上の戦果を挙げていただろう。

 しかも大砲ならば建物や城壁を粉砕する塊の砲弾も発射できるから、より汎用性があり、戦力としての価値が高い。


 このため、現状ではパックルガンをそのまま採用し、軍に大量配備する計画はなかった。

 同数の野戦砲を増備した方が使い勝手が明らかに良いからだ。


 もし、この手の自動火器を配備するとなると、もっと技術的に進歩した形式のものが必要になるだろう。

 例えば、より連射できる弾数を増やしたり、次弾の装填を容易にして途切れ目のない弾雨を形成できるようにしたり、発射速度を増したり。

 可能であるのならば軽量化・小型化をし、数人の小さなチーム、あるいは単独の兵士によって運用できるようにしたい。

 こういった種類の兵器が完成すれば、文字通り革新的なものとなり、戦争の在り方そのものを変容させるほどのものになるだろう。


 とはいえ、現状ではこういった性能のある兵器は存在しない。

 パックルガンではまだ力不足で、大量配備するほどではないし、理想的な機能を備えた未来の自動火器を実用化・生産するには、技術が足りない。

 時間をかけて開発をする必要があった。


 それとは別の所にエドゥアルドたちは着目していた。

 後装式であり、パックルガンの前方に用意した弾避けの防壁の外に出ることなく、兵員の安全を確保できるようにしながら戦うことができた、という点だ。


 これだけであれば、短期間で、エドゥアルドの治世が続いている内に実現できる可能性があった。

 全自動で何十発、何百発と発砲できる機構を生み出すのにはいくつかの技術と発想のブレイクスルーが必要そうだったが、後装式の兵器であれば、現在すでに知られている技術の応用でなんとかできそうな感触がある。


 歩兵が用いているマスケット銃の銃身は、基本的には一本の筒であった。

 その片側には頑丈なネジを締め付けて密閉して尾部とし、もう一方は開口部として銃口にすることで、火薬の燃焼による力を一定方向へと導き、弾丸を発射できるようにしている。


 つまり。

 このネジの部分を一時的に取り払って、そこから弾薬を装填出来るようにすれば、後装式の兵器は実用化できるのだ。


 とはいえ、解決しなければならない課題は多かった。


 現在、多くの兵器が前装式であるのには、理由がある。

 火薬の威力を安全に封じ込める機構を開発、量産できないからだ。


 銃を撃つ時、燃焼ガスが漏れ出てくれば、弾丸から威力が失われるだけではなく、事故になる。

 狙いをつけていた兵士の顔面に熱いそれが勢いよく襲い掛かり、失明することにつながるし、場合によっては命さえ失うことになる。


 現在使用しているマスケット銃でさえ、時折、事故が起きる。

 発砲の仕組みとしては、コックが落ちてその先端のフリント(火打石)が当り金に強くこすれ火花が散り、それが火皿の着火薬に引火し、その炎が火門という銃身に開けられた小さな穴を通って、銃口の内部に装填された火薬を爆燃させ、弾丸を撃ちだす。

 つまり銃身の後方、兵士の顔に近い所にはそもそも開口部があるということで、そこから噴出した燃焼ガスによって負傷するという事態が発生していた。

 訓練でも、実戦でも、整備不良や装填動作の未熟などにより、いつでも起こり得る。


 後装式にするために尾栓を稼働可能な構造にすると、当然、銃身の密閉性は低下する。

 事故が起こり易くなるのだ。


 こういった背景があるため、世の中には前装式の兵器があふれ、より実戦で有用な後装式の兵器は実用化に至っていない。

 オーダーメイドの特注品がわずかに存在するが、これらは機構が複雑で価格も高価であり、万単位で軍に配備するのは難しい。


 これは、帝国軍で開発に成功し、いち早く量産できれば、軍事的に大きな優位に立てるということでもあった。

 各国ともそういった動きに追随ついずいし、構造を模倣して次々と後装式の兵器を使用し始めることになるだろうが、最初のスタートダッシュが早かった分、こちらが優位に立てる。


 何年か。

 あるいは、十数年。


 軍事力の強弱の判定は相対的なもので、常に変動している。

 そして、一時的にであっても他者に勝れるというのは、大きなアドバンテージだ。

 その間は開戦する・しないという選択権をこちらで握ることができるし、仮に他国が攻め込んで来たとしても、難なく撃退できるようになる。


 そういった目論見から。

 エドゥアルドはアントンと相談のうえ、ノルトハーフェン公国からとある人物を帝都へと呼び寄せることにした。


 オズヴァルト・ツー・ヘルシャフト。

 公国の大商人であり、ヘルシャフト重工業という企業を運用している、実業家。


 建設が進む鉄道事業を主体的に運用している彼は、兵器産業でも大きなシェアを持っており、帝国軍に納入される小銃や大砲などを多く生産している。

 新兵器を開発するだけでなく、量産するノウハウも持っている、ということだ。


 彼の力を借りれば。

 あるいは、十年と待たずして、実用的な後装式の兵器の試作品が完成するかもしれなかった。


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