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メイド・ルーシェの新帝国勃興記 ~Neu Reich erheben aufzeichnen~  作者: 熊吉(モノカキグマ)
第二十章:「道筋」

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・20-6 第377話:「策略:2」

・20-6 第377話:「策略:2」


 アルエット共和国政府自身の手で、アレクサンデル・ムナール将軍から軍事指揮権を奪う。

 ヴィルヘルムが示したこの策略には、成功の見込みがあった。


 まず、主体となる敵国の政府に、将軍を失脚させたいという動機がある。

 彼らは救国の英雄をなによりも恐れていた。

 圧倒的な国民からの支持を得ているムナール将軍が政界に進出して強固な政権を確立し、やがては自己の独裁を始めるのではないかと危惧しているからだ。


 荒唐無稽こうとうむけいな話、被害妄想だとは言い切れなかった。

 本人がその気になりさえすれば、実行できてしまうからだ。


 王政を打倒するために立ち上がり、多くの犠牲を支払い、共和制を樹立したはずの国民が、再び専制政治を受け入れるはずがない。

 そう信じたいところだが、ムナール将軍が集めている支持の大きさは、危険性をはらんでいた。


 人々は自らの権利を明け渡そうとしている自覚のないまま。

 自分自身が[選んだ]と信じ、国家的な英雄を指導者として信奉してしまうかもしれない。

 場合によっては。

 国軍の最高指揮官である将軍が部下を率いてクーデターを起こしたとしても、民衆は喜んでその支配を認めてしまうだろう。


 少なくとも、共和国政府はそうなる可能性を真剣に不安視している。

 だからこそ、ムナール将軍が望むままに軍事行動を実行できないように動員する兵力に制限を加え、その活動を掣肘せいちゅうしたのだ。

 すべては、彼にさらなる功績をあげさせ、国民自身がその独裁を望むようになるという事態を阻止するために。


 現在、共和国の中枢にいる政治家たちには、恐ろしい存在であるムナール将軍を失脚させる、絶好の口実が用意されていた。


 半島戦役での敗戦。

 フルゴル王国の支配の瓦解。


 この失敗を理由とすれば、軍の指揮権を剥奪はくだつし、救国の英雄の名声を失墜させ、国民からの支持を奪うこともできるはずだった。


 おそらくヴィルヘルムは、そういうことを行おうと考えているのだろう。

 共和国の国内に張り巡らせた諜報網を活用し、敵国の政府の首班、政治家たちを誘導して、自らムナール将軍を解任させる。


 そうなれば、これまでよりも断然、戦いやすくなる。

 敵将が一人、表舞台を去ったからと言って、共和国軍自体が雲散霧消うんさんむしょうするわけではないだろうが、彼のような戦争の天才と勝敗を争うよりは、別の人物との方が勝率を高くできそうだ。

 知識や経験という以上に、個人の感覚、すなわち才能と呼ばれるものがムナール将軍の用兵術に大きく作用している以上、別の誰かが同様の指揮能力を発揮することはないだろう。

 天才というのは、そう何人もいるものではない。


 これにはあまり大きな手間もかからないだろう。

 相手にはそれを実行する理由があり、こちらから少々誘導してやれば、簡単にその方向に物事を動かすことができてしまう。


「しかし、ヴィルヘルム殿。

 こちらから教唆きょうさなり、誘導なりをしてみたところで、今の戦況でムナール将軍の実権を奪うようなことをするのでしょうか?

 我が帝国と、イーンスラ王国の同盟。

 これからはフルゴル王国もそこに加わります。

 強固な包囲網が構築されつつある状態で、共和国にとって最良の将帥を手放すのは、さすがに悪手に過ぎると考える者もいるのではないですか? 」


 もしも代わりになるような人物がいるのだったら、共和国政府はとっくの昔にムナール将軍から軍の実権を奪い、その誰かに任せていただろう。

 軍の指揮権を分散させるだけでも構わない。

 そうすればクーデターの目論見をムナール将軍が実際に抱いたとしてもその実行を牽制けんせいできるし、有能な将帥を活用できるのだから、心強い。


 だが、そうしていない、ということは、敵国には国家の英雄に代われるほどの指揮官はいない、ということであるのに違いない。


 であるのならば。

 その唯一の存在を、同盟を組んだタウゼント帝国やイーンスラ王国、フルゴル王国に包囲されつつあるという危機的な存在で、手放すだろうか。

 そんなことができるのだろうか。


「確かに、その点は、お約束できないかもしれません」


 ヴィルヘルムは率直に、自身の策略には欠点があることを認めた。


「今にも崩れかかって来そうな屋根を支えている大切な支柱を、その代わりもないのに外してしまう愚か者はいません。

 しかしながら、わたくしは、成功する確率は高いとみております」

「それは、どういう見通しなのでしょうか? 」

「共和国軍がフルゴル王国から損害を抑えたまま撤退できたからでございます」


 それはエドゥアルドにとってはぐさりと心に突き刺さる指摘だった。

 後退を開始した敵を、こちらはまともに追撃できず、大きな戦果はあげられなかった。

 自軍も兵力を損耗し、部隊の再編と補給、そして兵士たちの休息が必要であったとはいえ、せっかくの好機をふいにしてしまったのだから、後悔する気持ちは強い。


 だが、敵をみすみす取り逃したことこそが、この策略が成功する可能性を高めているのだという。


「アルエット共和国は、これから先、自然と防勢になるということを予見しておりましょう。

 戦場は自国の国内、あるいはその近隣と、勝手を知った場所となります。

 すなわち地の利がございますから、これまでムナール将軍が見せてきた、大胆不敵な機動や、意表を突いた作戦を用いずとも、堅実な戦いによって防げる。

 平凡な将校であっても基本にさえ忠実であるのなら、十分に役目をまっとうできる。

 政府の中枢にいる者たちは、そのような見通しを持っていると考えております。

 必ずしも一個人の才能に頼る必要はない、と」


 それは、かなり推測の混じった意見だった。

 共和国に構築した諜報網から得た情報の中にそう判断できるような材料があるのだろうが、結局、相手がどう動くのかは、その決断次第となる。

 こちら側で完全に制御をできるわけではない。

 策略は失敗する可能性もある。


 とはいえ。


「……試してみる価値は、ありそうですね」


 やってみて、こちらに損があるわけでもない。

 うまくして、ムナール将軍が本当に失脚し、軍事指揮権を失ったのなら、儲けものだ。


 そう考えたエドゥアルドは、タウゼント帝国の諜報部門を担うことになっていくはずのヴィルヘルムの最初の大きな任務として、この陰謀を実行に移すことを決めた。


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