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メイド・ルーシェの新帝国勃興記 ~Neu Reich erheben aufzeichnen~  作者: 熊吉(モノカキグマ)
第二十章:「道筋」

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・20-5 第376話:「策略:1」

・20-5 第376話:「策略:1」


 軍を率いて戦い、打ち破って、決着をつける。

 そういった正面対決では、勝利できないかもしれない。


 だから、策略を用いて、アレクサンデル・ムナール将軍を排除してしまう。


「何も、命を奪うだけが手立てではございません。

 政治的に失脚させ、彼を軍の指揮から遠ざけてしまえば、十分に目的を果たすことが叶います」


 暗殺という方法を主君が快く思わず、躊躇ためらっている。

 そのことを察したのか、あるいは、元から別の手段を考えていたのか。

 ヴィルヘルムは彼の構想について説明を続ける。


「アルエット共和国では、今さら申し上げるまでもなく、共和制が施行されております。

 民衆が選んだ代表者によって議会が開かれ、その場における議論の結果、国策を決定いたします。

 これは、内政だけではなく、軍事作戦においても同様です。

 この点を利用し、ムナール将軍から軍の指揮権を剥奪はくだついたします」


 歴史の陰でくり広げられてきたような、血なまぐさいタイプの策謀ではない。

 そう理解したエドゥアルドは、段々と積極的な気持ちになってきていた。


 いや、こういった手段で失脚させる、というのも、十分に卑劣ひれつな策略ではあるのだが。

 血が流れない分、ずいぶんと穏当に思えるし、実戦で真っ向から戦い、多くの将兵の犠牲を生むことと比較すれば、遥かにマシなやり方であるように思える。


「帝国国内のことではなく、外国のことです。

 どのように工作を行えば、ムナール将軍を軍の司令官という立場から失脚させることができるのでしょうか? 」

「これは、共和国の国内に諜報網を構築する過程で把握したことなのでございますが」


 ヴィルヘルムはエドゥアルドたちがフルゴル王国への遠征で忙しくしている間、帝国に残り、諜報関係の職務を遂行していた。


 戦争で勝利を得るにしても、何にしても。

 もっとも大切なのは、情報なのだという。

 それは、作戦を立て、計画を練るのに当たっての基礎になるだけではなく、こちらとあちらの置かれている状況を正確に比較し、双方の優位点、劣位点を明らかにし、そもそも勝算があるのか、敵がどのような手立てを講じて反撃して来るのかを予想する役にも立つ。


 それを得るために、ヴィルヘルムは奔走ほんそうしていた。


 タウゼント帝国とアルエット共和国は伝統的に隣国同士であり、常に敵対する可能性を考慮しなければならない関係にあったが、帝国側が本格的に侵攻し、共和国を滅ぼそうと計画したことはこれまでになかった。

 互いに国力が似通っていて、一方的に攻め滅ぼすなどというのが難しかっただけではなく、帝国はヘルデン大陸の中の強国であり、十分に国土が広く、積極的に外国に攻め込む必要性をあまり感じてはいなかったからだ。


 近年になって、革命によって成立した共和政府を瓦解させるという内政干渉を実行するため、カール十一世の主導で侵攻作戦が行われたが、その時までまともに相手国の情報収集が行われたことはない。


 その結果が、敵の領内における補給の途絶であり、ラパン・トルチェの会戦における大敗だ。


 共和国との戦争に勝利し、こちらの望む通りの戦後世界を作るためには、あの時と同様に敵国に攻め込む必要がある。

 しかし、情報収集を怠ったまま侵攻しては、また、大敗するに違いない。


 だから事前にできる限りの事柄を明らかにしておくため、ヴィルヘルムは諜報網の構築に熱心に取り組んで来た。


 そしてその成果は、軍事目的以外にも活用できるらしい。


「共和国国内の国家中枢の情勢として、ムナール将軍の立場はかなり危ういようなのです」

「国民からは確か、救国の英雄として高い支持を得ていると聞いています。

 国の中央、政府や議会においては、そうではないと? 」

「左様でございます、陛下。

 民衆から支持されている。

 まさにその点が、問題とされているのでございます」


 うなずいたヴィルヘルムは、淀みなく説明を続ける。


「共和制とは、民衆が代表を選び、国政を委ねるという制度でございます。

 そして、その民衆からの人気が高い、ということは、ムナール将軍が政界に打って出ますと、圧倒的多数の支持によって間違いなく当選する、ということでございます。

 そして、それほど多くの国民から祭り上げられる、というのは、他の政治家たちにとっては大問題です。

 もしムナール将軍に反対すれば、次の選挙で自身が蹴落とされる可能性が高まりますから。

 つまりは、共和国の議会、そしてその政府としては。

 ムナール将軍は潜在的な政敵であり、可能ならば排除したい相手なのです」


(……そういえば)


 エドゥアルドは以前、アルエット共和国軍がタウゼント帝国に侵攻して来た時のことを思い起こしていた。


 帝国が態勢を立て直す前に攻め込み、決定的な勝利を得る。

 ムナール将軍のそういった強い要望で始まった侵攻作戦だったが、これは失敗している。

 こちら側が粘り強く抵抗したというのももちろんその理由だったが、———共和国の政府があまり積極的ではなかった、というのも大きく関係していた。


 ここでムナール将軍がさらに大きな勝利を積み重ねれば、国民の支持はさらに高まり、相対的に政府の発言力は衰退し、言いなりになるしかなくなる。

 最悪の場合。

 事実上、ムナール将軍による独裁政権が誕生するかもしれない。


 そういった懸念を抱いていたために、アルエット共和国政府が大軍の投入を渋り、結果としてタウゼント帝国側が防衛に成功するという形になった。

 これには他にも事情があったのかもしれないが、間違いなく、相手国の政治情勢が作用している。


 それを利用し、ムナール将軍を排除する。


「ヴィルヘルム殿。

 貴殿がおっしゃりたいのは、敵国の政府の首班をして、共和国、いや、大陸随一の名将を更迭させる。

 そういうことなのですね? 」

「ご明察でございます」


 ヴィルヘルムの表情が微かに変化し、満足そうな笑みが浮かぶ。


(うまくすれば、できるだろう)


 決して不可能な話ではない。

 エドゥアルドはそう感じていた。


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